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ルイスとの再会

 なんか俺、首席合格だったらしい。

 えっ、ルイスは? って感じだったんだけど、まさかのラインベルク家の養子になってたから、試験は免除だったんだってさ。


 予想外過ぎて、お茶噴き出すかと思ったわ。


「本当に噴かれたらボクに直撃だから、やらないでよ?」


「やらないよ、冗談だって」


 そんな話を、俺は学園内に用意されたカフェでルイスから直接聞かされていた。

 真新しい制服に身を包み、仲良く談笑する俺達の姿は、あるいは周囲から微笑ましく映っているのかもしれない。


 実際、隣に座るミュリアが、久しぶりに再会した友人に笑顔を向ける姿は、俺から見ても大変微笑ましいからな。


 ……なぜか、俺の腕にしがみついてるけど。

 あの、ミュリアさん? こう、柔らかいのが当たってるんですが。


「まあ、ロロンが首席合格だったことに驚きはないけど……“そっち”方面は、ボクが思ってたより進捗があったみたいだね。安心したよ」


「からかうなよ……ていうか、現時点でこんなにくっ付くのは色々と問題だから、ルイスからもなんか言ってやってくれないか?」


 単に後見人として学園に推薦されるだけでなく、養子として正式な伯爵令嬢になった今のルイスなら、貴族社会に関する知識もある程度備わっているはず。


 今はまだ婚約者にもなれない子爵令息に公爵令嬢がベッタリなのは良くないということを、ルイスの口からもミュリアに教えて貰……。


「ミュリア、もっとやっちゃえ。押せば行けるよ」


「うん……!」


「こらこらこら待て待て待て!」


 何を言っとるんだこの女主人公は!?


「悪いけどボク、世界の命運より貴族の常識を優先するつもりはないからさ」


「なんで俺達の関係に勝手に世界の命運懸けられてんの!?」


「なんでって、客観的事実?」


「そんな事実ないわ!!」


 一体俺達をなんだと思ってるんだ。

 ほんとなのになぁ、なんて笑いながら口を尖らせるルイスにイラッと来た俺は、軽くその頬を抓る。


「イタタタタ、ロロン、ギブギブ!」


「ふははは、反省しろこの悪戯娘」


 少しばかり悪人面で、俺はルイスの頬をぐにぐにと弄ぶ。

 すると、なぜかミュリアが俺の頬を抓る。


「あだだだ!?」


「ロロン……そういうことは、女の子にやらないで」


「そ、そうだな、悪い」


 確かに、いくらからかわれたからって、この歳になって……まして、貴族令嬢の頬を抓るなんてことをするのはよろしくない。

 周囲にいらん誤解を与えるし、ラインベルクのリベラ伯爵だって怒るだろう。


 そう納得する俺に、ミュリアは不満な気持ちを隠そうともせずに言い放つ。


「やるなら、私にして」


「なんで!?」


 ミュリアもダメだろ、普通!!


「いいから……して?」


 じーっと、上目遣いになりながら視線で訴えかけてくるミュリア。


 以前は天然でこれをしていたミュリアだけど、最近は俺がこの視線に弱いと知って、意図的にこうして来ているような気がする。


 それが分かっていて……それでも、逆らえないのが惚れた弱みというべきか。


「わ、分かったよ……」


 ミュリアの頬に軽く指を添え、軽く摘む。

 ぷにっと柔らかく、もちもちとした感触。

 引っ張られたことで少し変顔みたいになってるのに、幸せそうにふにゃりと緩んだ目元のせいで可愛らしさしか感じない。


 お互いに無言のまま見つめ合い、ただふにふにとミュリアの頬を弄り続けて……そんな俺の耳に、ルイスの声が聞こえてきた。


「いやぁ、ボクの時とまるで違う、この甘ったるい空気よ……ブラックコーヒー頼んどいて良かった」


「……な、なんか悪い」


 普段はミルクたっぷり派なんだけどー、とかなんとか呟くルイスに謝りながら、手を離す。

 それだけで、ミュリアから「あっ……」と名残惜しそうな声が聞こえてきて……。


 くっ、耐えろ俺!! せめて、ちゃんと伯爵になるまでは!!


「なんというか、今から学園生活で苦労しそうなのが容易に想像付くね。そういえば、二人はもうどの研究室に入るか決めたの?」


「あー、研究室なぁ……ちょっと迷ってる」


「あれ、そうなの? ロロンなら、迷わず近接戦闘研究室かと思ったのに。もしくは、戦闘魔法研究室か」


 ルイスが口にした近接魔法研究室は、その名の通り近接戦闘における効果的な魔法の研究・開発を目的とした研究室だ。


 戦闘魔法研究室も似たようなもので、現在魔法戦闘の主流となっている中距離からの攻撃を想定した魔法を研究している。


 俺も、入るならその二つのどちらかがいいかなって思ってたんだ。

 片や俺のメイン戦闘スタイルだし、片や俺の苦手な中距離をカバーする術を身に付けられそうだし。


 ただ……。


「うちのリック団長が言ったんだ、学園の研究室レベルで、お前の参考になるような魔法はほとんどないだろう、って」


 学園の研究室が持つ一番の目的は、生徒達の育成だ。

 もちろん、教師の中には本気で新魔法を生み出して学会や騎士団に認められようって野心溢れる人もいるんだけど、全てでは無い。


 しかも、そっち方面にやる気に満ち溢れた先生だって、俺みたいなヘンテコ剣技を主体に立ち回る人間に合った魔法なんて、わざわざ研究しないし、させないだろうって。


「『むしろお前は、この機会にしばし戦いから離れて、自分を見つめ直す時間を持てるような研究室に入るべきだと俺は思う』……って言われてなー」


「なるほどねー。確かに、それは一理あるかも。ロロンって、ほんっっっと戦うことと訓練することと、後はミュリアのことしか頭にないし」


「あはは……」


 関わった時間で言えばさほど長くないルイスにすらそう断言されると、苦笑する他ない。


「ちなみに、そう言うルイスはどこ入るか決めてるのか?」


「ボクは魔法料理研究室! 面白そうだからね。ミュリアは?」


「ロロンと、同じところ」


「な、なるほど……」


 熱々だなぁ、なんて呟きながら、ルイスは今一度コーヒーを飲んだ。

 それ三杯目じゃないか? 飲みすぎじゃない?


「ともあれ、そういうことなら気を付けた方がいいよ。この学園、どの研究室も新入生の確保に必死だからね、特に首席のロロンは、どこもかしこも手に入れようと血眼になってるはずだから。じっくり考えたい気持ちも分かるけど、早めに決めるのをオススメするよ」


「分かってる、忠告ありがとうな」


 入学直後のイベントなら、俺もアニメで見たからよく知っている。

 ルイスを巡る、壮絶な争奪戦。その中で、確か……。


「……ルイス」


「うん? 何?」


「一応、今日から一週間くらいは警戒しといてくれ。……“これ”が出る可能性があるから」


 人差し指と小指を立てたハンドサインを、チラリと見せる。

 これは、俺とルイス、そしてミュリアの三人で共有することにした、悪魔のサイン。


 いざという時、遠くからでも即座に事情を共有出来るようにと決めておいたものだ。


 それを見て、ルイスも頷く。


「分かった。二人も気を付けて」


 こうして俺達は、不安と期待の入り交じる、学園入学直後の最初のイベント……“研究室決め”に突入するのだった。

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