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予想外の出会い

「ふぅー! 終わった終わった」


 暴れていた魔法使いが衛兵に連れて行かれ、一通りの聴取を終えた少女……ルイスが、大きく伸びをしていた。


 既に、集まっていた野次馬は概ね散っている。

 ルイスの聴取が終わるまで、じっとその場で待ち続けていたのは俺だけだ。


「それで……君は、ボクに何か用かな?」


 当然というか、そんな俺の視線にルイスも気付いていたらしい。


 向こうから話し掛けてくれるのは、正直助かる。


「俺の名前はロロン・ハートナーだ。実は……この力について、お前に聞きたいことがある」


 名前以上に分かりやすい自己紹介になるだろうと、俺は刀を少しだけ抜いて刃を見せる。


 そこから、ほんの僅かに漏れ出た魔素の白い光を見て──ルイスは、一瞬で彼我の間合いをゼロにして、鼻先がぶつかり合いそうなほど顔を寄せてきた。


「君……その力、誰に教わったの?」


「……教わったわけじゃない。自力で習得したんだ」


「嘘でしょ? そんなこと出来るわけが……」


 と、そこまで言いかけたところで、ルイスはハッとなって口を閉ざす。

 少しだけ周囲に視線をやると、声を潜めて俺に問いかけた。


「ロロン、この後時間はある? ボク、この町に宿を取ってるんだ、そこで話したい」


「ひとまず朝までなら、問題ないよ」


「ありがとう。そこまで時間は取らせないから」


 そう言って、ルイスは俺を宿まで案内してくれた。

 俺達が取った宿とは、ちょうど町の反対側に位置する安宿。


 あんまり内緒話をするには向いてないんじゃないか、ってくらいの壁の薄さだけど……部屋に入った途端、ルイスが魔素を操作して防音結界を張った。


 あまりにも見事な強度と展開速度に、俺は舌を巻くしかない。


「見事なもんだな……」


「これくらい、君も出来るんじゃないの? 使えるんでしょ、魔素」


「残念ながら、そこまで制御が利かなくて、剣に込めて振り回すくらいしか出来ないんだ。だからこそ……お前を探してたんだ、ルイス」


 ベッドに腰掛けたルイスと、扉の前に立ったまま見つめ合う。

 その瞳に映るのは、明らかな疑念と警戒心。まだ無名かつ、初対面の自分をなぜ探していたのかという、ごもっとも過ぎる理由から生まれた感情。


 勝負所だ。

 ここでルイスの信頼を得られるかどうかで、今後の流れが全て変わる、そんな気がする。


 だから俺は……これまでずっと、ミュリアにすら打ち明けていない秘密を、ここで明かすことにした。


「俺は……お前と同じ、転生者だ。だから、誰に教わらなくても魔素のことを知っていたし、お前のことも知ってる。この世界で唯一の、魔素を操る人間だって」


 俺の言葉を聞いて、ルイスの目が限界まで見開かれる。

 そして……「じゃあ」と、歓喜の滲む声を漏らす。


「君は、もしかして……この世界の未来を、知ってるの……?」


「……まあ、な」


 俺の知ってるストーリーとは、随分違うけど。特に、目の前にいる主人公の性別とか。


 そんな俺の気を知ってか知らずか、立ち上がったルイスが俺の前まで来て、両手で包むように俺の手を握り締める。


「まさか、ボク以外にもいたなんて! 過去に戻ってやり直してる人が!」


「……ん?」


 過去に戻って、やり直してる?

 何か齟齬があるような、と混乱している間にも、ルイスは捲し立てる。


「良かった……あの絶望的な未来をいくら変えたいと思ってても、まさか"もう一度過去の自分に転生した"なんて話、誰に言っても信じて貰えないことは分かってたから……仲間がいてくれて、本当に嬉しい!」


「…………」


 こいつ、性別が変わってるだけじゃない。

 俺の知ってるルイスは、"異世界転生者"ったけど……こいつは、"逆行転生者"なのか!?


 まさか、そこまで別物になってるとは思わなくて、頭が混乱する。

 ここは俺の知ってるアニメ世界だと思ったけど、そうじゃないのか?


 いや、限りなく近い、平行世界と見るべきなのかもしれない。

 どちらにせよ……俺の知識がどこまで通じるか、かなり怪しくなったことだけは確か、か。


「……とりあえず、落ち着いてくれ。一旦落ち着いて、お互いの知ってる話を共有するってことで、どうだ?」


「あ……うん、そうだね。興奮しちゃってごめん、嬉しくって」


 よっぽど心細い思いをしていたのか、慌てて手を離す仕草にも少しだけ名残惜しさのようなものが見える。


 とはいえ、流石は主人公というか、すぐに切り替えて真剣な表情を浮かべた。


「それじゃあ……まずはボクの方から話すね」


 ルイスの話によると……。


 彼女の生きた未来では、この国は無数の悪魔によって破壊し尽くされ、滅亡していたらしい。

 ルイス自身、力を尽くして最期まで抗ったものの、力及ばず死んでしまったのだと。


「もっと早くから……真面目に修行していれば、って後悔してたら、子供の頃に戻ってたんだ」


 魔素に関しては、父親から教わったらしい。

 なんでも、ルイスの家系は元を辿ると古の悪魔祓い一族に通じるんだとか。


 ……俺も知らん設定来たよ、これ。


「だから今度こそ、悪魔からこの世界を守るために、武者修行の旅に出てるんだ。家族の説得には苦労したよ、あはは」


「そうだったのか……ちなみに、いくつか確認したいんだけど。ルイスは、王都の魔法学園には通わないのか?」


「へ? いやいや、ボク貴族じゃないし、そもそも入学なんて出来ないよ! なんでそんなこと?」


「……俺の知ってる未来では、通ってたから……かな」


「え!?」


 ありえない、とばかりにポカンと口を開けるルイスに、今度は俺の方から知っていることを話すことに。


 ルイスが、魔素の力を貴族に……ラインベルク伯爵家に認められ、学園への推薦状を書いて貰うこと。

 少なくとも三体の悪魔を屠り、一年目を無事に生き抜いたことを。


 ……性別の話と、俺が異世界転生者だってことは伏せたまま。


「えっ、えー……もしかして、ロロンって私とはまた違う未来から来た……ってこと?」


「……どうだろうな。確かなのは、俺は俺の知る未来におけるルイスの最期は知らないってことと……どうしても守りたいと思った子が、悪魔に体を乗っ取られて死んだってことだけだ」


「それって……もしかして……」


「ミュリア・ルークウェル……俺の幼馴染だ。知ってるか?」


 悪魔に乗っ取られた人間が死ぬのは、宿った悪魔が死んだ時だけ。


 さっきの話と合わせて、それが何を意味するのか……大体察したらしい。

 名前にも聞き覚えがあったのか、少し混乱した様子のルイスに、俺は頭を下げる。


「俺はどうしても、ミュリアを守りたいんだ。既に、あの子を乗っ取ろうとした悪魔を一体、何とか倒したけど……このままじゃ力不足だってこともよく分かった。だからルイス、俺に……俺とミュリアに、魔素の使い方を教えてくれ」


「…………」


 お願いする以上、何か対価になるものを用意するべきじゃないかとは思った。


 実際、そのために“主人公ルイス”が喜びそうな魔導書は持ってきたんだけど……ダメだ。


 こいつは、間違いなく“ルイス・ヒロルート”だけど、俺の知ってる主人公とは別人だから。


 今はとにかく、誠心誠意頼み込むことしか出来ない。


「……一つ、条件を出してもいいかな?」


「ああ、なんだ? 俺に出来ることなら、何でもする」


「そんなに難しいことじゃないよ、ただ……」


 痛みを堪えるように……内なる感情を抑え込むように、強く唇を噛み締めながら、言った。


「ミュリア・ルークウェルと……二人で、話をさせて欲しいんだ」

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