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王子との勝負

 アーメド殿下に連れられて向かった訓練場には、既に多くのギャラリーが揃っていた。

 まあ、事前に用意してたって言ってたし、最初からこうするつもりだったんだろうな。


「僕が相手だからと、遠慮する必要は無い。悪魔を倒したという君の力を、僕に見せてくれ」


 アニメにおいて、アーメドというキャラはとにかく強者に目がなかった。

 王族として、普段から抑圧的な暮らしをしている彼にとって、剣と魔法による闘争だけが己を偽ることなく表現出来る唯一の手段だと思っている。


 ただ……王子の身である彼を相手に、本気で戦ってくれる人間なんてほとんどいない。


 だから、本気で戦ってくれたルイスのことを気に入って、学園で何かと支援してくれるようになるって展開だったんだけど……。


「ルイスには悪いけど……ここは、俺がその展開を貰うか」


 ミュリアに告白したければ、伯爵にならないといけない。

 だったら、アーメド殿下に気に入られるのはすごく大きな意味を持つし、上手くすれば後ろ盾になって貰えるかもしれない。


「殿下」


「何かな?」


「……本当に、本気でやっていいんですね?」


「ああ、もちろんだ。いつでも来い」


 ワクワクと、期待に胸を踊らせている様子のアーメド殿下に、俺は「承知しました」と短く呟き構えを取る。


 とにかく俺の技を見たいんだろう、攻めではなく受けの構えを取ったアーメド殿下に対して、俺は腰を落として突撃体勢。


 魔力を魔素へ、そこから更に大量の魔力を込めて、必殺の一撃を準備する。


「行きます。──《神閃》」


 限界を超えて凝縮された魔力の反発が、俺の動きに瞬間的な爆発力を生む。


 大悪魔ですら、初見ではギリギリ回避するので精一杯だった攻撃だ。言っちゃなんだけど、まだ十三歳の王子が対応出来るはずもない。


「は……?」


 パキン、と軽い破砕音を響かせて、アーメド殿下の剣が折れた。


 何が起きたのか、理解すら及んでいないんだろう。呆然と立ち尽くす殿下の背後で納刀し……落ちてきた剣の先を掴み、彼の首に突き付けた。


「これで……俺の勝ち、ですよね?」


 シーン、と静まり返った訓練場の中で、俺の声だけがやたらと響く。


 これで、俺はアーメド殿下から一目置かれる……と、思ったんだけど。


「……くっ、うぅ……!」


「え? あの……で、殿下?」


 なんと、アーメド殿下が泣き出した。

 流石にこの展開は想定外すぎて、俺は頭の中が軽くパニックになる。


「くそぉぉぉぉ!!」


「ちょっ、殿下!?」


 そうこうしているうちに殿下は走り去り、後には俺と、集まったギャラリーだけが残されてしまった。


 いや、あの……気まず!!





「はあぁ……どうしよ、本当に……」


 あの後結局、アーメド殿下と会うことも出来ないまま授与式を迎え、陛下から王家の紋章が入った“王剣十字勲章”を授与された。


 殿下を泣かせた話を聞いたお父様が卒倒して、式に参列すら出来ないとかいうトラブルはあったけど……それ以外は何事もなく終わった。終わってしまった。


 伯爵になると決めたはいいものの、いきなり暗礁に乗り上げてしまった気分だ。


「ある意味、ミュリアをただ守るより難しいな……」


 ただ強くなれば、ミュリアを狙う悪魔を討伐すれば良かったこれまでと違って、爵位を上げるっていうのはそう単純じゃない。


 それが分かってるからこそ、アーメド殿下と仲良くなっておきたかったんだけど……彼がアニメ本編と違い、まだ十三歳の少年でしかないということを失念していた。


 ほぼ小学生みたいな歳の男の子を、ただボコって仲良くなれるわけないだろ。

 人生二週目のルイスと、精神的に幼いことが最初から分かりきってたミュリアっていう両極端としか関わったことがなかったのが裏目に出た。


「……おい君、ロロン」


「うん? ……あ、アーメド殿下!?」


 ほんとにどうしよ、と訓練場の一角で黄昏ていたら、当の本人が現れた。


 初対面の時よりいくらか笑顔の仮面が剥がれ、どことなくぶすっとした表情の彼は、俺が慌てて臣下の礼を取ろうとするのを手で制する。


「やめてくれ、僕は君に負けたんだ、そこまで畏まられるような存在じゃない」


「そう言われましても……」


 言っちゃなんだが、模擬戦で一回圧倒した程度で、子爵家の息子が王子殿下に偉そうな態度を取れるわけがない。


 一方で、アーメド殿下はそう思わなかったのか、どこか消沈した様子で口を開いた。


「ロロン、君のお陰で、僕は自分がどれほど驕り昂っていたか気付かされた。世界は……こんなにも、広かったのだな」


「はぁ……」


 俺一人で世界の広さを感じるのも、どうかと思うけど。


 ルイスとか、俺よりずっと強いし。


「ロロン、僕は改めて自分を見つめ直し、鍛え直したい。どうか、僕の師匠になってくれないだろうか!?」


「はい!?」


 いきなり何を言い出すんだ、この王子。こんな展開、俺も知らないんだけど!?


「あの、王族の指南役になれってことですか? あんなの、近衛の中でも特に選ばれた人間しかなれない役職ですよ!? 俺がなれるわけないじゃないですか!!」


「君より強い近衛などいない!!」


「いますよ!?」


 多分。いや、流石にいるでしょ。


「そもそも、俺が指南役になれないのは、実力ではなく身分の問題です。たかが子爵家の息子では近衛に入れませんし、当然その立場を前提とする指南役にはなれません!!」


「ならば、僕が入れてやる」


「無理ですって! せめて伯爵にでもならないと……」


「伯爵になればいいのか? ならば、僕が父上にそう頼んでやろう」


「だから……え?」


 思わぬ展開に固まる俺へ、アーメド殿下はごく当たり前のように言ってのけた。


「大悪魔を二体も屠っているのだろう? ならば十分ではないか! 僕が父上に言って、君を伯爵にする!! だから、僕の師匠になってくれ!!」


 あまりにも予想外の形で、今の俺が何よりも欲しい報酬をチラつかされて。


 俺はハッキリ断ることも出来ず、完全に停止してしまうのだった。

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