ルイスの戦い
王都は、異様な雰囲気に包まれていた。
次期国王として既に決まっていたアーメドが突如として指名手配され、近隣からかき集められた騎士達が王都中を徘徊する異常事態となったのだ。
大した説明もされず、ただ「状況が落ち着くまで建物の中でじっとしていろ」という指示のみが下された王都の住民達は、息を潜めるように閉じ籠っている。
そんな、異様な静寂が包む王都に──突如として、爆音が轟いた。
「「「ぐわぁぁぁぁ!?」」」
「はい、大人しくしてねー、あんまり抵抗すると、怪我じゃすまないよー?」
ルイス・ラインベルクの魔法によって、騎士達が次々と打ち倒されていく。
念入りに、頭や心臓を狙って純白の魔法弾を撃ちこんでいく姿は、傍目には血も涙もない虐殺のようにも見えるが……これもまた、騎士達のためである。
(実は中に悪魔が潜んでる……なんてことがあるかもしれないからね)
今回の敵は、大悪魔だ。
当然、配下の悪魔を従えており、更には人間を人間のまま異形に改造する術まで持っている。
この数の騎士を相手に、いちいちどれが騙されているだけの普通の騎士で、どれが悪魔に乗っ取られている被害者で、どれが心身共に悪魔に捧げてしまった裏切り者かなど判別出来ないし、している暇も余裕もない。
故に、どの場合であったとしても殺さずに無力化するには、悪魔が宿っている可能性の高い急所を魔素で念入りに撃ち抜いておくのが、お互いにとって一番安全なのだ。
「さて、ここら辺は一通り制圧したかな?」
屋外を動く人の気配がないことを確認し、ルイスは軽く一息吐く。
ルイスは、ルークウェル家の騎士団や獣人達とは別行動だ。
基本的な戦闘スタイルが、膨大な魔素を利用した砲撃や爆撃といった大雑把なものが多いため、集団戦闘はどうしても不得手、というのが理由だが……もう一つ。
自分が一人で派手に暴れていれば、厄介な敵を全て引き受けることが出来るだろう、という狙いもあった。
「……おっと」
突如、どこからともなく肉塊が飛来する。
それを跳び退いて回避したルイスは、素早く指先に魔素を込めた。
「《白星》……!?」
明らかな異形だ。会話など不要とばかりに魔法をぶっ放そうとするルイスだったが、すぐにそれを中断、空中で魔素の足場を作り、回避に徹する。
直後、死角から漆黒の魔法が襲い掛かり、掠めた衣服が腐り落ちていく。
『貰ったぁぁぁぁ!!』
無理な回避で体勢を崩したルイス目掛け、三体目の異形が飛び掛かって来た。
巨木の如き拳を振り被り、小柄な少女の肉体を砕かんと叩き伏せ──
「甘いよ」
『ぐわっ!?』
一度は中断していた魔法を、指先で炸裂させる。
白き閃光が異形の目を焼き、逆に無防備な姿を晒したその男を、ルイスは蹴り飛ばす。
ゴロゴロと転がっていく異形とは対照的に、蹴りの反動を利用して距離を取りつつ綺麗に着地するルイス。
三対一。いきなりのピンチだが、ルイスは全く動揺していなかった。
「悪魔憑き……にしては、体が変だね。人間なの?」
『いいや、俺達は改造された人間に悪魔が憑いた存在……マモン様により生み出された、新たなる種族、"魔族"である!!』
「……はぁ、そう」
高らかに名乗りを上げた悪魔憑きの異形……"魔族"に対して、ルイスの反応は冷淡だ。
思わぬ態度に鼻白む魔族達に対し、ルイスは練り上げた魔素を解放し、暴力的なまでの威圧感を放つ。
「別に、お前らの名前が悪魔だろうが、魔族だろうが、ゴミだろうが、なんでもいい。ボクはただ、お前らを滅ぼす。この地上から……出ていけ」
鋭い殺気と共に放たれる、白い流星。
魔素を練り上げ、悪魔を滅ぼす力を得た純白の魔法が、魔族へと迫り──
『ふんっっ!!』
最初に現れた肉塊の如き巨体を持つ魔族が、真正面からそれを受け止める。
多少の血は流させたものの、致命傷には程遠い。
その僅かな傷すら瞬く間に治癒していく光景に、ルイスは目を見開いた。
『ククク……魔族をこれまでの悪魔と同じだと思うな。貴様ら悪魔狩りへの対策も進んでいる……既にこの身に、その魔法は有効ではない!』
「……ふーん」
渋い表情を浮かべながら、ルイスは次々と魔素による魔法を放っていく。
肉塊の魔族がそれを次々と受け止めていく最中、左右に散った二体……魔法主体の優男と、腕の肥大化した大男が、挟み込むように攻撃を仕掛けた。
『消し飛べ』
『オラァァ!!』
漆黒の魔砲と、巨大な拳。それが時間差をつけて迫りくる。
対するルイスは、まず魔砲に対して右の手のひらを向けた。
「《白星》」
純白の砲撃が、漆黒の砲撃と激突。膨大な魔力をまき散らしながら相殺される。
直後、左の手のひらに魔素を込め、拳を真正面から受け止める。
「くっ……!!」
『ちぃっ、小せえ体でなんてパワーだ』
質量にして二倍どころでは済まない体格差がありながら、全く後退させられることもなく力の勝負で拮抗してみせるその様に、魔族も目を丸くする。
だが……この場にいる魔族は、大男だけではない。
『ウオォォォ!!』
「っ……!!」
肉塊の魔族が、その巨体で体当たりを仕掛けて来る。
仲間を巻き込むことすら厭わないその攻撃を、ルイスは右手一本で受け止めにかかるのだが……流石に、二体がかりでは止めきれない。
一気に吹き飛ばされ、近くの建物へと叩き付けられるルイス。
そのまま押し潰してやろうとばかりに、魔族二体の圧が強まっていき……それを弾き返すように、純白の光が爆発した。
『ぐおぉ!?』
『ちぃっ、しぶといな!』
「はあ……はあ……」
頭から流れ落ちる血を拭いながら、口の中に入った異物を唾と共に吐き出す。
未だ衰えぬ戦意を瞳に宿し、鋭く睨み付ける少女の姿に、魔族達は背筋を震わせた。
『ククク……この状況で、自分が負けることを全く考えていなさそうなその目。気に入らねえな』
「むしろ、こっちとしてはようやく体が温まって来たところなんだけど? 負ける要素なんてどこにもないよ」
『クク……クハハハ……!!』
威勢の良いセリフを吐くルイスに、肉塊の魔族は高笑いを浮かべる。
何が可笑しいとばかりに睨むルイスだったが……すぐに、この場へ近付く新しい気配に気が付いた。
『良いだろう、俺達三人でも物足りないというのなら、これで更に楽しませてやる』
蝙蝠のような翼を生やし、鋭い鉤爪を持った吸血鬼にも似た魔族。
それが男女それぞれ一体ずつ、計二体出現し、その場に舞い降りた。
「へえ……良いね、確かに楽しくなってきたよ」
五体の魔族を前にしても、ルイスの笑みに陰りはない。
そもそも彼女の狙いは、ここで暴れて敵戦力を引き付け、ロロンやミュリアが王宮へ突入する助けとなること。その意味では、自分一人に五体の魔族が襲い掛かって来たのは、それだけで作戦通りなのだ。
それに何より……。
「たかが五対一程度で、ボクが負けるわけないでしょ」
ここで絶対に、一体残らず叩き潰す。
そんな覚悟を覗かせながら、ルイスは更に魔素を練り上げていくのだった。




