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魔法学園入学試験

 ルイスとの出会い、大悪魔ベルフェゴールとの激闘、そしてミュリアとの思わぬ事故……事故? から三年が経ち、俺は十五歳になった。


 そう、ついに、魔法学園に入学する時がやって来たのだ。

 伯爵以上の貴族は義務教育である一方、子爵以下の貴族と平民は試験に受からないといけないから、まだ入学出来ると決まったわけじゃないんだけど。


「だからその……ミュリアさん? 試験勉強に集中させて貰えるとありがたいんですけど……」


「えー……? 邪魔してないよ? ただ、一緒にいるだけ……でしょ……?」


 ふふふ、と妖艶に微笑むミュリアに、俺はそっと目を逸らす。


 現在、俺は入学試験を受けるために、王都へ向かう馬車の中で、本を読んで勉強している真っ最中。ミュリアはそんな俺の隣にいて、ただ座っているだけだ。


 ただ……とにかく、距離が近い。

 この三年間で更に成長し、見た目は完全にアニメの……最推しだった頃のミュリア・ルークウェルと瓜二つだ。


 ただ、全く同じかというと、そんなことはない。


 顔を覆い、太ももにも届こうかというほどの長い銀髪。それを俺がプレゼントした髪飾りで留めることで片側に寄せ、視界を確保している。

 俺をじっと見つめる赤い瞳は、どこか妖艶な輝きを放っていて、世界の全てに絶望していたアニメのそれとはまるで別物だ。


 何より……人間なんて全て滅びろとばかりに嫌悪していたミュリアが、その体をほぼぴったりと俺に密着させている。


 世界一の美少女と言ってしまっても過言ではない女の子が、耳元で囁くような距離にいるのだ。

 こんな状態で集中出来る男なんて、この世にいるだろうか? 少なくとも、俺は無理。


「それに、大丈夫。ロロン、今までいっぱい頑張ってたの、知ってるから……そんなに、心配しなくても、合格する。絶対」


「……ありがとな、ミュリア」


 一夜漬けですらない試験当日の復習なんて、不安を紛らわせるためのルーティーンでしかないと、ミュリアには見抜かれていたらしい。


 ただ、“その先”については別の話だ。


「だから、ね? ロロン、ぎゅってしよ?」


「しないよ!? ミュリア、お前ももう十五歳なんだから、あんまり異性とベタベタしたらダメだぞ!?」


「ロロンだから、いいの」


 ミュリアがこの三年間で一番変わったことは何か? と言われたら、見た目以上にこの積極性だと答えるだろう。


 学園を卒業して、お父様から家督を継いだら、俺は伯爵になれるかもしれない。

 伯爵になれば、公爵令嬢であるミュリアと婚約することだって出来るとあって、三年前にお互い気持ちを伝え合う流れになったんだが……それ以来、ミュリアが俺をとにかく誘惑してくるのだ。


 絶対に手を出さない、キスだってあれ以来一度もしないと心を決めている俺をからかって遊ぶ、とんでもない小悪魔になってしまった……!!


 いや本当、どこで間違った?


「ロロン、楽しそうだな」


「そ、そんなことないですよ公爵様……」


 それこそ、所構わず父親であるディラン公爵の前でもそんな態度なんだから、俺としては胃が痛い。


 絶対零度の眼差しで俺を見つめる公爵様に、けれどその愛娘の反応は冷たかった。


「お父様……ロロンは私の婚約者なんだから、別にいいでしょ……?」


「まだ婚約者ではないからな? 卒業するまで控えてくれ」


「嫌。私はロロンと一緒になる」


 ぷいっ、とそっぽを向くミュリアに、公爵様は少し寂しそうに肩を落とす。


 それでもこれだけは言わせろとばかりに、俺をジロリと睨んだ。


「同じ学園に行くからと言って、まだ完全に認めたわけではないからな? 節度は保てよ?」


「はい……」


 俺、学園を生きて卒業出来るんだろうか?

 試験を受ける前から少しばかり憂鬱な気分になっていた俺は、気付かなかった。


 ディラン公爵もまた、俺が入学出来る前提で話を進めていたことに。





 魔法学園は、王都においては王城を除けばもっとも大きくて、何より“広い”施設だ。


 基本的には貴族、それも伯爵以上の貴族子弟向けに建てられた学園なので、三学年合わせても生徒の数は百人行かない程度なんだが……その百人のために、ありとあらゆる設備が揃ってる。


 遠方から招いた子供のための大きな寮に、数多の用途を想定して無駄に多くの教室がある校舎。

 魔法学園の名の通り、危険な魔法実験や実戦想定の強力な魔法を撃ち合うための訓練場をいくつも併設してあり、なんと魔物戦想定の雑木林まである。


 どんだけ金をかけてこの学園を建てたのか、ちょっと想像すらしたくない。


 さて、そんな学園の敷地内で、俺はミュリアと別れて試験に臨んだ。


 筆記については……まあ、それなりにちゃんと出来たと思う。ここはまあ、この三年間しっかり勉強した甲斐があった。


 で、肝心の実技試験。

 的に向かって得意な魔法をぶつけろという、アニメでも目にした定番のアレで、俺は全力を尽くすつもりで刀を構えていた。


「ふぅー……」


 こういう場面、転生者として普通は目立たないように手を抜くべきかもしれないけど、俺はそうも言ってられない。


 何せ、ミュリアのために伯爵になるという目標があってこの学園に来たんだから。変に力をセーブして、評価を落とすなんてことがあってはならない。


 そして何より……今日はまだ見てないけど、どうせこの試験には成長したルイスだって来てるんだ。


 あいつが誰よりも好成績を収めて目立つことになるのは確定なんだし、俺が何をしたところで大して変わらないだろう。


 むしろ、ルイスとかいうチート女がいてもなお、学園の人達が注目するくらいには結果を出さないと。


「ロロン・ハートナー、何をしている? 早くやりなさい」


 苦情が入っているのも気付かないまま、俺は限界まで魔力を練り込む。

 生成された魔素に、更に限界を超えて魔力を注ぐことによって生まれる反発力を、斬撃に乗せる技──神閃。


 この三年間で、俺はそれを更に発展させた。


 神速で振り抜く斬撃を、滅魔斬りの要領で伸長。同時に、対魔を想定した不殺の刃に炎の属性を付与することで、対物理・対遠距離にも対応出来るようにした、新たな必殺の一撃。その名も──


「《神炎ノ太刀(ヒノカグツチ)》」


 カチンッ、と鍔の音だけ響かせて、俺は構えを解く。

 痺れを切らした試験官が、俺に二度目の注意をしようとした瞬間……的が斜めにズレて、ゴトンと重々しい音を立てて倒れた。


「失礼します」


 試験官に一礼し、その場を後にする。

 静まり返った周囲の空気を感じながら、俺はこんなことを考えていた。


 ……やっぱり、試験向けにもう少し派手な技を習得しておくべきだったかな? と。

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