二人の帰り道
いまいちほっとけない、小さな先輩を助けてあげよう……くらいの気持ちで入ることを決めた魔法遊戯研究室だけど、思った以上に面白そうだ。
特に射的ゲームのシステムなんて、前世の機械製品と比べても遜色ない完成度だったし、シンプルにすごい。
気になることがあるとすれば、二つ。
一つは、なぜかミュリアがめちゃくちゃ恥ずかしそうに悶絶していること。本当にどうした?
そして、もう一つ。
俺は、アニメで“モニカ・クルース”なんて名前のキャラを、見たことがないってことだ。
まあ、見るからに戦闘関係の魔法は使えなそうだし、作る物も戦闘とは無縁の玩具やゲーム。
バトル中心で物語が進むアニメ本編に関わる余地はなかったってだけかもしれないし……ルイスの例もあるから、単純にアニメと少し違う要素の一つなのかもしれない。
ただ……この時期に出現する悪魔もいるわけだし、少し気にかけておこう。
「この装置から放たれる魔法は、全部少しずつ魔力の量と光の波長を変えていて……拡散する魔力それぞれ、別の魔水晶に反応するように、調整してるんです」
「へえ……こんな細かい調整、よく出来るな」
魔水晶は、周囲の魔力を吸収する力を持った素材で、魔法で動くアイテム……魔道具を作るなら必須となる素材だ。
そこに魔法陣を刻み込んで使うんだけど、モニカ先輩が刻んだそれはものっすごく複雑で、一体どの文節がどの文節と影響し合っているのか、さっぱり分からない。
「しっかり勉強して、練習すれば、誰でも出来るようになりますよ。戦闘魔法と違って……どれだけゆっくり時間をかけても、問題ないんですから」
後輩への指導というより、どことなく自分に言い聞かせるようなモニカ先輩の言葉に、俺は「そうですね」とだけ答えておく。
何となく、静かになった教室の空気。
それをなんとか払拭しようとしてか、モニカ先輩は大慌てで声を発した。
「え、ええと、とととにかく、今日からしばらくは、一緒に私の出す課題を作っていきましょう!! 少しずつ、慣れていけば……その、いずれは、お二人も、自分の考える、り、理想の玩具だって、作れると思いますから、その……」
「はい、その日が来るのを楽しみにしてます」
俺の隣で、ミュリアもこくこくと頷く。
その腕には、魔力を込めると動くぬいぐるみが抱っこされていて、どうやら気に入ったらしい。
そんな俺達に、モニカ先輩はぱぁっと花咲くような笑みを浮かべる。
「あ、ありがとうございますぅ!! 本当に助かりますぅ!!」
「ははは……どういたしまして」
笑顔の次は涙目になりながら、ペコペコと頭を下げる。
なんとも賑やかな先輩の姿を微笑ましく思いながら、この日はそこで解散となった。
帰り道、ミュリアと並んで歩く俺達の話題は、当然先ほどの小さな先輩と研究室の話になる。
「ミュリア、気に入ったのか? それ」
「うん……面白い。うちの子達も、こんな風にする」
「あはは、それなら、研究室でちゃんと勉強しないとな」
「うん」
お試しで作っただけの物だから、とミュリアはモニカ先輩のぬいぐるみを持ち帰らせて貰っていた。
ウサギのぬいぐるみだ。魔力を込めると耳がピコピコと動き、撫でると「きゅう」と可愛らしい鳴き声を上げる。
ミュリアは山のようにぬいぐるみを持っているので、それら全てがこんな感じになると……ちょっとホラーじゃね? と思ったのは、内緒にしておこう。
「ねえ、ロロン」
「ん? どうした、ミュリア」
「ロロンって……小さい子が好きなの?」
「ぶっ」
急に何を言い出すんだこの子は。
「私も、小さい方だし……モニカ先輩も、小さいし」
「それはたまたまだって、別に小さいのがいいとかそういうんじゃないから!」
「そうなの……? ロロンが好きなら……これ以上大きくなりたくないなって、思ったんだけど」
ぬいぐるみを抱き締めながら、ミュリアがとんでもないことを口にする。
健気で可愛いけど、本気にされると色々と問題がある発言に、思わず苦笑した。
「むしろ、ミュリアはちゃんと大きくなってくれ。あんなに小さくて弱々しかったミュリアが、今こうして大きく成長してくれたことが、俺には何より嬉しいんだからさ」
ポンポンと撫でながら、出来るだけ優しくそう諭す。
すると、ミュリアも納得してくれたのか、こくりと頷いた。
「分かった、ちゃんと大きくなる。ロロンが、今よりもっと好きになってくれるように」
「今よりもっとかぁ……そうなったら俺、本当にミュリア抜きじゃ生きていけなくなるなぁ」
「私は、もう……そうなってる」
ミュリアが俺の腕を掴んで、ぎゅっと抱き締める。
体がぴったり寄せられて歩きにくいけど、そんなこと気にならないくらい幸せな感触が腕を包んだ。
「ロロン……大好き」
「……俺もだよ、ミュリア」
ミュリアも照れているのか、ほんのりと顔が赤い。
何となく、自分でも甘酸っぱい空気を感じながら、学園を後にしようとして……不意に、声をかけられた。
「おいお前!! なぜよりにもよって、あんな弱小研究室に入った!?」
「ん?」
声がする方に振り返ると、そこには見知らぬ男子生徒がいた。
制服に縫い込まれた色が青なので、三年生か。
「魔法遊戯研究室などといういつ潰れてもおかしくない研究室より、我々近接魔法研究室の方が間違いなく君の将来の役に立つ!! 今からでも遅くない、考え直すんだ!!」
「いえ、もう決めたことなので。すみませんが」
本人にその気があるかは知らないけど、最終的には自分で活動内容が気に入って入ると決めた場所をバカにされているような感じがして、少しばかり不愉快だ。
とはいえまあ、この時期はどの生徒も新入生の勧誘にどうしても熱が入るので、これくらいで一々目くじらを立てることもないだろう。
そう思って、早々にミュリアの手を引いて退散するべく歩き出す。
「……後悔することになるぞ」
そんな俺の背に、何やら不穏な言葉が投げ掛けられたけど……聞こえなかったフリをして、そのまま帰路に着くのだった。




