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ミュリアからのプレゼント

 勲章の授与も終わったので、俺はルークウェル領に帰って来た。


 アーメド殿下が俺を伯爵にしてくれるとか言ってたけど……まあうん、そう上手く行くはずもなく、普通に断られたみたいだし。


 ただ意外なのは、完全に無理ってわけでもなさそうだったことだ。


 ──その話は、ロロンが学園を卒業して成人となり、家督を継いで正式な子爵となってから、改めて協議しようではないか。アーメドの指導も、“友人”として共に励むという形でなら問題はない。


 陛下が口にしたその言葉からして、俺のことを相当信用してくれているのは間違いない。

 最短でも学園卒業後、っていう条件は付いたけど、逆に言えば現時点でもそこまで待てば伯爵になれるかもしれないんだ。


 アーメド殿下の友人として更に仲良くなって、学園でも伯爵位に相応しいと思って貰えるだけの成績を残して……更なる悪魔討伐に貢献出来たなら、本当に伯爵になれるかもしれない。


 そんなわけで、俺個人としてはとても充実した王都旅行になったし、ご機嫌のまま公爵家の屋敷の中に立ち入った。


 もはや、ハートナー家の実家以上に“我が家”って感じがして、なんだかホッとするな。


 さて、いつもみたいにミュリアが突撃して来るかな……と思ったけど、意外にも最初に俺を出迎えたのはディラン公爵だった。


「ロロン、よくぞ戻った。その勲章、よく似合っているぞ」


「ありがとうございます、公爵様」


 授与式ということもあって礼服姿だった俺の胸には、ラインベルクで貰ったら白剣十字勲章と、王都で貰った王剣十字勲章が輝いている。


 色としては銀と金で、装飾品としてはちょっと派手過ぎる気はしないでもないけど、伯爵になりたいと思うならこういうのを集めて実績を積まないとだから、喜ぶべきなんだろう。


 と、そんな話をしていると、公爵の後ろからミュリアが顔を覗かせる。


「ロロン……おかえり……」


「ただいま戻りました、お嬢様」


 一応公爵様の前だし、と丁寧な言葉遣いで笑いかけると、ミュリアはもじもじと何やら躊躇うように視線を彷徨わせ始めた。


 どうしたんだろうかと首を傾げていると、ディラン公爵が娘の背中を押して前に出す。


「どうやら、娘からプレゼントがあるらしい。受け取ってやってくれ」


「えっ!? そうなんですか!?」


 そういえば、ラインベルク領でも今度俺にプレゼントを、みたいな話になってたっけ。


 ミュリアからのプレゼントなんて、それがたとえどんなに酷い物だったとしても狂喜乱舞して家宝にする自信がある。

 一体なんだろう、と期待する俺の眼差しに、ミュリアは恥ずかしそうに顔を赤くする。


「その……あまり上手に、出来なかったけど……笑わない、でね……?」


「笑うわけないだろ! ミュリアからのプレゼントだっていうだけでもう嬉しい!」


「そっか……えへへ……」


 思わず素の口調が飛び出してしまったけど、その甲斐あってか、ミュリアは意を決して懐からある物を取り出した。


「これ……騎士の、お守りで……腕に結ぶと、良い事あるって……ロロンに、あげる……!」


 糸を編み込んで作った、ミサンガに似たお守り。

 持ち主に災いが降りかかりそうになった時、代わりに千切れることで守ってくれるという……前世の世界でもあったような、よくあるタイプだ。


 でも……少しでも気に入って貰えるようにと工夫したんだろう、色とりどりの糸で作られたそれは、すごく綺麗で可愛らしい。


「ありがとう、ミュリア。大事にするよ」


「えへへへ……」


 実際に腕に巻いてみせると、ミュリアは嬉しそうに表情を綻ばせる。


 もう一生外したくない……と、そんなことを考えていると、ミュリアは再びもじもじと両手の指先を弄り始めた。


「それで……ね? 実は、もう一つプレゼントがあって……」


「えっ、二つもあるのか?」


 ディラン公爵も知らなかったのか、少し驚いているように見える。

 お守りだけでも嬉しいのに、一体何をくれるのかとワクワクしている俺の前で、ミュリアはリボンを一つ取り出した。


 それを、自分の首に巻き付けて……って、え?


「私を……あげる。今日一日、その……ロロンの、好きにして……いいよ……?」


 耳の先まで真っ赤に染まった顔で、ミュリアが上目遣いにとんでもない爆弾発言をぶち込んでくる。


 当然、俺は完全に頭が真っ白になり、固まってしまった。


 ……えっ、何をくれるって? ミュリア自身を? 今日一日好きにしていい!?


「ロロン……」


 ディラン公爵が、感情の見えない目でじっと俺を見つめて来る。


 いや待って公爵様、誤解です、俺は何もしてないし言ってないしこれからするつもりもありません、だからその荒ぶる魔力をちょっと鎮めて貰えません!?


「嫌……だった? クロウが、ロロンはこういうの喜ぶって……」


 あいつかよぉぉぉぉ!!

 あの野郎、純粋なミュリアに何をとんでもないこと吹き込んでくれてんだ!?


 公爵様が「なるほど、クロウ……あいつが……」とか言ってるぞ!? どうなっても知らんからな!?


 でも今は、クロウの首がどうなるかってことより、目の前の問題にどう対処するかの方が大切だ。


 ミュリアがあいつから何を言われたかは知らないけど、悲しそうに目を伏せる今の姿を見て断るなんて選択肢を取れるわけがない。


「嫌じゃないよ、ミュリアと一日一緒に過ごせるなんて、嬉しいに決まってる」


 秘技。“一日好きにしていい”を“一日一緒に過ごす”にそれとなく誘導する作戦。


 こうすることによって、俺はクロウと違って、やましい気持ちなど何もないと公爵様にアピールを……!


「よかった……えへへ、今日一日、ずぅっと一緒だよ。お風呂で、背中も流してあげるね……!」


「……お、おう」


 やっぱり、アウトかもしれん。


 俺の首と胴が、明日も無事に繋がっていることを祈りながら、俺は小さく頷くのだった。

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