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ルイスの敗北

 ロロン達が、救援のためのメンバーを選定している頃──

 ルイスは、とある町の片隅にある廃教会で、椅子に縛り付けられる形で監禁されていた。


(……失敗、したなぁ……)


 油断、と言われればその通りなのかもしれない。

 "堕落の手"に協力する構成員を叩きのめし、拠点だと思われる廃教会に突入するまでは良かった。


 中にいたリーダー格の男も大した実力者ではなかったし、「これは、悪魔はロロン達の方にいるのかなー?」などと呑気に考えていたのだ。


 一応、ロロンの方にも悪魔がいなかった場合や、(ルイスはほぼあり得ないと思っているが)悪魔以外の力によって謎の力を構成員に配っていた場合を想定し、廃教会の中を調査したり、構成員の聞き取りなどを行っていった。


 誰もが、そこで気を抜いていたのだ。

 ルイスの圧倒的な力で、あまりにもあっさりと制圧出来てしまったため、もう大した脅威は残っていないだろうと。


 ──まさか、ルイスが暴れている最中もロクに戦わずに降伏した、如何にも下っ端としか思えない気弱な男に、元凶である悪魔が憑依していたとは誰も予想出来なかったのだ。


 まして、その男に対して聞き込みを行っていた魔法士に乗り移ることでルイスに近付き、直接体を乗っ取ろうと仕掛けて来るとは。


(ほんと……悪魔が体の中にいるって、最悪……!!)


 ルイスが行動不能になった瞬間、一度は制圧したはずの構成員達が復活し、ラインベルクの魔法士達が瞬く間に無力化されてしまった。


 悪魔が常時体を乗っ取ろうと内で暴れている中では、それを見ていることしか出来ず……悔しさのあまり、血が滲むほどに唇を嚙みしめる。


『やれやれ、いつまで抵抗を続ける気だぁ? いい加減諦めて、俺に身を委ねろよ、楽になるぜ?』


「誰が、悪魔なんかに……!!」


 くだらない誘惑をする悪魔に、心の底から怒りと憎しみが湧き上がり……ハッとなって、その心を必死に鎮める。


 悪魔は、人の負の感情から湧き上がる魔力を喰らい、自らの糧とする精神生命体だ。

 下手に感情を爆発させれば、それを喰った悪魔が更なる力を得て、悪魔に乗っ取られるまでの時間が短くなってしまうかもしれない。


 それだけは、避けなければ。


(ボクはしくじったけど、体を完全に乗っ取られていなければ、他の誰かが祓うのはそう難しくない……時間さえ稼げば、きっとロロンが助けに来てくれる、それまで耐えれば大丈夫だ)


 ロロンと関わった時間は短いが、彼がミュリアに寄せている想いの強さと、そのミュリアを一度は死に追いやった悪魔に対する敵意は本物だと信じている。


 自分が戻らなければ、何かあったということが伝わりさえすれば……ロロンなら、悪魔との関連を疑って必ず駆け付けてくれるはず。


 怒りを抑え、体の主導権を強く握ったまま精神への浸食に抗い続ける。


 そんなルイスに、悪魔は彼女にしか聞こえない狂笑を上げた。


『クハハハハ……! 全く、体の方は最高の素材だが、心の方は面倒くせえ女だな。そういうのは好きだぜ』


「悪魔なんかに好かれても、嬉しくない……」


『そりゃあ、悦ばせるためになんか言ってねえからな。俺がお前みたいな人間を大好きなのはな……』


 その時、堕落の手の構成員が一人、ルイスの前にやって来た。

 何度目かも分からない登場に、ルイスも辟易とした顔になる。


『その無駄に固い心をへし折った瞬間が、最高だからだよぉ……』


「……また、拷問でもするつもり? 悪いけど、ただ痛いだけの拷問なんかで隙を見せるつもりはないよ」


 この悪魔に入り込まれてからというもの、何度もこういったことがあった。

 体を痛めつけ、そのダメージで心をへし折って、抵抗を弱めようという算段だろう。


 しかし、悪魔の側もこの方法には制限がかかる。

 第一に、宿主である人間が死ねばせっかくの素体に憑依出来なくなってしまうので、命を脅かすような拷問は行えないということ。

 そしてもう一つ、体の一部を損なうような拷問をしてしまえば、憑依した後にその体で力を発揮する際に不自由を被ってしまう。


 完全に憑依した後であれば、部位欠損も再生出来るのだが、完全憑依の前に失われた体は再生出来ないからだ。


 一度目の人生で悪魔に敗北し、この世の地獄を経験したルイスからすれば、ただ痛いだけの拷問など大したことはない。


 そんなルイスを、悪魔は嗤う。


『どうやらそうみたいだからな……今回は、少しだけ趣向を凝らしてみたぜ?』


「一体何を……!?」


 よく見れば、拷問担当の構成員は、ラインベルクの魔法士を一人引き摺っていた。

 彼をどうするつもりなのか、"悪魔"をよく知るルイスには容易に想像出来る。出来てしまう。


 だからこそ、焦りのあまり冷静さを失って叫んだ。


「やめてよ!! あんたの目的はボクの体でしょ? その人は……!!」


『関係ない、なんて言うなよ? お前ら全員、俺を滅ぼすためにここに来たんだろ?』


「それ、は……」


 悪魔の言い分は、理屈としては間違ってはいない。

 だが、その目的が自衛のためではなく、ルイスの体を乗っ取るための手段だと言われて、納得出来るはずがなかった。


 まして……。


『まぁ……関係あろうがなかろうが、俺にとっちゃ関係ないんだけどなぁ? クハハハハ!!』


 悪魔はそういう存在だと、分かっているだけに。


「こ、のっ……悪魔がぁぁぁ!!」


『そりゃあ俺は悪魔だからなぁ、悪魔らしいのは当然だろぉ? さあ、そんなことより……せっかくのショーだ、目に焼き付けろよ』


「っ……待って、やめてよ……」


 構成員の男が、魔法士の首に剣を添える。

 ルイスがいくら叫ぼうと、その手が止まることはなく……ニヤニヤと下衆の笑みを浮かべながら、男は剣を振り切った。


「やめろぉぉぉぉ!!!!」


 魔法士の首が落ち、鮮血が飛び散る。

 ルイスの頭に、一度目の惨劇がまざまざと蘇り……抑えきれない感情が、爆発した。


「ッ……!! お前、絶対に、絶対に許さない!! 必ず、滅ぼしてやる!!」


『クハハハハ!! それだよ、その感情が欲しかった。この調子で行けば、そう遠くないうちに体を乗っ取れそうだなぁ?』


「このッ……!!」


 このまま耐え続ければ、この悪魔は延々と仲間を殺し続けるだろう。

 しかし、体を明け渡せば助かるかというと、それも怪しい。


 何なら、体の主導権だけ奪っておいて、意識をそのままにこの手で仲間を殺させるような、そんな下衆の行いを平然とやるだろう。


 それが、悪魔だ。


(ボクのせいで、こんな……!! ダメだ、感情が抑えられない。このままロロンが来るまで耐え続けるのは、無理かもしれない)


 感情を一気に爆発させ過ぎたせいだろうか? 意識が遠ざかっていく。


 ならせめて、と。

 ルイスは、涙ながらに力を振り絞り……ひと欠片の魔素を練り込んで、とある物に封じ込めた。


(ごめん、ロロン……後は、お願いね)


 それを最後に、ルイスの意識は闇に堕ちるのだった。

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