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悪魔との対峙

 今の俺に、悪魔と戦う力があるかと言われると微妙なところだ。

 それでもこんなに威勢の良いセリフを吐いたのは、二つの理由がある。


 一つは、俺の知ってるアニメにおいて、グレムリンはめちゃくちゃ煽り耐性が低いってこと。

 主人公が「自分で戦う勇気もない臆病者」とか言ってたら、それだけで自分の手でトドメを刺すために飛び出して来たくらいに。まあ、そっちの方が洗脳した人間達の制御が利くって理由もあるみたいだけど。


 そしてもう一つ、一番デカい理由は……他の悪魔ならまだしも、このグレムリンならまだ、俺でも対処できる可能性があるからだ。


「死ねぇぇぇ!!」


 突っ込んで来たクロウの剣を、軽く横に跳んで回避。

 そのまま、俺は自分の刀を抜き放って──魔素の力を込めて、柄頭で頭をぶん殴った。


「ぐはっ……!?」


 殴ると同時に、クロウの頭に俺の魔素を注ぎ込む。

 魔素の純白の輝きが、その体を包み込んで……ガクンと、糸が切れたかのように倒れた。


「っと……!」


 倒れるクロウの体を背中で支えながらも、俺は刀を鞘に戻しながらその様子を慎重に観察する。


 魔素を叩き込めばグレムリンの洗脳が解けるっていうのは、あくまでアニメ知識。

 しかも、俺と主人公の魔素が同じ特性を持っているとも限らないんだ、油断は出来ない。


 それでいて、この状況でグレムリンが次の一手を打って来る可能性もあるわけで……くそっ、俺一人じゃ手が回らないぞ。


「うっ……うぅ……」


「気が付きましたか?」


「お、お前は……なぜ。俺は、人型の化け物に、襲われて……」


 思ったよりも早く意識を取り戻したクロウが、混乱した様子で呟く。

 あまり気遣ってる余裕もないので、俺は端的に事実を述べた。


「クロウさんは、悪魔に惑わされてました。俺を化け物と誤解して、襲い掛かって来たんです」


「なっ……!? つまり……お前が俺を、助けてくれたと?」


「そうなりますね。出来れば自力で立ってください、あなたを支えながら周囲を警戒し続けるのはキツイです」


「……あ、ああ」


 洗脳はちゃんと解けたようなので、クロウから離れて改めて意識を周りに向ける。

 クロウ解放のために消耗した魔素を補充すべく、ゆっくりと魔力を込めていく。


 そうしていると、クロウも自分の剣を構えながら何とか立ち上がった。


「……他の騎士達は、どういう状況なんだ?」


「分かりません。恐らく悪魔の力で分断されてるので、もしかしたらみんなクロウさんと同じようになっているかも……」


 もしそうなってたら、最悪だ。

 俺の魔素も有効だと証明されたとはいえ、主人公あいつほど大量に生成出来るわけじゃないんだから。


「お前は……どうしてこれが悪魔の仕業だと思ったんだ? 何か対策があるのか?」


「悪魔に関する本を読んだことがありましてね、それとクロウさんや今の状況が酷似していたというだけです。対策は……全員解放してこの森から脱出する、くらいですかね。悪魔のこの力は、同じ人間に何度も使えるようなものじゃないですから」


 グレムリンの能力は、洗脳と分断による同士討ちに特化している、幻惑の力だ。

 この力は、同じ相手に使えば使うほど効力が落ちていくという特徴があるため、魔素で一度解放してしまえば、少なくともその日のうちに二度目はない。多分ね。


「一応、口や鼻のあたりに魔力を集中させといてください。悪魔の魔力を呼吸と共に吸い込まなければ、この力の影響は受けません」


「ああ……」


 元気のないクロウに、本当なら何か声をかけるべきなのかもしれないけど……どうやら、そんな暇はなさそうだ。


 なぜなら、森の中から続々と、明らかに正気を失っている騎士達が現れたからだ。


「はぁー……予想はしてたけど、本当に全員か。しかも……」


『クカカカカ。ガキ、一人解放したくらいで調子に乗るなよ? こっちには山ほど"人質"がいるんだからなぁ』


 操られた騎士の一人……お父様の肩に、小さな黒い人型の化け物が乗っていた。

 異界からの侵略者、悪魔の一柱ひとり……グレムリンだ。


『妙な真似すんなよ? こいつらの命が惜しければ……!?』


 グレムリンが言い切る前に、俺は魔素で全身を強化。

 抜刀の勢いそのままに、グレムリンへと斬りかかった。


 大慌てで飛び退いたグレムリンをそのままに、刀の柄でお父様を殴って洗脳を解除、すぐさま納刀すると同時に、魔力回復薬を取り出して早い段階から回復に勤しんだ。


『くそ、てめえガキ!! 何の迷いもなく斬りかかって来やがって、正気か!?』


「正気に決まってるだろ。ここで剣を降ろしたところで、どうせお前は俺達全員殺す気満々なんだ。だったら……人質を殺すためにお前がわざわざ意識と手駒を割いている間に、お前を殺した方がいい。その方が、犠牲は減るんだからな……当然だろ?」


『んなぁ……!?』


 ぶっちゃけると、ここまで割り切った考えにはなってない。全員救いたいに決まってる。

 だからこそ、俺は常に強気で殺意を向け続けなきゃならないんだ。


 こいつはクソほど厄介な力を持ってて、弱者を甚振るのが大好きな悪意の塊だけど……同時に、自分の命が最優先の小心者でもある。


 全力で殺しに行けば、こいつは騎士達を俺を抑えるために使って来るだろうから。


『クソッ、貴様ら、そのガキを殺せ!!』


 焦った顔で指示を飛ばすグレムリンの声に呼応して、無力化したお父様以外の騎士が飛び掛かって来る。


 単純で助かったと、内心でほっと息を吐きながら……俺は、グレムリンを打倒するべく意識を集中するのだった。

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