ルイス救援作戦
ルイスが行方不明になった。
ラインベルク家に戻ってそう聞かされた俺がまず思ったのは、「何かの間違いじゃないか」だ。
あいつは、この世界の主人公。
そうでなくとも、俺より遥かに魔素を使いこなし、俺より遥かに強い少女だ。
たとえ相手が大悪魔だろうと、負けるなんて信じられない。
何か悪辣な罠にかかってしまったのか、それとも……。
それだけ、強大な悪魔が待ち構えていたのか。
もしそうなら、今の俺がどうにか出来る相手なのか……?
「どちらにせよ、戦力を集結させて叩くより他あるまい。私も出る」
ただ、リベラ伯爵はそれでも戦う意思が挫けることなく、自ら出陣すると発言した。
これには、家臣達も慌て始める。
「危険です!! 伯爵様に何かあれば……!!」
「その時は息子もいる。まだ幼いが、政務を取り仕切るだけなら家臣団でもどうにかなるだろう。それよりも……領内に、恐るべき力を持った敵が今も蔓延ったままという状況の方が問題だ。何としても、早急に解決に導かなければならない」
その覚悟を聞いて、素直にすごいな、と思った。
俺はただ一人、ミュリアのために戦ってるし、それ以外の誰かのために命を懸けられるかと言われれば微妙なところだけど……この人は、顔も知らない領民のために命を懸けるっていうんだから。
ならせめて、俺も。
ミュリアのために、そして……新しく出来た友人のために。
戦う前からビビッてないで、命を懸けて立ち向かわないと。
「ロロン、共に戦ってくれるか?」
「もちろんです。俺に出来ることであれば、可能な限り協力します」
「……恩に着る。全てが終わったら、必ず報いると誓おう」
俺は俺で、ミュリアのために強力な悪魔は絶対に仕留めたい。
だから、あまりリベラ伯爵が気にすることはないんだけど……いや、そうだな。
「でしたら、前払いというわけではありませんが……一つお願いを聞いて貰っても?」
「なんだ? 言ってみるといい」
「連れていくメンバーは、出来る限り少数の精鋭に絞って頂きたいんです」
俺が倒したベルゼブブもそうだったけど、悪魔の中には人間を操って自らの手勢にする力を持った奴が珍しくない。
人同士の戦いのように、数の暴力に訴えるのが難しいんだ。
かといって、少なければ少ないほどいいのかというと……既に多くの人間が悪魔側に寝返っているだろうから、そうとも言い切れないのが辛いところだな。
それを受けて、リベラ伯爵も顔を顰める。
「そう言われると、人選は慎重にしなければならないな。可能な限り少なく、それでいて多数の敵がいても押し負けない者達、か」
「無茶を言ってすみません」
「いい。決して負けられない戦いだからな、不安要素は少しでも減らしておきたい」
ひとまず話は纏まり、人選の方もリベラ伯爵にお任せしたところで、俺は会議室を後にする。
すると、外で待っていたミュリアが駆け寄って来た。
「ロロン……!! どう、なった?」
「リベラ伯爵が自ら精鋭を率いて、ルイスの向かった場所に行くことになったよ。俺もついて行く」
「なら、私も……!!」
俺が言及する前から、ミュリアはそう言って前のめりになる。
個人的には、ミュリアには安全なところで待っていて欲しいんだけど……今更そんなこと言って、納得するわけないよな。
事実として、ミュリアの力は対多数戦ですごく有用だ。
ルイスはミュリアにとって、初めて出来た同性の友人。助けたい気持ちも強いだろうし、止めることは出来ないな。
「分かった。けど、無茶はするなよ、相手はスロウスとは次元が違う強さだろうから」
「うん。……ねえ、ロロン」
「ん? どうした?」
俺の服の裾を掴みながら、ミュリアが上目遣いに俺を見つめる。
最近は少し距離を取られてたから、こういうのも久しぶりだな……。
「ルイス、大丈夫だよね……?」
よっぽど心配なんだろう、ミュリアの手は少し震えていた。
そんな彼女の頭を撫でながら、俺は自信を持って断言する。
「大丈夫だ。あいつがそう簡単にやられるもんか」
自分自身に言い聞かせるように、俺はそう告げる。
これは、全く根拠のない話でもない。
悪魔は、負の感情が籠った魔力を糧に生きているけど……地上で力を発揮するには、より強大な力や素質を秘めた人間に憑依する必要がある。
まだ子供とはいえ、素質という観点でこの世界ナンバーワンのルイスを殺すのは、悪魔としても避けたいだろう。
逆に言えば……ルイスが既に身体を乗っ取られていた場合、ベルゼブブなんか目じゃないくらい強い大悪魔が敵に回るってことになるんだけどな。
「そっか……良かった……」
ホッとした様子のミュリアに、そこまで伝える気にもなれず、押し黙ったまま……。
俺達は、悪魔討伐のために出立するのだった。




