王座に君臨する大悪魔
ルイスや騎士団の面々、それに獣人達の力を借りて、俺とミュリアは現在王宮への突入に成功していた。
騒ぎに乗じて忍び込んだ形で、目指すは国王陛下のいるところ。
王宮の様子を確認しながら、慎重に奥へ向かってるんだけど……。
「予想通りといえば予想通りだけど、悪魔ばっかりだな」
「うん……すごく、臭う」
廊下の端、壁に背を預けながら覗き込んだ先には、一人のメイドが歩いている。
一見するとただのメイドなんだけど、その体からは明らかに悪魔の気配が漏れ出ていて、乗っ取られているのはほぼ間違いないだろう。
「どうする? 倒す?」
「そうだな……俺達の目的は大悪魔だ、戦う前から余計な消耗は避けたいところなんだが……」
身を隠すため……なのか、やたらと俺に密着しながら問いかけて来るミュリア。
俺の返答に対して、「それなら」と呟く。
「私に任せて。私なら、"食べれる"から」
「分かった、それならお願い出来るか?」
「うん」
ミュリアが俺から離れ、メイドに向かって手のひらを掲げる。
その手から、漆黒の魔力が噴き出して──あっという間に、メイドを呑み込んだ。
「《悪魔喰》」
悲鳴一つ上げさせることなく、悪魔が"喰われた"。
そのまま、メイドだけを「ぺっ」と吐き出して、廊下に放り出す。
「終わり」
「よし、良い感じだぞ。ありがとな、ミュリア」
「えへへ」
ミュリアは、悪魔を喰ってその力を取り込むことが出来る。
要するに、消耗以上に回復の方が大きいから、こういう場面では誰よりも頼りになる子だ。
「とはいえ、雑魚にばかり構ってても仕方ない。孤立してるやつ以外はスルーしていくぞ」
「うん、分かった」
ミュリアと二人、慎重に王宮の奥へ向かっていく。
倒せそうな悪魔は処理し、手間取りそうなものはスルーしながら……ついに、俺達は国王のいる玉座の間へと辿り着いた。
『ようこそ、よく来たね。歓迎しよう、ミュリア・ルークウェル。そして、ロロン・ハートナー』
玉座に腰掛けたまま、俺達を見下ろす国王陛下。
顔を合わせたのは一度だけなんだけど、あの時とはまるで雰囲気が違う。
隠す気もない邪悪な魔力、こちらを見下すような愉悦の眼差し。
どこからどう見ても、悪魔に憑りつかれている。
「歓迎とかいらないから、さっさと消滅して陛下の体を解放しろ、クソ悪魔」
「……悪魔は滅びるべき」
『ははは、これは手厳しい。……そちらの娘は、既にほぼ悪魔のような存在だというのに』
じっとりとした眼差しが、ミュリアへと注がれる。
眉を顰める彼女へ、陛下を乗っ取った悪魔は言葉を重ねていく。
『アスモデウスを取り込んだのでしょう? 悪魔の力をその身に宿して、いつまでもただの"人間"のままでいられるわけがない』
「…………」
敵の言葉に、ミュリアは何も反論しない。
それに気を良くしたのか、ヤツはその顔に喜色を浮かべる。
『悪魔が人間から見て、滅ぶべき化け物というのは事実でしょう。ですが、それならばあなたも、いずれ同じような目で見られることは確実。……どうです? いっそ私と共に、悪魔による新たな秩序を作り上げるというのは』
「ふざけんな」
流石に黙っていられず、俺はミュリアを庇うように前に出る。
「俺達が悪魔を滅ぼすのは、力がどうとかそういう問題じゃない。お前らが人を苦しめて愉悦に浸る、クソ野郎共だからだ。だから……たとえ悪魔の力を宿していようが、その体がどう変質していようが、ミュリアは人間で、俺の一番大切な人なんだよ。てめえらの仲間なんかじゃねえ!」
「ロロン……えへへ、ありがと」
庇うために伸ばした俺の手に、ミュリアが自分の手を重ねる。
そんなミュリアの手を握り返す俺達に、悪魔の方はさして気にした素振りもなく、やれやれと肩を竦めた。
『ならば、やはり消えて貰うしかありませんね。あなた方のような悪魔狩りがいなくなれば……私はこの地上で、好きなだけ人間の負の魔力を喰らいながら生きることが出来る』
故に、と。
悪魔が玉座から立ち上がると同時に、屋内を漆黒の魔力が覆い始めた。
『見せて差し上げましょう。この私……大悪魔マモンの、長年に渡る研究成果を!!』
まるでヘドロのように粘着質な魔力がマモンへと集い、陛下の体ごとその全てを呑み込む。
それはやがて、単なる魔力ではなく質量を伴う肉と化し、マモンを肥大化させていく。
やがて誕生したのは……天井に頭が付きそうなほどに大きな巨人だった。
『肉体寿命はほんの僅か。その意味ではまだ未完成ですが……性能面では既に完璧。この力であなたを倒し、その肉体で完璧な肉体を作らせて貰いますよ……ロロン・ハートナー』
「言ってろ。ここでお前を滅ぼして、そのくだらない野望も終わらせてやる!!」
腰の刀に手を添えて、俺はマモンとの最後の戦いに挑むのだった。




