堕落の手
野盗をあっさりと全滅させてみせたルイスは、そのまま軽い尋問も行うことに。
馬車がやられてしまい、ひとまず野盗の物をとお父様が拝借して来るまでの短い間だったけど、それなりに成果はあった。
どうやらこいつらは、ラインベルク領にあるいくつかの町や村で奇妙な男に出会い、不思議な力で魔法を授かったらしい。
その上で、生きていくために入るよう勧められた組織の名が──
「"堕落の手"……か」
「如何にも、って感じの名前だよねー」
ふむふむと、ルイスが顎に手を添えて呟く。
少なくとも、こいつらはベルゼブブの時のように悪魔に体を乗っ取られたわけでも、洗脳を受けているわけでもなく、自らの意思で犯罪に手を染めているようだ。
堕落の言葉通り、突然与えられた力に酔いしれて、何でも出来ると勘違いしたみたいだな。
「その奇妙な男が、悪魔なのかな?」
「決めつけるのは早いけど、限りなくそれに近い立場なのは間違いないだろう」
こういう時こそ、前世の知識で何とかしてやりたいところではあるんだけど……そうもいかない事情がある。
……いや、その、実は最推しのミュリアが死んだショックで、アニメはその後ちゃんと視聴してないんだよね。
主人公が最終話までに三体の悪魔を倒したってことは知ってるんだけど、それもSNSで伝え聞いた話だ。
ある程度の特徴や強さは知っていても、具体的な流れはよく知らない。
だから……"堕落の手"とかいうのがアニメ本編や悪魔と関りがある組織なのかも、分からなかった。
くそっ、こんなことならちゃんと最後まで観ておくんだったよ。
「ロロン……! 大丈夫?」
「ミュリア。俺達は大丈夫だよ、そっちは?」
「平気……私も、メメイさんも……おじさんも、怪我してないよ。二人のお陰」
とててっと駆け寄って来たミュリアが、そのまま俺にしがみつく。
そんなミュリアを撫でてやりつつ、お父様のところへ戻った俺達は、そのまま新しい馬車でラインベルクの町を目指すことに。
野盗達は、縛り上げて適当に放置してある。
町に着いたら、野盗について伝えて衛兵隊に動いて貰う予定だ。
「しかし……ルイス。あの魔素の操作、一体どうやってやってるんだ?」
少しボロくなり、快適性が悪くなった車内で、俺はルイスに問い掛ける。
簡単でしょ? とか言ってたけど、ぶっちゃけ俺はあの魔法を一回見たくらいでは何も分からなかった。
随分とスムーズに魔素をコントロール出来てるな、とは思ったけど。
「どうって、そんなに難しいことはしてないよ? ほら、こうやって」
ルイスが指先に魔素を集め、くるくると回してみせる。
……いや、出来ないんだが。
「俺はこうなるんだよ」
同じように、指先で魔素を生成し……ぴったりとそこにくっついたまま、振っても動かない。
「ミュリアはどうなる?」
「えっと……私は……」
同じように、ミュリアも魔素を生成。
俺やルイスとは違う漆黒の魔素が指先に生まれ、くるくると指を回すのに合わせて少し動く。
……俺よりはマシだけど、ルイスほどじゃない、って感じかな?
「んー……あ、分かった! 二人とも、魔素をそれだけで動かそうとしてるでしょ。魔力で軽く包んであげると、動かしやすくなるよ!」
「へえ、なるほど」
そんなコツがあるのか。それはアニメでは描写されてなかったな。
というわけで、早速実践してみると……。
「……こう、かな?」
「そうそう! ミュリア上手~!」
ミュリアは、スムーズに魔素を動かせるようになっていた。
ルイスと比べても遜色ないその動きは、ミュリアのセンスを感じさせる。
一方の俺はというと。
「ふごごごご……!!」
アドバイス通り、魔素を魔力で包み込んでみたんだけど、ぴくりとも動かない。
よく考えてみたら、俺って魔素以前に魔力もほぼ動かなかったし、包んだくらいで動いたら苦労なかったわ。うん。
「おー……ロロン、すごいね。そんなに意地でも体から離れまいとしてる魔力、初めて見たよ」
「褒めてないよなそれ……!?」
「そんなことないよ、そこまで行ったら、それはそれで個性だし」
確かにまあ、個性と言われたらそうなのかもしれないけど、現状だとその活かし方が分からないからなぁ……あんまりポジティブに捉えられないんだが。
そんな俺の手を、ミュリアがそっと包み込んだ。
「私は……好きだよ、ロロンの魔力。温かくて、優しくて……とっても、綺麗」
「ミュリア……ありがとな。嬉しいよ」
うん、ミュリアが気に入ってくれてるなら、それだけでも俺の個性だって胸を張れる気がするよ。
そんな風に考えていると、対面に座るルイスとお父様が、何とも言い難い微妙な表情を浮かべていた。
「本当に仲良いね、二人とも。ただの幼馴染とは思えないくらい」
「ロロン、頼むから節度は保ってくれよ? 何かあったら公爵様に殺されてしまう……」
「あはは……」
ルイスからの感想? と、お父様からの切実なお願いを聞いて、どうリアクションするべきか若干迷いながら。
俺は、誤魔化すように笑うのだった。




