“堕落の手”殲滅作戦
ラインベルク家での訓練を挟みつつ、“堕落の手”について調べていく……つもりだったんだけど、リベラ伯爵から「少し待て」という要望が届いた。
どういうことかと思いながら、訓練を続けること数日。
リベラ伯爵から、思わぬ要請が届けられた。
「これより我がラインベルク家は、“堕落の手”の壊滅及び“盟主”と呼ばれている元凶の捕縛のため、領内に存在する奴らの拠点全てに同時攻撃をかける!! ロロン、ルイス、君達にも協力して貰いたい」
なんと、リベラ伯爵は既に連中の拠点を炙り出しており、一気に壊滅させるための作戦を準備中だったらしい。
俺とルイスには、その作戦に参加して欲しいのだと。
「予想される敵戦力に対し、こちらもなるべく余裕を持って対処出来るように人員を配置する予定だ。ただ、この二箇所……ここは“堕落の手”にとって重要な意味を持つようでな、予想外の事態が起きる可能性がもっとも高い。君達二人には保険として、ここを襲撃する部隊の支援を頼みたい」
テーブルに地図を広げながら、リベラ伯爵が説明する。
なんでも、敵が“常識的”な犯罪集団なら、伯爵家の手勢だけで十分制圧できるらしい。
ただ、敵は如何なる手段を持ってか、魔法の才能がないはずの人間に魔法の力を与えるという、未知の能力を持っている。
そういったイレギュラーによって戦力差が覆った時のための切り札として、俺達を使いたいのだと。
「無論、これは我々ラインベルク家が解決すべき問題だ。たとえ出番がなくとも十分な報酬は出すつもりだが、断って貰っても文句は言わない」
「いえ、むしろ参加させてください。この件に悪魔が関わっている可能性がある以上、俺は絶対にそれを確かめなきゃならないんです」
この世界における“未知の力”は、大抵が悪魔か魔素によるものだ。
魔素に他人の力を底上げするような力はないんだから、今回の件はほぼ悪魔によるものと見ていい。
悪魔なら、滅ぼさなきゃならない。ミュリアのために。
「ボクもやるよ。そもそも、ラインベルクは一応ボクの故郷でもあるんだから、協力しない理由なんてないよ」
端っこも端っこの田舎村だけどね、とおどけながら、ルイスも参戦を表明する。
それを受けて、リベラ伯爵も一つお礼を口にしながら、更に具体的な話へ移ろうとして……そこに、ミュリアが割り込んで来た。
「待って……私も、ロロンと戦う……!」
「ミュリア!? いや、でも……」
「私も……ルイスのお陰で、魔法をちゃんと使えるように、なったから。ロロンが、悪魔を倒せるように……私も、頑張る」
ふんす、とやけに気合いの入った様子で、ミュリアは自分をアピールする。
ここのところ、俺と少し距離が出来た感じがして寂しかったから、俺のことを思って戦うと言ってくれたのは素直に嬉しい。
けど、悪魔がいるかもしれないところにミュリアを連れていくのは流石に……俺個人の気持ちとしても、ルークウェル家のお嬢様っていう立場からしても、あり得ないだろう。
いやでも、今は一応俺の義理の妹っていう設定なんだった。なら、俺がいいって言えば伯爵も止めないのか?
だとしても流石に……。
「行かせてあげなよ、ロロン」
「ルイス!?」
まさかの援護射撃が飛んできて、俺は目を丸くする。
そんな俺の反応を見て、予想通りだとばかりに笑いながら、ルイスは俺の肩を叩いた。
「大丈夫、ロロンとの訓練が終わった後、ミュリアもこっそりボクと訓練してたから。今のミュリアは、強いよ?」
「そ、そうか……」
ミュリアが訓練してたというのはもちろん驚きだが、ルイスが俺との訓練が終わってからもまだ訓練していたという事実にも驚きだ。
こいつとの訓練、俺もかなりフラフラになるんだけど……そこから更にって、どんだけ体力お化けなんだよ。
いや、今はそんなことはどうでもいいか。
「分かった。でも、ミュリアは俺と一緒にいて貰うからな、ちゃんと言うこと聞くように。いいか?」
「うん……!」
「話は纏まったようだな」
「あ、すみません、伯爵様」
結果的に話の腰を折ることになってしまったリベラ伯爵に謝罪すると、「別に構わん」と寛大なお言葉が返ってきた。
「では、改めて作戦を説明するぞ。分からないところがあれば事前にきちんと聞くように」
意外と優しいリベラ伯爵から、作戦の概要について説明を受けながら……こうして俺達は、“堕落の手”殲滅作戦に参加することになるのだった。
俺とミュリアが、ラインベルク家の魔法士団と一緒に向かったのは、辺境にある廃村だった。
かつては交通の要衝として栄えた宿場町だったんだが、他にもっと便利な道が出来たことで人がいなくなり、最後は魔物の襲撃を受けて誰もいなくなったんだと。
そんな、この世界独特の栄枯盛衰を感じられる寂しい場所は今、大勢の無法者達の根城として占拠されていた。
「まずは作戦通り、我々だけで仕掛ける。その後、厄介な力を持った者がいれば君達二人に任せる……それでいいな?」
「はい、よろしくお願いします」
この場の指揮官となっているアインさんに頷くと、彼は少し複雑そうな表情を浮かべる。
多分、俺達みたいな子供に一番厄介なところを任せるのを不安に感じているんだろうな。
でも、もし悪魔が出てきた場合、対抗手段は魔素しかない。
実力の問題じゃなく、悪魔の本体にダメージを与えられるのがそれだけなんだ。
魔素を持たない人間は、悪魔が宿っている人間を殺し、悪魔が自分達の棲む異界に帰っていくのをただ見送ることしか出来ないから……適材適所ということで、納得して貰うしかないだろう。
「では、行ってくる」
実際、そう言って飛び出して行った魔法士団の人達は、とても強かった。
ルイスには流石に勝てないかもしれないけど、長年ラインベルク家に仕えてきた仲間意識の高さから来る高度な連携には、目を見張るものがある。
「な、なんだぁ!? 」
「こいつら、どこのもんだ!?」
「ラインベルクだ!! とうとう来やがったんだ!!」
まず、初手は遠距離からの奇襲攻撃。
それで混乱を来たした敵へ、一塊となって進軍していく。
攻撃役と防御役に別れ、相手の攻撃を結界で防ぎながらこちらだけ一方的に攻撃を加えていく様は、まるで戦車のようだ。
「この分だと、俺達の出番はなさそうか?」
重要拠点の可能性が高いとは言っていたけど、ルイスが向かった先とどちらに悪魔がいるかは分からなかった。
こっちは外れだったのだろうと、そう納得しかけたところで……廃村の奥から、暗黒の太陽の如きとんでもない魔法が飛んできた。
「ぐわぁぁ!?」
「なんだ、この魔法は!?」
魔法士団の人達が、その魔法を受け止めきれずに纏めて吹き飛ばされる。
なまじ一塊になって動いていただけに、防御結界を突破されたその一撃で全員が負傷してしまったらしい。
幸い重傷の人はいないらしく、まだ戦えそうだけど……うん。
「どうやら、こっちが“当たり”だったみたいだな……行くぞ、ミュリア」
「うん……!」
魔法士団を吹き飛ばした元凶の前に、俺とミュリアが並んで対峙する。
そいつは、全身を黒いローブで覆った怪しい雰囲気の男。
身に纏う魔力は、明らかに人から逸脱した悪魔のそれ。
間違いない、こいつが……。
「お前が……“堕落の手”の親玉か」
「如何にも、その通り」
大仰な仕草で腕を広げ、その口元をにいっ、と不気味な笑みの形に歪めながら……そいつは、名乗りを上げる。
「我が名はスロウス、“堕落の手”の盟主をしております。以後……お見知り置きを」




