学園教師達の野望(?)
ロロンが去った後、会場は騒然となっていた。
この学園の創設以来"初めて"、対魔法処理が施された特殊な的を破壊する生徒が現れたのだから、それも当然だろう。
「あれが、噂の"悪魔狩り"ですか……想像以上ですな」
「ええ、まさかあれをいとも容易く破壊してみせるとは」
「彼は一体何をしたのでしょう? トトン先生、分かりましたか?」
「いえ、全く……私には、彼が魔力を練り上げて、あの奇妙な剣の鍔をただ鳴らしたようにしか見えませんでした」
「あれは"刀"ですな、この国では珍しいですが、東方のとある国では主流な武器になっているとか。しかし、あのような技があるとは聞いた事がない」
ロロンの噂は、学園の教師達も以前から耳にしていた。
齢十にして、悪魔を討伐した少年。
それも、ルークウェル公爵家の騎士団やラインベルク伯爵家の魔法士団が壊滅するほどの力を持った大悪魔を倒し、既にラインベルクの白剣十字勲章と王家からの王剣十字勲章を授与された、ルークウェルの新しい切り札。
勲章を二つも、しかも王剣まで授与される人間など、これまでの歴史を振り返っても数えるほどしかいない。ましてそれを成人前にとなると、文句なしに史上初だ。
本当にそれに見合うのかと半信半疑だった者も少なくなかったのだが、あの凄まじい技を目にしてしまえばもう疑う余地などないだろう。
「首席合格は彼で決まりですか」
「間違いないでしょう。筆記の方も彼がトップでしたし、議論の必要はないかと」
既に、試験は全て終了している。
的を破壊するような凄まじい魔法を見せた者もおらず、筆記においても優れた成績を残したのだから、首席合格は決定事項だ。
もしこれをロロンが聞けば、ルイスはどうなったんだと疑問を覚えることだろうが……彼は、知らなかった。
実は、ルイス・ヒロルートは試験を受けていない。
“ルイス・ラインベルク”として、既に学園への入学は決定していた。
そのため、彼の知るアニメにおいてルイスが見せたド派手な魔法による的破壊というイベントも起きることはなく、その結果として、気合いを入れて本気で試験に臨んだロロンが、誰よりも目立つ流れになっている。
ロロンにとって本望ではあるのだが、これは流石に予想外だった。
「彼がどの研究室に入るか、楽しみだな」
そんなロロンについて語る教師陣の一番の注目は、ロロンが入学後にどの研究室──特定のテーマに沿って、魔法を研究するサークルや部活動のようなもの──に入るかということだ。
どれか一つには必ず入らなければならない以上、誰かは自らの担当する研究室にロロンを迎えることになる。
研究室の出した成果は、担当する教師の成果であり、ボーナスや活動費の支給額にも関わってくるため、有能な生徒をどれだけ抱え込めるかは彼らにとって最重要事項だ。
「彼のような実力者は、我が戦闘魔法研究室に入るべきだろう」
「何を言いますか、彼は剣を使っているんですよ!? 私の近接魔法研究室が一番でしょう!?」
「何の、彼のような武に秀でた者ほど、より多くの知識を得るために我が魔法史研究会にだな……」
ワイワイぎゃあぎゃあと、教師達が好き勝手に議論を交わす。
とはいえ、ここで何を言っても、最後に決めるのはロロンである。
故に、彼らの結論も自然とそこに帰結した。
「それではいつも通り、彼がどこを選ぼうと恨みっこなしということで」
「ええ、全ては彼の……"生徒"の意思に委ねましょう」
「いつもの、ですな」
教師が直接勧誘をし始めると、賄賂と脅迫紛いの事件が頻発する事態になってしまうので、何もしてはいけないと規則で決められている。
そう、"教師は"。
「彼がどこに入るのか……今から楽しみですな」
伯爵への昇爵を目指すロロンに、悪魔とはまた違う一つの戦いが待ち構えることになるのだった。




