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作品構想と七色クッキー

 ミュリアにお風呂へ侵入されたりとか、その後も一緒に寝ようとベッドの中にまで潜り込んで来たりとか、色々とあったその翌日。

 今日も今日とて、魔法遊戯研究室にやって来た俺は、魔道具品評会に出す作品について、一つアイデアを提供することにした。


 シンプルに、チェスを作ってはどうかと。


「チェス、ですか……?」


「射的ゲームも面白かったし、すごく斬新で良いと思ったんですけど……斬新過ぎて、実際に遊ばないとどういうゲームなのか分かりにくいと思ったんですよ」


 俺は前世の記憶があるので、射的ゲームは見ただけで大体のルールもシステムも把握出来た。


 でも、ミュリアは何から何まで未知の代物だったから、モニカ先輩の説明を聞いてもなかなか理解出来ない様子だったし、慣れるまで少し時間がかかってたんだよね。


 正直、先輩も実は転生者なんじゃないかと疑うくらい見事な発想力なんだけど……見事過ぎて、時代が追い付いてない。


「その点、チェスならルールもみんな知っていますし、一つ作るだけならそこまで大掛かりな仕掛けは必要ありません。純粋に魔法技術力の高さをアピールするのが目的なんですから、残り時間を考えると妥当かなと思ったんです」


「な、なるほど……でも、どんなものにすれば……?」


「光の魔法で駒を形成して、それを動かしながらプレイするっていうのはどうですか?」


 要するに、チェスのコンシューマーゲームみたいなものである。

 盤を持ち歩くだけでどこでもやれて、駒を失くす心配もない。更にいえば、始める前や後の準備と片付けも楽。

 大人の貴族はともかく、遊びたい盛りの学生貴族にはウケがいいんじゃなかろうか?


 そういうのを抜きにしても、魔道具品評会は使われている技術が主な評価点だから、そこまで問題じゃないだろう。


「光で、駒の形を……盤のサイズを考えると干渉許容距離は三センチ程度、直感的に駒の移動箇所を指定するなら魔力操作の方が楽だけど、ただでさえ誤差許容量の少ないシステムにプレイヤーの魔力が介入する余地を挟むのは難しい、となると指での操作、ただ投影魔法に物理的な指の挙動と連動させるのは難しいし、そうなると……」


 うん、なんかスイッチが入ったみたいだ。モニカ先輩がものすごい勢いで独り言を呟き始めたかと思ったら、猛然と紙に何かを書き込んでいく。


 ちょっと集中し過ぎていて怖いくらいだし、今は邪魔しない方がいいだろうな。


「これ、もしかして今日はボクいらなかった感じかな?」


「そうかも。まあ、紹介出来ただけ良かったよ、来てくれてありがとな」


 今日はアーメド殿下が王子としての仕事で学園に来れなかったんだけど、代わりにルイスが手伝いに来てくれた。


 そのことについてお礼を言うと、ルイスは「気にしないで」と手を振る。


「魔法料理研究室の方は、今日作るものはもう作っちゃったからね。ちょうど暇だったんだよ」


「へえ、どんなもの作ったんだ?」


「ほらこれ、クッキーだよ!」


「どれど……れ!?」


 俺は、ルイスが見せたクッキーを見て目を丸くする。

 なんとそのクッキー、鮮やかな虹色をしているのだ。


 なんというか、クッキーの形をしたキャンディだって言われた方が納得がいく。


「あはは、驚いた? 魔法料理研究室って、もちろんちゃんとした料理もやるんだけど、一番は魔法を使うことで料理にどんな変化を加えられるかっていうのを研究することだから、こういうヘンテコ料理がメインなんだよね」


「な、なるほど」


 にしたって、これはびっくりだ。

 まさかここまで奇抜なクッキーを作れるとは……魔法、恐るべし。


「味は普通だよ、食べてみる?」


「え、いいのか?」


「うん。ほら」


 クッキーを指でつまんだまま、ルイスが俺の方に差し出して来る。


 俺は、口を開けてそれを食べようとして……ひょい、っと。

 隣から伸びてきた小さな口が、七色のクッキーを食べた。


「ん……確かに、普通」


 その犯人たるミュリアは、口をもぐもぐさせながら呟く。


 それを見て、ルイスは噴き出した。


「あははは! ミュリアは可愛いね、こんなことでもヤキモチなんて妬いちゃって」


「ぶぅ、だって……」


「大丈夫、ボクはミュリアのこと、ずっと応援してるんだからさ」


 ルイスがミュリアを抱き寄せて、その頭を撫で始める。

 対するミュリアも、頬を膨らませつつもまんざらでもなさそうにその手を受け入れてて……なんだか、こう……。


「……あれ、ロロン? 嘘、今度はロロンがヤキモチ!?」


「いや、違うから!!」


 予想外だとばかりに目を見張るルイスに、俺は慌てて否定する。

 けど、ルイスは何がそんなに楽しいのかめちゃくちゃ笑うし、ミュリアはミュリアでなんか照れていた。


 いやだから、違うんだって!!


「大丈夫大丈夫、ボクはちゃんと分かってるから! あ、そうだ、ミュリアがこのクッキー食べさせてあげたら? 喜ぶよ?」


「うん……分かった」


 ルイスからクッキーを受け取ったミュリアが、俺の方に近付いて来る。そして……。


「ロロン……あーん」


「あ、あー……ん……」


 この通り、手から食べさせられた。

 感想を求めるようにじっと見つめてくるミュリアに、俺はぼそりと呟く。


「まあ、その……確かに、普通の味だな。意外だ」


「うん、分かる。……ねえ、ロロン」


「ん? どうした?」


「今度は……私の手作りクッキー、食べさせてあげる……ね?」


 ちょん、と俺の唇に指先で触れて、にこりと笑う。

 そんなミュリアの妖艶な仕草にドキリとしながら、俺は頷いた。


「ああ、うん……楽しみにしてるよ、ミュリア」


「えへへ……」


 魔法料理研究室にこそ入らなかったけど、ミュリアはここ数年で料理の練習をよくしていたから、それは普通に楽しみだ。


「いやぁ、しまったな……ボクがけしかけたこととはいえ、今はコーヒーなんて用意出来ないよ、ビターチョコでも持ち歩くべきだったかな?」


「ここの光魔法の波長とこの光魔法の波長を交点Aで衝突させて、構成する幻影の魔法陣とリンクを……」


「……えっ、この空気にも全く気付かないまま作業を? すごい、この先輩、ただものじゃない……!!」


 ……何を言ってるんだ、ルイスは。

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