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ルイスの意地

「はぁー……はぁー……はぁー……」


 魔族五体を同時に相手取ることになったルイスは、苦戦を強いられていた。

 服はボロボロ。頭から血を流し、全身泥と擦り傷塗れになっている。


 一方で……。


『クハハハ! どうした? 我ら五人が相手でも余裕なのではなかったのか?』


 魔族達は、無傷だった。

 より正確には、ルイスが攻撃を打ち込んでもすぐに再生されてしまうのだ。


 単純な肉体強度も、魔族の方が遥かに上。

 そこに再生能力まで加わり、数の不利まで重なってしまっては、ルイスが追い込まれるのも当然の話だった。


「はっ……もう勝ったつもりでいるの? そんな低能ぶりでよく新しい種族だなんて名乗れたね」


『……口の減らねえ小娘だ。いいだろう、そんなに死にてえなら、お望み通り嬲り殺しにしてやるぜ!!』


 肉塊の魔族。腕が肥大化した大男の魔族。魔法を操る優男の魔族。そして、蝙蝠の翼を持つ男女二人組の魔族。


 それぞれが散開し、ルイスに襲い掛かっていく。


『ウオォォォ!!』


「《白星ホワイトスター》……!!」


 まず突撃していくのは、肉塊の魔族。

 迎撃のためにルイスが魔法を放つのだが、その全身を覆う肉の鎧に阻まれて、決定打にはならない。


「はあぁぁぁぁ!!」


 ならばと、魔素を込めた拳で肉塊の魔族を殴り飛ばす。


 力尽くで弾き返すことで、どうにかそれを凌ぐが……畳みかけるように、左右から吸血鬼風の男女二人が息の合った連携でその鉤爪を振るい、襲い掛かる。


「くっ、あぁ……!!」


 魔素で全身を覆うことで簡易的な鎧とするが、全ては防ぎ切れない。

 服が引き裂かれ、肌からも薄く血が滲む。


「あぁぁ!!」


 その両手に魔素を込め、二体の魔族へと叩き込む。

 どうにか引きはがすことには成功したが、痛みで動きの鈍ったルイスの姿は、あまりにも無防備だった。


『死ね』


「っ……《白弾ホワイトバレット》……!!」


 優男の魔族が、上空から漆黒の魔法を放つ。

 対するルイスも魔法を撃ち返すが、威力よりもスピード重視の白い弾丸は大きく迂回するような軌道を取り、優男の体を撃ち抜いていく。


 とはいえ、スピード重視の魔法では倒すには至らず、すぐに再生され──逆にルイスは、ほぼ無抵抗のまま漆黒の光に呑み込まれる。


 石畳を砕き、家屋を瓦礫の山へと変えながら大爆発したその魔法の余波が収まった時、ルイスはボロボロになってその場に倒れ伏していた。


「げほっ……くっ、ぅ……」


『フハハハハハ! 無様だな、ルイス・ラインベルク』


「が……あ、ぁ……!」


 大男の魔族が、肥大化した腕でルイスを掴み、無造作に持ち上げた。


 ミシミシと骨が軋む音を響かせながら苦しみに喘ぐルイスに、大男はニヤニヤと下卑た視線を送る。


『苦しいか? 痛いか? どうだ、命乞いの一つでもすれば、許してやらんでもないぞ? この場で服を脱いで、全裸で土下座でもしてみたらどうだ?』


「っ……化け物の、癖に……性欲だけは、一丁前に、あるんだね……? ははっ、そんな醜い姿じゃ……誰も振り向いて、くれないだろうし……哀れだね……!!」


『この状況でも、それだけ威勢の良いことを言えるとは……見上げた根性だ』


「当たり前、だ……!!」


『っ!? ……貴様……!!』


 口に収束した魔素を固めて吐き出し、大男の顔面へと叩き付ける。

 眼球が潰れて血を流すが……やはりすぐに再生してしまう。


 それでも構わず、ルイスは笑みを浮かべた。


「ボクは、まだ……負けてない、からね。誰が、命乞いなんかするものか」


『……興が削がれた。このまま握り潰してやろう』


 事実、魔族は五体全て無傷のまま。

 対するルイスはもはや自力で立ち上がることも出来ないほどにボロボロで、彼女の実力を支える魔素も魔族達には十分な効果を発揮していない。


 この状況で何が出来ると、もはや呆れの表情すら浮かべ──


『っ、なんだこの圧は!?』


 ぞくりと背筋を走る悪寒に、大男はルイスを手離して周囲に目を走らせる。

 他の魔族達も、同じ危機感を共有して周囲を見渡し……最後は、全員が上空を振り仰いだ。


『……なんだ、あれは』


 空に浮かぶ太陽。それに折り重なるようにして、巨大な純白の球体が浮かんでいた。


 ビリビリと肌を突き刺すような圧力に危機感を抱いていると、地面に放り出されたルイスが笑みを浮かべる。


「お前らが、頑丈なのは最初から分かってた……だから、ずっと……我慢して、我慢して、溜めてたんだ。……お前ら全員、一発で消し飛ばせる一撃を」


『クソッ……!! そんなもん、素直に喰らってられるか……!?』


 すぐさま退避しようとする魔族達だったが、体が動かない。

 なぜ、と疑問を覚える彼らに、ルイスは更に言葉を重ねる。


「なんのために……大して効果ないって分かってるのに、何度も魔法を叩き込んだと思ってるの……? いくら再生しようが、お前らの体に叩き込んだ魔素は、消えない……それを、外から操れば……動きを止めるくらい、簡単だ……!」


『クッ、この……クソがァァァァ!!』


 悪態を吐く魔族。だが、それで容赦をするルイスではない。


 フラつく足で立ち上がり、空へ向かって手を掲げる。


「消し飛べ、害獣共……!! 《白太陽ホワイトサンバスター》!!」


 純白の太陽が、地上へと墜ちる。

 その凄まじい衝撃と浄化の魔法が、地上を蹂躙し──


 全てが収まった時、魔族達は塵一つ残さず消滅し、更地となった地上の一角にルイスだけが大の字になって倒れていた。


「あー……しんどい。流石に、もう動けないかも……ロロン、ミュリア……後は、よろしく……」


 それだけ呟いて、ルイスは気を失うのだった。

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