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推しとの再会

 俺が公爵家で訓練をするようになって、早一年。

 朝から夕方にかけては公爵家で基礎体力作り、夜は家で魔力回復薬をガブ飲みしながらの魔力増強訓練をひたすらに続け、俺もようやく"準備運動"を一通りこなせるようになって来た。


 成長が亀の歩み過ぎて泣けて来るね、うん。

 でもまあ、そのお陰ってわけじゃないけど、この一年で良いことが二つほどあった。


 一つは、毎日毎日公爵家から帰る前に"糸電話"で話しかけてたら、ミュリアからも答えが返って来るようになったんだよ!


 と言っても、「こんばんは」と「さよなら」の二言くらいだけど。

 それでも、半年以上無視され続けてたことを思えば、素晴らしい進歩だと思うんだ!!


 ……うん、一筋縄ではいかないとは思ってたけど、ここまで頑なとは思わなかったよ。

 悲しい。


 二つ目は、俺もようやく魔法を教わり始めたってこと。

 魔力もそれなりに増えたから、後は身体強化魔法さえ完璧に扱えるようになれば、ミュリアと顔を合わせて話すことが出来るようになる。


 そのための切り札……アニメにおいて、主人公を主人公たらしめた力も、何とか習得出来たからな。


「ふおぉぉぉ……!!」


 手のひらの上に魔力を集め、圧縮していく。

 圧縮して、圧縮して、圧縮して……どんどん魔力をつぎ込みながら固めていくと、ある一点を超えたところで、急速に安定し始める。


 そうして出来上がるのは、濃密な力を秘めた魔力の結晶、"魔素"。

 幼少期から重ね続けた訓練によって、膨大な魔力を得るに至った主人公が、その多すぎる魔力を効率よく運用するために習得した力だ。


 純白に輝くこの魔素があれば、俺でも主人公と同じレベルの魔法が使えるようになる!!


 ……と、言いたいところだったんだけど、そう上手くはいかなかった。

 この魔素、一粒作るのにもとんでもない魔力がいるから、主人公みたくポンポン量産出来ない。


 加えて……制御が難しすぎて、俺の体から少しでも離れれば、即座に霧散して消えてしまうんだ。

 いやほんと、同じことをしようとすればするほど、主人公が如何に規格外だったのか分からされるよ。


 でも……俺が今目指しているのは、あくまで身体強化魔法だ。

 魔素を体から離す必要がないこの魔法なら、今の俺でも……!!


「ぬあぁぁぁぁぁ!!」


 手のひらから取り込んだ魔素を、体内で循環させる。

 そうして全身の力を引き上げて……!!


「っ……どう、ですか!? リック団長!!」


 発動までにかかった時間、三十秒。戦闘じゃ全くお話にならないだろう。

 それでも今は、強度というただその一点が満たされていればいい。


 俺を監督しているリック団長に問い掛けると、彼は神妙な顔で頷き……。


「……いいだろう、お嬢様と直接対面するのを許可する」


「いよっしゃあ!! ありがとうございます、団長!!」


 その一言に、俺は思わずガッツポーズ。

 丸一年、七歳になるまで時間がかかってしまったけど、これでやっとミュリアに会いに行ける。


「ただし、時間は五分だけだ。それ以上はお前自身がその身体強化を維持出来ないだろう」


「うぐ……分かりました」


 鋭い指摘に、俺は不承不承頷く。


 ……とにかく早く、ミュリアと顔合わせがしたかったから、魔素にしろそれを利用した身体強化にしろ、結構無理して習得したしな。維持するの、結構キツイんだ、これ。


 主人公なら、これくらい七歳の時には容易く使いこなしてたっていうのに。はぁ。


「ともあれ、俺は早速お嬢様に会いに行って来ます!」


「分かった、気を付けろよ。くれぐれも失礼のないようにな」


「はい!!」


 リック団長の忠告に頷きながら、俺はすぐに離れへと走っていく。


 一年前、ここで死にかけたことから始まった、俺の訓練の日々。

 ミュリアにもう一度会いたい一心でここまで来たけど、いざ会えるとなるとやっぱり緊張する。


 離れのドアをノックした俺は、中に声をかけた。


「ミュリアお嬢様、俺です、ロロンです。ええと……入っても大丈夫ですか? 入りますよ?」


 一応確認の言葉をかけたけど、ぶっちゃけあまり時間に余裕もないので、すぐに扉を開けた。


 相変わらず、薄暗い屋内。

 離れとして見ると小さいけど、貴族の一部屋として見れば普通のサイズだろうか。

 その中でただ一人、俺の方を見て驚いた表情を浮かべているのは、一年前と全く変わらないミュリアの姿。


 長く伸びた銀髪。怯えたように揺れる赤い瞳。

 真っ白なワンピースの服は酷くくたびれていて、着替えもロクにしていないんだろうとすぐに察せられる。


 何なら、俺が少し成長した分、小さくなったかのようにすら感じるその子に、ゆっくりと声をかけた。


「……お久しぶりです、ミュリアお嬢様。ええと、俺のこと分かりますか?」


「……で」


「へ?」


「なんで……来たの?」


 おおっと、なんでと来たか。

 一応、この一年間毎日俺の気持ちは伝えていたはずなんだが。


「必ずもう一度、あなたの前に立って、外に連れ出すと約束しましたから。まあ、俺が一方的に宣言しただけですし、まだ連れ出すことは出来ないんですが……」


 申し訳ありません、と頭を下げる。

 そんな俺に、ミュリアは小さく頭を左右に振った。


「本気で、言ってるなんて……思わなかった、から。だって……私に近付いたら、あなたも……死んじゃうかも、しれないのに」


 あなたも、か。

 それが誰の事を指しているのかは、アニメには描写されていなかったし、誰も直接教えてはくれなかったけど……一年も通い詰めてれば、大体察せられる。


 ミュリアの母親を、これまで一度も見たことがないからな。


「死なないですよ、絶対に」


 だから、俺は断言する。

 何があっても、死ぬことはないって。


「俺はロロン・ハートナー。あなたを守るために生を受けた、あなたの騎士です」


 ベッドに腰掛けたまま動かないミュリアの下に歩み寄り、そっと手を握る。


 少し力を入れたら折れてしまいそうなほど、細くてか弱い手だ。

 こんな小さな子が、世界を滅ぼしかねない呪いの力を一身に背負ってるなんて、どう考えても間違ってるだろう。


「俺はいつまでだってお嬢様の傍にいるし、全てを懸けてお嬢様を救ってみせます。だから、どうか信じて頂けませんか?」


「…………」


 俺の言葉に、ミュリアは視線を彷徨わせる。


 まあ、いきなり信じろと言われて、信じられるわけがないか。


「すみません、そろそろ時間ですので、俺は行きます。また明日」


 いつもの挨拶を残し、立ち上がる。

 けれど……そんな俺の服の裾を、ミュリアは引き留めるように掴んだ。


 立ち止まる俺に、ミュリアは視線を合わせることなくボソリと呟いた。


「……約束、だからね。……また、明日」


「はい、また明日」


 俯いたままの顔に、どんな表情が浮かんでいるかは俺の位置から窺い知ることが出来ない。


 それでも、また来て欲しいと願って貰えるくらいには心を許してくれたのなら、この上なく嬉しいな。


 その場で小躍りしそうなくらい上機嫌になりながら、あくまで頼れるカッコイイ騎士としての自分を最後まで貫いて、俺はその場を後にするのだった。


 ……五分じゃ短すぎるから、次は丸一日耐えられるように鍛えなければと、そう思いながら。

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