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ミュリアの初めて

 ミュリア・ルークウェルの力が最初に発現したのは、産まれるよりも前──すなわち、まだ母親のお腹にある時だった。


 初めての出産ということもあり、自分自身を襲う体調不良が異常だと気付くのが遅れたルークウェル夫人は、胎児の影響だと判明した時点で既に中絶も不可能な段階に至っていたのだ。


 ただ……仮に妊娠初期からその力が判明していたとしても、夫人が子を堕ろすという選択肢を取ることはなかっただろう。


 最期の最期まで気高く、美しく、命を燃やし尽くして我が子をこの世界に産んでみせた夫人の姿は、今もルークウェル家の人々の目に焼き付いている。


 だからこそ、公爵家内部でもミュリアに対する意見は真っ二つに割れていた。


 夫人の意思を継ぎ、何とかミュリアを守り育てようと決意した者達と。

 あの素晴らしい夫人の命を奪った子供が許せないと、嫌悪の感情を抱く者達に。


 ただ、その火種が公爵家内部に陰を落としているかというと、そうとも言い切れなかった。


 どちらの意見を持っていようと、ミュリアに近付ける者など誰もいなかったからだ。


 今日、この日までは。


「ロロン……ロロン……」


 つい先ほどまでここにいた少年の顔を思い浮かべ、ミュリアは何度もその名を呟く。


 ミュリアの持つ呪いがこれまで奪った命は、生まれた直後に亡くなった母だけだ。

 その意味で、彼女が自分の力の恐ろしさを本当の意味で自覚した初めての相手が、ロロンという少年だった。


 何もしていないのに、ただ近付いただけの子供が悶え苦しみ、その命を散らしていく。

 その光景は、ミュリアの心に深い影を落としていた。


 こんな力を持つ自分なら、嫌われるのも仕方ない、と。


「どうして……私なんかに……」


 ミュリアにとって、心の底から味方だと言える人間は誰もいない。

 一体誰が、近付くだけで命を奪われるような呪われた子供と仲良くしたいと思うだろうか?


 少なくとも、自分だったら嫌だろうと想像出来るくらいには、ミュリアは賢い子供だった。


 だというのに……ロロンは、そんなことは知らないとばかりに、この一年間ミュリアと話すために毎日欠かさず離れにやって来るのだ。


 顔を合わせることもなかったし、ミュリアから返した言葉もほとんどない。

 なのに、飽きもせず毎日毎日、しつこいくらいに話しかけて来て……ついに、正面から顔を合わせた。


 一年前に倒れていた姿より一回り大きくなり、明らかにガッシリとした体格になった彼は、自らを騎士だと名乗って目の前に跪いた。


 傍にいると。

 必ず救い出すと。

 これまでもしつこいほど聞かされた言葉を、今度は直接伝えられた。


 一度は死にかけた呪いの力を、その宣言通りに乗り越えてみせた上で。


「ロロン……」


 自分の感情を持て余すように、ミュリアはベッドの上で転がる。


 普段はただ換気用の窓から空を眺めたり、ぬいぐるみに絵本を読み聞かせるなどして時間を潰すところだが、今日はそんな気分になれなかった。


「早く……明日にならないかな……」


 その気持ちをなんと呼ぶのかも分からないままに、ミュリアはベッドの中で目を閉じた。


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