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パーティーの誘い

「ミュリアお嬢様の……誕生日パーティー、ですか?」


「ああ……これまでずっと、祝ってやれなかったからな。家臣達への正式なお披露目を兼ねて、盛大に開いてやりたいと思っている」


 ミュリアとディラン公爵の間にあった蟠りが、少しだけ解消された数日後。

 執務室に呼び出された俺は、公爵が口にしたその言葉に目を丸くした。


 確かに、近々ミュリアの十歳の誕生日があるし、今年こそは俺一人じゃなくてもう少し多くの人に祝って貰えるかもなとは思ってたけど……まさかそこまで大規模なものになるとは、予想外だ。


「もちろん、いきなり規模が大きすぎるのもミュリアの負担になるだろうからな。その辺りの匙加減も含めて、君の意見を聞きたいと思っている」


 うーん、どうだろうな。

 最初は本当に身内だけで開くべきじゃないかとも思うんだけど……どうも、貴族は他家も招いて大規模にやるのが当然で、それをしないのは"人前に出せるような子供じゃない"とみなされ、親子共に陰口の対象になってしまうんだとか。


 ミュリアの名誉を考えるなら、可能な限り早く他家を招いた大きなパーティーを開くべきだろう。

 とはいえ、まだ家族とすら関わりの薄いミュリアが、大勢の人が集まるパーティーでいきなりお披露目というのもハードルが……。


「……本人に聞いてみます。ただ個人的には、最初は出来るだけ小規模に抑えて貰いたいかな、とは」


「ああ、分かっている。出来るだけ、信用の置ける者のみに絞るつもりだ」


 それだけ言質が取れれば、ひとまず十分だ。


 というわけで、執務室を後にした俺は、今もミュリアが自室として利用している離れへと向かう。

 以前までのように、魔素を使った身体強化に二重扉まで使って慎重に入らなくても良くなったその場所に足を踏み入れると……ノータイムで、ミュリアが飛びついて来る。


「ロロン! 会いたかった……!」


「ははは……会いたかったって、今朝も少しお喋りしましたよね?」


 現在は昼過ぎ。午前の訓練を終えた後、そのままの足でディラン公爵に呼び出されたけど、訓練の前には一度ミュリアのところに顔を見せている。


 でも、そういうことじゃないんだとばかりに、ぐりぐりと押し付けていた顔を上げたミュリアは、頬を膨らませて不満を表明した。


「むぅ……ロロンとは、もっとずっと、たくさん一緒にいたいの……!」


「ふぐっ……」


 可愛い。あまりにも可愛い。

 元々可愛かったけど、公爵と話して心の蟠りが解けたからか、ここ数日はより一層素直に甘えて来るようになって……一度しがみついたら、なかなか離れてくれない。


 赤ちゃんコアラみたいだな、なんて思いつつ、俺はミュリアの体を抱き上げて、いつも二人で話しているベッドまで向かう。


 その上に降ろして……やっぱり離れてくれない小さな天使をそっと撫でて、俺も隣に腰掛けた。


「それで、ミュリアお嬢様。ちょっとお話があるんですけど……」


「?」


 こてん、と首を傾げるミュリアに、俺は先ほど公爵と話した内容を言って聞かせる。


 全てを聞き終えたミュリアは、複雑な表情で眉尻を下げた。


「……やっぱり、嫌ですか? 知らない人がたくさんいるパーティーは」


「……ちょっと、怖いけど……ロロンは、出た方が、いいと思う……?」


「んー……そうですね」


 ここはどう答えるべきか、少し迷った。

 でもまあ、変に誤魔化すのもミュリアのためにならないし、ハッキリ言ってやった方がいいか。


「ルークウェル家の娘としては、出た方がいいと思います。まだまだ家臣団の信頼も薄い中で、他家を招くパーティーを企画するのは相当無理をしたでしょうし……つまりはそれだけ、お嬢様にとって必要なイベントだと判断されたのだと。もし上手くやり遂げられれば、外出許可も出るかもしれません」


 ですが、と。

 不安に揺れるミュリアの頭を撫でながら、にこりと笑みを向ける。


「お嬢様が嫌だと思っているのなら、断ってしまっていいと個人的には考えています。ルークウェル家の娘である前に、お嬢様はお嬢様ですから」


「…………」


 俺がそう伝えると、ミュリアは少し顔を下げ、迷うように視線を彷徨わせて……やがて、もう一度俺と目を合わせた。


「出ても、いいよ。でも……代わりに、ロロンに……一つ、ご褒美、欲しい」


「ご褒美ですか? 俺に出来ることであれば、何なりと」


 それでミュリアが一歩踏み出す勇気になってくれるなら、何だってやってやる。

 そんな気持ちで答える俺に、ミュリアはしばし口をもごもごしながら無言の時を過ごし……躊躇いがちに、小さく呟いた。


「ロロンには……"ミュリア"って、呼んで欲しい……家族、みたいに……」


 思わぬ要望に、俺は目を丸くする。

 家族みたいに呼んで欲しいってことは……それはつまり、俺を家族みたいに大事に思ってくれてるってことで……。


「……ダメ……?」


「ダメなわけないでしょう。そうですね、人前では難しいかもしれないですが、二人きりの時はそう呼ばせて貰います」


 俺にとっては前世からの最推しで、今世でも誰より想い続けて来た幼馴染みたいな存在だ。

 そんな相手から名前で呼んで欲しいなんて言われて、嬉しくないわけがない。ぶっちゃけ、今にも小躍りしそうなくらい嬉しい。


「じゃあ、呼んで」


「え?」


「今……呼んでみて、欲しい」


 じっと、懇願するように見つめて来るミュリアの瞳には、色濃い不安の感情が浮かんでいる。

 ようやく外に出られるようになったとはいえ、ずっと離れに閉じ込められていたミュリアにとっては、我儘一つ口にするのも勇気がいることなんだろう。


 そんなミュリアのために、俺は出来るだけ優しく呼び掛けた。


「ミュリア。……これでいいか?」


「…………」


 なぜか、そのまま固まってしまうミュリア。

 しかし、すぐにその表情はふにゃりと和らぎ、幸せそうな笑みへと変わっていく。


「えへ、えへへ……! ロロン、もっと……!」


「ミュリア」


「えへへ……もっと……♪」


「あはは、可愛いな、ミュリアは」


 名前を呼ばれるのがそんなに嬉しいのか、いつも以上に甘えん坊と化したミュリアを撫でながら、まったりとした時間を過ごし……。


 こうして、俺達はミュリアの誕生日パーティーのため、忙しなく奔走することになるのだった。

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