事件のその後
ミュリアの誕生日パーティーを襲った、大悪魔ベルゼブブとその分身による襲撃。
流石に今回は、グレムリンの時のようになかったことには出来ない。
結果、各所への説明や、巻き込まれた貴族達へのフォローと賠償、今後の対策やら何やらと……本人も重傷だっていうのに、ディラン公爵は忙しく動き回っていた。
ぶっちゃけ、今回もなかったことに出来るならそれが一番だろうと思ったくらいだよ。
「とはいえまあ、怪我自体はもう大丈夫らしい。流石だよな、公爵様」
「ん……無事で、良かった」
俺がルークウェル家の現状について説明を終えると、ミュリアはホッとした様子で呟いた。
悪魔の狙いがミュリアだったこともあって、ここ数日はずっと離れの中に籠ってたからな。心配だったんだろう。
「……大丈夫か? ミュリア」
「え……?」
「いや、公爵様もそうだけど……ミュリアも、悪魔に色々言われたんだろ? だから、大丈夫なのかと思って。公爵様も気にしてたぞ」
俺はその現場にいなかったから、公爵から聞いた話ではあるんだけど……ベルゼブブはミュリアに、お前は人間じゃないだの、悪魔の器だなどと言ってたらしいからな。
いくら外傷がなくても、少なからず心が傷付けられたはずだ。
そんな俺に対して、ミュリアはじっと見つめ返して来た。
「ロロンは……私が人間じゃなくて、嫌いになった……?」
「そんなわけあるか! ミュリアがどんな存在だろうと、俺の一番大切な……俺の、幼馴染なんだから!」
俺とミュリアの関係をどう表したらいいのか、ちょっと迷ったけど……まあ多分、幼馴染が一番適切だろうと思う。
若干歯切れの悪い俺の言葉に、ミュリアは「幼馴染……」と反芻する。
「幼馴染って……どういう、意味?」
「ええと……小さい頃から一緒にいる友達、みたいな?」
「それって……これからも、ずっと一緒?」
ミュリアの縋るような眼差しに、俺は小さく微笑む。
その不安な気持ちが少しでも和らぐようにと、その頭をそっと撫でながら。
「ミュリアがそれを望んでくれてる限り、俺はずっと傍でお前を守るよ。悪魔なんかに、絶対渡さない」
そのためにも……もっと、強くならないといけない。
ベルゼブブを圧倒出来たのは良かったけど、あれはアニメより遥かに弱い状態だったから勝てただけだ。
他の大悪魔は、ミュリアの力と圧倒的な物量を誇っていたアニメのベルゼブブより更に強い。
そいつらからミュリアを守りたいと願うなら、今のままじゃダメなんだ。
そう考えると、やっぱり──
「なら……私も、強くなりたい」
「え?」
「お父様が、倒れて……何も、出来なくて。でも、ロロンは……私を守ってくれて、悪魔も、倒しちゃって。……どんどん、遠くに行っちゃう」
ぎゅっと、ミュリアの手が俺の裾を掴んだ。
寂しさと不安が入り交じった瞳で、それでも離したくないと願うように。
「本当は、もっと早く……強くならなきゃ、いけなかったけど……怖かった。私の力が、強くなったら、ロロンに、嫌われちゃうんじゃ、って。でも……ロロンが、そうじゃないって、言ってくれたから……だから私も、強くなりたい。私も……ロロンと一緒に、いたいから……!」
「ミュリア……」
言葉を必死に選びながら、拙いながらも思いの丈を伝えようとするミュリアの姿に、俺は不覚にも泣きそうになった。
出会った時は、世界の全てに絶望して、近寄るもの全て拒絶していたミュリアが、未来のために努力しようとしている。
しかも、その理由に俺の名前を挙げてくれるなんて……嬉しくないわけがない。
「ああ、分かった。俺も協力するから、一緒に頑張ろうな、ミュリア」
「うん……!」
嬉しそうに笑うミュリアをもう一度撫でながら、俺は先程考えていたことを再確認する。
ミュリアが本気で強くなりたいと考えてるなら、益々"あいつ"の協力は不可欠だろう。
俺の力の源であり、ミュリアの力を安定させる切っ掛けとなった力……“魔素”。その、本当の使い手。
この世界の主人公、ルイス・ヒロルート。
彼を探し出して、本物の魔素とその使い方について教えて貰う。
心の中で、俺はそう決意するのだった。




