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ラインベルク伯爵の驚愕

 ラインベルク伯爵家当主、リベラ・ラインベルク。

 彼とディラン・ルークウェルは犬猿の仲として知られるが、当人達としては別段本気で嫌い合っているわけではない。


 その関係を端的に表すなら、ライバル関係。

 そう、互いに負けたくないと強く思うが故に、顔を合わせる度に口喧嘩に発展するというだけである。


 振り回される周囲の人間からすればただひたすらにめんどくさい二人の関係の始まりは、学生時代にまで遡るのだが……だからこそ。


 そんな間柄の自分に、“あの”ディランが頼み事をしてきたという事実に、リベラは少なからず驚いていた。


(最初は、人探しだったか。で、次はそれが終わったから、訓練場を貸してくれと……)


 後半に関しては、ディランから直接頼まれたわけではない。

 しかし、「うちの新しい懐刀が"義妹と一緒に"そちらに向かうから、可能な限り頼みを聞いてやって欲しい」などと、随分と丁寧な言葉遣いの手紙を受け取っている。


 手紙だったので抑えたが、本人が目の前にいれば「ついに狂ったか?」などと発言して、取っ組み合いの喧嘩になっていたことだろう。


(よほど、あの少年に期待していると見える)


 何せ、悪魔狩りを成し遂げたという少年だ。

 どこまで本当のことかは分からないが、わざわざ"あの"ディランが下手に出てまで便宜を図ったのだ、虚偽の話ばかりということもあるまい。


 精々見極めてやろうと、そんな心持ちで訓練を見物し始めたのだが……。


(なんだ、こいつらは……本当に、子供か!?)


 目の前で繰り広げられる光景に、リベラは唖然としていた。


 ルイスと名乗っていた少女が宙に浮かび、純白の“魔力”を操って無数の魔法陣を描き出す。


「行くよロロン、受け切ってみせて!!」


 降り注ぐのは、変幻自在に弧を描き飛翔する光の砲弾。


 一発一発の威力も並外れているというのに、その全てを常時制御下に置いて自在に動かすなど、とても常識では考えられない。


 あんな超魔法を放たれて、生きたまま凌ぎきれる人間が果たしてどれほどいるものか。

 腕に覚えのあるリベラ自身でさえ、あれを受け切れるかと言われれば怪しい。


 まして、十二歳の少年があの暴威に呑み込まれれば、死んでしまうのではないかと本気で心配になったのだが……。


「《滅魔斬り・乱舞》!!」


 居合の構えから、目にも止まらぬ神速の刃が幾重にも煌めく。


 白い魔力によって伸長された刃先が、迫り来る砲弾を捉える度、真っ二つに両断していく。


 涼しい顔で全て迎撃せしめたロロンは、空中で爆発する白き砲弾を目眩しに、一気に空を駆け上っていく。


 よく見れば、彼が足を踏み込む度に白い足場のようなものが生成されており、それを利用しているのだとすぐ分かった。


(《風場エアステージ》という風の魔法に似ているが、あそこまで使い勝手の良いものではないぞ!? どうなっている!?)


 そうこうしている間にも、ロロンがルイスに急接近していく。


 しかし、明らかに直線的なその動きは、ルイスからしたら格好の的で──


「甘いよロロン、《白流星ホワイトスター》」


 白き流星がルイスの指先から放たれ、ロロンの体を貫く。


 リベラと同じようにその戦闘を見ていた魔法士の誰かが「あぁ!?」と悲鳴のような声を上げたが……。


 直後、ロロンの体が霞のように消え失せた。


「《霞閃かせん》!!」


 いつからそこにいたのか、ルイスの目の前に迫っていたロロンの抜刀術が放たれる。


 凄まじい速度の緩急によって、相手の目を惑わすロロンの奥の手と呼べる技を受けたルイスだったが……。


「……いや、硬っ!! ルイスお前、その物理結界は流石にズルじゃね!?」


「ズルじゃないよ〜? 本当は、体に密着するくらいの範囲で展開した方が硬くなるのに、寸止めしやすくするためにわざと球状に展開してるんだもの、これくらい突破して貰わなきゃね」


 平然と、空中に留まっていた。


 白い砲弾の雨、白い流星と、リベラからしても常軌を逸した魔法を連発しながら、ルイスは常に自身の体を強固な結界で覆っている。


 一体、どれほどの魔力量と魔力制御力を身に付ければ、あんな真似が出来るのか。

 リベラには、想像することも出来ない。


「ほらほら、ロロン、どんどん行くよ! ミュリアを守りたいなら、もっと強くならなきゃでしょ!?」


「くっそ、分かってるよ!!」


「その調子その調子! というわけで……」


 現状でさえ、リベラの想像の埒外なのだ。まだまだ力押し感は否めないが、とても十二歳の子供が振るっていい力ではない。お互いに。


 だというのに。


「次は、“二倍”行ってみよっか!!」


 ルイスが、先ほどの白い砲弾と同じ魔法を、あっさりと二倍の物量で放つのを見て、もはや誰もが考える事を止めた。


「うおぉぉぉぉ!?」


 それでも、ロロンは奮闘した。

 圧倒的な物量を誇る白い砲撃を、真っ向から迎撃し続けて──


「はい、ボクの勝ち」


「はあ、はあ……くそ……」


 最後は、迎撃のために一歩も動けなくなったロロンの背後からルイスが首筋に指を添えて、勝利宣言。


 ガックリと、ロロンは肩を落とした。


「まだまだ、弱いな、俺は……」


 どこがだ、とリベラはツッコミたくなった。


 ルイスは確かに規格外にも程があるが、それはロロンとて同じ。


 化け物と比べて劣っていることは、その者が化け物でないことの証明にはならないのである。


「……なるほど、これは確かに、ディランも放っておけないな」


 ディランが何のために回りくどい真似をしてまでロロンを送り込んで来たのか、いまいち図りかねていたが……恐らく彼は、ロロンに世間を知って貰い、自分がどれほど強者の位置にいるのかを教えたかったのだろう。


 そして同時に……子飼いの剣がどれほど素晴らしいかを、リベラに自慢したかったのだ。


「ふん、いいだろう、お前の思惑に乗ってやる、ディラン。ただ……その分、こちらも存分に利用させて貰うぞ」


 近頃、ラインベルク領近辺で頻発している、魔法使いによる事件の数々。


 その調査について、既に協力を打診されてはいたのだが……ここは、本格的にロロン達の力を使わせて貰うことにしようと、リベラは心に決めるのだった。

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