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主人公探しの旅

 俺が魔素の生みの親……主人公を探すために遠征するという話と、まさかのミュリアがそれに同行したいという話。

 流石にちょっと許可が降りないんじゃないかと、半ばダメ元でディラン公爵に頼んでみたところ……まさかの、二人とも行っていいと許されてしまった。


 ただし、流石に子供の二人旅は危険過ぎるということで、"保護者"も同行することになったけど。


「それで……お父様が選ばれたと」


「ああ……確かに俺はロロンの保護者だが、一人でお前とお嬢様の面倒を見ろというのは流石に荷が重いですよ公爵様……」


 如何にも憂鬱そうに、対面に座るお父様が馬車の外を眺めつつボヤく。


 ミュリアの面倒は俺が見るし、そんなに手間はかけない……と言いたいところだけど、今回の遠征のためにディラン公爵が俺達に用意した身分がちょっと問題だった。


 ルークウェル家のために、ラインベルク伯爵領に物資の買い付けに向かう商人の親子。

 それが、ディラン公爵から言い渡された俺達の"設定"だ。そのために、馬車と御者まで専用の物を用意してくれた。


 どうして、わざわざ身分を偽って伯爵領に向かうのか? というと……端的に言って、ルークウェル家とラインベルク家の仲が悪いからである。


 両者共に武を貴ぶ家柄なんだけど、片や剣を主体とした近接戦闘の専門家、片や魔法を主体とした遠距離戦闘の専門家ということで馬が合わないらしく、顔を合わせてもすぐ皮肉合戦になってしまうんだと。


 そんな相手の領内で、ルークウェル家の人間が特定の人物を探してウロチョロするなど、許されるわけもない。

 この二年間、ディラン公爵の力を借りてなお主人公を見付けられていないのは、そうした事情もあるんだ。


 そうした背景を無視して、俺が人探しに集中すべくディラン公爵が考えた方法こそ、"商人に偽装する"というもの。


 いくら仲が悪くても、商人の往来まで制限はかけていないから、たとえルークウェル家の息がかかった者であろうと、多少は探しやすくなるだろう、と。


 それと、もう一つ。


「ふわぁ……」


 ミュリアが、初めての旅を心から楽しめるように、というディラン公爵なりの親心だろうな。


 馬車の外に広がる、何の変哲もないただの草原地帯。

 それすらも未知の世界だとばかりに瞳を輝かせるミュリアを見ながら、俺は小さく微笑んだ。


「ミュリア、そんな風に外に顔を出したら危ないぞ」


「あ……ごめん、なさい……」


 俺が注意すると、ミュリアはしゅんと沈んだ表情で席に戻っていく。

 そんなミュリアの体に手を回し、膝の上に抱き上げた。


「ロ、ロロン……?」


「気休め程度だけど、俺がシートベルト……じゃない、体を支えといてあげるよ。どう? 外は見える?」


「……! うん、ありがとう、ロロン……!」


 本当は、褒められた行為じゃないんだけど……生まれて初めて、ルークウェル公爵領の外へ向かうんだ。これくらいのサービスがあったっていいだろう。


 俺の膝の分だけ座高が上がって、何とか膝立ちにならずとも外を見られるようになったミュリアを見て、なんだか俺も嬉しくなり……逆に、お父様はちょっとばかり複雑そうな顔をしていた。


「ロロン……公爵様が言っていたこと、分かってるよな……?」


「分かってるよ、心配しなくても」


 心配性なお父様に、俺は苦笑を返す。

 ……今回の旅に出発する時、ディラン公爵からは簡潔に、こう声をかけられた。


『この旅では、ミュリアとロロンは腹違いの兄妹ということになる。当然、その分だけ距離も近くなるだろうが……本来は主人と臣下であるということは常に頭の片隅に置いて、節度は保つように』


 まあ、俺だってミュリアに懐かれていることくらい自覚しているし……俺がミュリアに並々ならぬ感情を抱いていることくらい、誰だって分かっているだろう。

 その意味で、ミュリアの父親であるディラン公爵が、俺がハメを外し過ぎたり、変なことを噴き込んだりしないか心配なのは分かる。


 だけど、安心して欲しい。

 俺はミュリアを傷付けるような真似は、死んでもしないから。


「ロロン……何の話……?」


「ミュリアが可愛くて仕方ないから、変な男に騙されて、ホイホイ付いて行ったりしないか心配だって話」


 冗談交じりにそう伝えると、ミュリアは少しだけむすっと頬を膨らませる。

 ん? 何が気に障ったんだろうか? と首を傾げる俺に、ミュリアはぎゅっと抱き着いて来た。


「ロロン以外……誰にも、付いて行かないもん……」


「…………」


 ごめん、その変な男の中には、一応俺も入ってるんだ。

 とまでは流石に言えなかったので、誤魔化すようにミュリアの頭を撫でる。


 そうやって、一面の草原地帯を馬車で駆け抜けることしばし。

 ラインベルク領へと続く道の途中で、夜を明かすために途中の宿場町へと立ち寄ることに。


 そこで問題となったのは……誰がどの部屋で寝るのか、ということだ。


「ロロンと、一緒がいい」


 断固として譲らないとばかりに、ミュリアがそう主張する。

 一応、ディラン公爵はこういった場合にミュリアが問題なく夜を明かせるよう、馬の扱いに長けたメイドを御者として付けてくれていたんだけど……せっかくの外でお泊まりなのに、俺と一緒じゃないのは嫌だと言って聞かなかった。


 なので、俺が女性陣の部屋でミュリアと一緒に寝泊まりして、お父様だけ一人で夜を明かすことに。


 ごめんお父様、全てはミュリアの意思が最優先なんだ。

 ただまあ、元々二人ずつで泊まる予定だったので、部屋にあるベッドは二つだけで……。


「えへへ……」


 俺とミュリアは、同じベッドで並んで寝ることになった。

 いいのか? いや、ダメじゃね? メメイさん(メイド)、なんで止めないの? え、私は何も見なかったって? いやいやいや。


「ロロンと、夜も一緒……嬉しい」


「……俺もだよ」


 とはいえまあ、ミュリアにここまで喜ばれると、固辞するのも悪い。

 もしかしたら、最初からこうなることを見越して、ディラン公爵も何か言い含めていたのかもしれないな。


 五年前と比べたら随分と明るくなったとはいえ……ミュリアにはまだ、完全に心を許せる人が、俺以外にいないから。


「あいつが、そういう人になってくれるといいんだけどな……」


「ロロン……?」


「ああ悪い、こっちの話だ」


 俺の知るアニメ主人公……ルイスは、優しくて強くて、大勢の人に慕われる良いヤツだった。

 ちょーっとハーレム気質だったのは気になるが……アニメのミュリアも、最期はあいつに惹かれていたように思う。


 アニメでは間に合わなかった二人の出会いも、今回は間に合わせることが出来るはず。


 そうなれば、ミュリアにとっても良い友達になれるだろう。


 もしかしたら、それ以上の……。


「…………」


 それはなんというか……すごくこう、モヤモヤするなぁ。

 いや、ルイスのことは嫌いじゃないし、むしろ好きなキャラなんだ。前世では、ルイスとミュリアのカップリングを描いたファンアートも好んでよく見ていたくらいだ。


 でも……いざ、目の前にいるミュリアが、そうなるかもしれないと思うと……。


「……まあ、まだ先の話か」


「??」


 首を傾げるミュリアを撫でながら、俺は自分を戒めるように呟く。


 どちらにせよ、ミュリアが今後悪魔の襲来に怯えない日々を手に入れるには、早いうちにルイスと出会って、魔素について学ぶ必要がある。


 俺の存在意義は、ミュリアが生きて幸せになる未来を守ること。

 それ以外のことは、今考えたって仕方ないだろう。


「おやすみ、ミュリア。良い夢を」


「うん……おやすみ、ロロン……」


 ミュリアを寝かし付けて、俺自身も寝ようと目を閉じる。


 ──その時、遠くから何か悲鳴のような声が聞こえてきた。


「なんだ?」


 飛び起きて、一度意識を集中させる。

 ……悪魔の気配はしない。今も断続的に魔法の爆発みたいなのが見えるけど、どこかの魔法使いが暴れてるのか?


「ロロンさん、あれは……」


「メメイさんはここでミュリアのことを見ていてください。俺が様子を見てきます」


 可愛らしい顔で熟睡しているミュリアを一目見て、俺は夜の町へと飛び出していく。


 いつでも抜けるように剣を腰に構えたまま、一直線に事件現場へと急行して……しかし。

 到着した時には既に、全てが終わった後だった。


「よいしょっと。君ねー、どこの誰だか知らないけど、こういうの良くないと思うな。もう衛兵隊も呼んだから、大人しくお縄について貰うよ」


「うぅ、くそぅ……」


 そこにいたのは、中性的な顔立ちの“女の子”。

 年齢は、俺と同じくらい。

 短い黒髪にショートパンツと、パッと見だけなら少年のようにも見えなくはないけど、僅かに膨らんだ胸元など、体付きは間違いなく少女のそれだ。


 でも……そんなことより俺の目を引いたのは、こんな夜中に暴れ出したのだろう男を制圧する、その細腕。


 魔法によって強化されたその腕を覆う、純白の光。

 間違いなく、魔素だ。


「このルイス・ヒロルートの目が黒いうちは、目の前で犯罪行為なんて許さないからね!」


「…………」


 その名乗りを聞いて、確信した。確信すると同時に、俺の頭は混乱の坩堝に叩き込まれる。


 ……アニメ主人公、なんで性別変わってんの!?



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