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ミュリアのライバル(?)

 三年前に気持ちを伝えあったことで、ミュリアの中ではロロンとは既に婚約者になっている。

 父であるディラン公爵も、死ぬほど複雑な顔をしていたが将来的にそうするつもりだと明言していたし、実はロロンの父であるナード・ハートナーもまた、必要ならいつでも家督を譲る、何なら今すぐでいいとすら発言していた。


 要するに、ロロンが知らないだけで外堀はほぼ完璧に埋まっている。


 だがしかし、ミュリアは決して油断していなかった。

 歳を重ねるにつれ、ミュリアにも分かって来たのだ。──魅力的な男は、多くの女性から狙われる存在である、ということに。


(今までは……ロロンにとっても、私くらいしか異性はいなかったけど、学園に来たら違う。たくさん……数え切れないくらい、いる)


 ミュリアに言わせれば、ロロンより素敵な男性はいない。

 他の同年代の少女達からすれば、今のところは「悪魔を討伐して勲章を授かったらしいけど、どこまで本当なんだろう?」という半信半疑の状態なのだが、ミュリアは「ロロンを好きにならない女がこの世にいるわけがない」くらいに思っている。


 つまり……ものすごく、ロロンと異性との関わり合いを警戒していたのだ。


「魔法遊戯研究室は、ここで活動しています」


「へえー……なんていうか、思ったより小さいんですね」


 にも拘わらず、ロロンはそんなミュリアの気も知らずに、困っている少女を助けるように魔法遊戯研究室入りを決めてしまった。


 傍目にはあまり表情を変えていないが、密かに機嫌が傾いている。


「すみません、この研究室、先輩が卒業しちゃったせいで私しかメンバーがいなくて……このままだと、研究室ごと無くなりそうで……お願いします、やっぱりやめた、なんて言わないでくださいね!?」


「言わないですよ、だからそんなに泣かないでください、モニカ先輩」


「は、はいぃ……!」


 モニカ・クルース。小柄な体系、オドオドとした態度、小動物的な雰囲気を持つ少女だ。

 一目見た瞬間、ミュリアは彼女を特に危険だと直感した。


 なぜなら、昔の自分に似ているから。


(ロロンは優しいから、こういう守ってあげたくなるような女の子には弱い……私が、そうだったし……!!)


 ミュリアからすれば、ロロンが自分を助けようとした理由など、"優しいから"以外に思いつかない。

 好きになってくれた理由は、また別かもしれないが……モニカも同じような経緯を経て、ロロンのことを好きになる可能性はある。


 恋のライバル、というやつだ。

 本で読んだので、よく知っている。


(負けない……!!)


 ぐっと拳を握り締め、決意を胸にモニカの説明を聞いていく。


 最初に会った時は随分としどろもどろにしか話せなかった彼女だが、魔法遊戯研究室は本当に好きなんだろう、説明となると一気にスムーズに舌が回っている。


「先ほども説明した通り、この研究室では魔法技術を活用した玩具やゲームの開発を行っています。これまで作った製品は、所有者の声に反応して動くぬいぐるみ、光魔法を利用した射的などを作っていて……」


「へえ、ぬいぐるみは予想通りだったけど、射的ゲームも作ったんですか。ちょっとやってみてもいいですか?」


「はい、もちろんです!! 一緒にやりましょう!!」


 キラキラとした目で、モニカが操作台を動かし始める。

 流石にそれは看過できないと、ミュリアが声を上げた。


「やるなら、私がロロンとやる……!」


「ミュリアが? ずっと黙ってたから、興味ないのかと思ってたんだけど……」


「同じ研究室、入るって言った。それに……ロロンと一緒なら、なんでも楽しい」


 先ほどと同じことを口にしながら、ミュリアはロロンにしがみつく。


 果たしてモニカの反応は、とミュリアは目を向けて……。


「ほあ……わわわ……!」


 ありえないくらい、顔を真っ赤にしていた。

 ここまでの反応は予想していなかったため、ミュリアも戸惑ってしまう。


「そう言ってくれるのは嬉しいけど、これはモニカ先輩のものだし……」


「いえ!! いいです!! 私は説明だけするので、お二人で楽しんでください!!」


「そうですか? すみません、ありがとうございます」


 モニカに背中を押されるように、ミュリアはロロンとゲームに勤しむ。


 “銃”の形をした魔道具が光の弾丸を放ち、装置が放つ光の弾丸を撃ち落とす。それを二人で行い、対戦あるいは協力プレイをするというコンセプトだ。


 二つの弾丸がぶつかり合った時に生じる、光魔法の余波。それを感知した装置がスコアを加算していくのだが、恐るべきは装置の放つ弾丸の色によって、スコアに刻まれる数字が変わることだろう。


 そもそも、こうした“機械的”な魔道具自体初めて見るミュリアからすると、もはや何をどうすればこんなものが作れるのか、想像すら出来なかった。


(この子、実はすごい子……?)


 更に危機感を募らせながらも、ミュリアはロロンと射撃ゲームの協力プレイを楽しんだ。


 協力プレイ、とは言っても、二人で積み上げたスコアの合算で歴代記録を塗り替えるハイスコアを目指そう、という形なので……今までモニカ以外にこれを遊ぶ者がいなかったのか、協力プレイのスコアは一つも残っていなかったため、完走した時点でトップ確定なのだが。


「すごいです! お二人とも、息ぴったりで!」


「当然……ロロンは、私の婚約者だから」


「えっ」


 厳密には違うが、ほぼそういうことになっているので構わないとばかりに宣言し、モニカを牽制するミュリア。


 そんな彼女に、モニカは特に驚くこともなく「やっぱり……!」と手を叩く。


「とっても仲良しで、素敵だと思います。私はその、婚約者となかなかそんな風に一緒にはいられないので、羨ましいなって……あれ、どうしましたか?」


「…………」


 モニカの言葉に、ミュリアは崩れ落ちていた。


(婚約者、いたんだ……)


 ここ魔法学園は、生徒のほとんどが貴族であり……貴族のほとんどは、幼少期の内に将来を誓い合った婚約者が出来るものだ。


 世間知らず故にその考えに至らなかったミュリアは、一人で勝手にモニカをライバル視し、一人で勝手に盛り上がっていた事実に気付いて、これまた一人悶絶するのだった。


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