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ミュリアの異変?

 お父様がラインベルク伯爵と話を付けてくれたことで、俺達はこの町で自由に魔素の訓練を積むための施設に出入り出来るようになった。


 まあ、それはどこかっていうと、伯爵子飼いの魔法士団が訓練するための訓練場なんだけど。


「なるほど、お前が例の悪魔狩りか。まさかこんなにも幼い子供だとは思わなかったな」


 そこには当然というべきか、訓練場の持ち主である伯爵もいた。


 魔法使いらしいというべきか、ディラン公爵と比べれば細身で一回り小さな体付きをしているけど、決して頼りないという印象はなく、しっかり鍛えられていることは服越しにも分かる。


 その上で、メガネを指先でくいっとやりながら俺を見つめる眼差しには、一体どんな秘密があるのか見極めんとする理知的な光も感じられた。


 彼が、国内でも指折りの練度を誇る魔法士団を率いる長、リベラ・ラインベルクか。


「俺ももう十二歳になりましたから、そこまで幼くはないですよ。訓練場を貸してくださり、ありがとうございます」


「生意気なところは主人とそっくりだな。まあいい、如何なる力を持っているか、精々探らせて貰うとしよう」


 敢えて、なんだろうけど……バカ正直に「お前の力を探ってやる」なんて本人に伝える伯爵に、思わず噴き出した。


 ルークウェル家の人間なんて、みたいな態度を取ってはいるけど、こうして訓練場を貸してくれたことといい、案外良い人なのかもしれない。


 去っていくリベラ伯爵の背を見送りながら、俺は一緒に訓練するルイスとミュリアの方を見て……問題はむしろこっちだよなと、肩を落とした。


「ええと……ミュリア、今日はどうしたんだ……? 何かあったのか……?」


 ミュリアは今、ルイスの背に隠れて俺の様子を伺い、目が合うと「ぴゃっ」とまた顔を隠してしまう状態になっていた。


 昨日の夜まであんなり俺にべったりだったのに……今日は全く近付いても来ないから、寂しいどころじゃないんだけど。


「あはは……ミュリアも、ロロンを嫌いになったとかそういうわけじゃないから、心配しないで。ね、そうだよね、ミュリア?」


「…………」


 ルイスの背から顔だけ出したミュリアが、こくんと小さく頷く。

 嫌われてないなら、ひとまず安心といったところだけど……じゃあ、なんで俺距離取られてんの?


「女の子には色々あるんだよ、あんまり触れないであげて」


「そ、そうか」


 そう言われたら、あまり深堀りも出来ないな。

 考えてみれば、ミュリアももう十二歳だし……女の子独特の苦労が色々と出て来てもおかしくない歳だ。


 そこら辺、ちょっと俺に配慮が足りなかったかもしれない。


「そういうことなら、今日の訓練は休むか? ミュリアはもう日常生活を送るには問題ないくらい魔素の制御も出来てるんだ、無理しなくても……」


「だ、大丈夫……!!」


 ミュリアがルイスの背から飛び出し、顔を赤くしながら俺の前まで来た。

 やっぱり体調が悪いんじゃ? って心配になるけど、問題ないということをアピールするかのように、俺の手をがっしりと掴む。


「私も、頑張る、から……!! ロロンが、悪魔を倒せるように……私も、手伝う……!!」


「そ、そうか」


 "堕落の手"のことを言ってるのなら、まだ悪魔と決まったわけじゃないんだけど……ミュリアにとっては、悪魔は自分を付け狙うと宣言した不倶戴天の敵だ。気になるのは当然か。


「じゃあ、一緒に頑張ろう。でも、キツかったらいつでも言ってくれよ? ミュリアの体より大事なものなんてないんだからさ」


 そう伝えながら、いつものようにミュリアの頭を撫でると……。


「ふぁ……ぁ……あぅ……」


 今にも湯気が出て来そうなくらい真っ赤になって、ぴゅーっとルイスの背に隠れてしまう。

 ……本当に、俺が避けられてるわけじゃないんだよな? 大丈夫だよな?


「それじゃあ、訓練始めよっか! ミュリアは魔素をスムーズに動かす練習、ロロンはそのカッチカチの魔素を上手く活用する方法を一緒に探そうね!」


「お、おう……」


 なんだか勢いで押し切られるような感じになったけど、さっさと訓練を始めないと時間がもったいないのも事実だ。


 ちょっと……いやかなり不安な気持ちになりながら、俺は訓練に入っていくのだった。

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