ロロンの決意と王子殿下
ラインベルク領から帰って、ほとんど間を置かずに王都へ向かうことになった。
お父様との二人旅。ミュリアは、帰ったばかりということもあってルークウェル家に残ることに。
ミュリア本人は来たがってたんだけど……まあ、ただ勲章を受け取りに行くだけだし、何より。
俺自身が心の整理を付けるためにも、ちょっと距離を置きたかったのはある。
「変な誤魔化しして出て来ちゃったし、ミュリア怒ってるかなぁ……はあぁ……」
「俺はあんまり下手なこと言える立場じゃないが……お嬢様のこと嫌いなわけじゃないんだろう? 何を悩むことがあるんだ。結婚出来ないとしても、それは家の都合だぞ」
「んな無責任なこと出来ないよ。俺は……ミュリアを傷付けたくないし、幸せにしてやりたんだ」
ミュリアの気持ちに半端に応えて、結局一緒になれませんじゃ無駄に期待させるだけになる。
そんなの嫌だよ。応えるならちゃんと、最後まで……。
「なら、やっぱり伯爵になるしかないんじゃないか?」
「…………」
随分と簡単に言うお父様に、若干イラッとするけど……でも、その通りなんだよな。
ミュリアの気持ちに応えて、万事丸く収めたいと思うなら、俺がミュリアに釣り合う男になればいい。
ただ、うん……それをハッキリ言えなかったのは、結局"俺の心の整理がついてなかったから"に尽きる。
要するに、ミュリアが恋愛的な意味で俺を好きになるなんて、全く思ってなかったんだよ。
「我が息子ながら、どうしてそれが想像出来なかったのか全く俺には理解出来ないんだが? お前、自分がやったこと胸に手を当てて考えてみ?」
「ぐぅ……客観的に見ればそうかもしれないけど、まだ当分はそういうの理解出来てないだろうなって……」
「いつまでも子供じゃないってことだ。お嬢様ももう十二歳だろ? 覚えとけ、女ってのは成長が早い生き物なんだよ」
久しぶりに、お父様から大人らしいアドバイス貰ってる気がする。
俺も、心は大人のつもりだったけど……はぁ、子供の経験ばっかり積み上げたところで、大人になれるわけじゃないってことか。
「で、どうなんだ? お前はお嬢様のこと、どう思ってるんだ? 立場とかそういうのは関係なく」
「……そんなの、決まってる」
あれこれ言い訳してるけど、まっさらな気持ちを聞かれたなら……俺の答えは、一つだ。
「好きだよ。世界中の誰よりも」
……そうだな。口にすれば、簡単なことだった。
俺は推しキャラとして、ミュリアを守りたいと思ってたけど……今はもう、それ以上に。
一人の女の子として、ミュリアのことが好きなんだ。ずっと一緒にいたいと思うくらいに。
「だからまあ……うん、俺がするべきことなんて、最初から決まってたな」
一つ息を吐きながら、俺は自分自身に誓うように、決意する。
「なるか。伯爵」
王都は、その名に違わない発展ぶりだった。
ルークウェル領も、公爵家のお膝元なだけあって良い町なんだけど、こっちの方がより"都会"って感じがする。
そんな王都の中心に聳え立つのが、この国のトップである国王陛下の住まう王城だ。
この国でも珍しい、白の大理石で作られた城は、遠くからでもその威容をハッキリと感じられる。
中に入ると、それは更に強く感じた。
「はあぁ……すげえなこれ」
白いホール。調度品の一つ一つがあり得ないくらい高級なものばかり。
田舎者感丸出しだと分かっていても、きょろきょろとあちこち見ることしか出来ない。
「ようこそ、よく来たね」
そんな俺達の前に現れたのは、金髪碧眼の貴公子だった。
落ち着いた物腰に、甘いマスク。白を基調としたスーツは輝いて見える。
こいつのことは、知ってる。
アニメにおいて、ルイスの一つ上の上級生として学園生活をサポートしていた、この国の第一王子。
アーメド・ルナ・イオリンデだ。
「これはアーメド殿下、お初にお目にかかります。ハートナー子爵家当主、ナード・ハートナーです」
「同じく、ハートナー子爵家が子、ロロン・ハートナーです。以後お見知りおきを」
お父様と二人で、アーメド殿下に挨拶をする。
それをごく自然に受け入れながら、アーメド殿下が口を開く。
「顔を上げてくれ、今日はそちらの……ロロンを称えるために呼んだのだから。あまりかしこまられても困ってしまうよ」
「ありがたきお言葉です」
当主はお父様なので、基本的に俺は口を噤んでお父様に会話を任せる感じになるんだけど……アーメド殿下、ずーっと俺のこと凝視してるな。
まあ、俺を目的に呼んだのは間違いないだろうし、そりゃあ気になって当然か。
「ロロン、君の悪魔討伐の功を称え、勲章を授ける運びとなった。その授与式を、明日に予定しているのだが……」
だが……なんだろうか。
まあ、こいつの性格を考えると、予想はつくんだけど。
「時間もあることだし、ここは一つ君の実力を見せてくれないかな? 訓練場を一つ空けてあるんだ。僕が相手を務めるから、是非お手合わせ願おう」
キラキラとした瞳で、アーメド殿下がそんな要望を口にする。
"隠れ戦闘狂"として名高い殿下のお遊びに、俺は溜息を溢し……お父様は、泡を噴いて倒れそうになっていた。




