作戦会議
ルイスの要請を受けて、俺はミュリアと一緒にルークウェル家へやって来た。
助けてくれた恩を返す──という理由で、獣人の戦士も何人か同行してくれたので、ルークウェル家を包囲していた近衛騎士団をスムーズにぶっ潰せたんだ。
まあ、そこまではいい。全然問題もないし、誰一人怪我もしなかった。
大変なのは、その後。もとい……ディラン公爵に、ミュリアに手を出したことがバレました。はい。
「ロロン、申し開きはあるか?」
二人きりの執務室。公爵の背後に鬼の幻覚が見えるほどの圧に晒されて、俺は冷や汗を流す。
けれど……だからと言って、ここで退くわけにも行くまい。
「ありません。責任を取って、必ずやミュリアを幸せにします」
こんなセリフで認めて貰えるわけはないし、何ならここで首を落とされるのでは? って思うんだけど、ミュリアと約束した以上流石にそれを許すわけにはいかない。
いざとなったら壁をぶち抜いて逃げるか、と半ば本気で考えていると……公爵様は深々と、本当に深々と溜息を吐いた。
「……現在、王都は悪魔によって占領されている。今回捉えた近衛騎士達も、悪魔の力によって洗脳でもされたのか、明らかに様子がおかしかった」
「……?」
急に何の話を? ……いや、状況的にはむしろその話をするのが正解なんだけど、ミュリアの話からどうしてそこへ繋がったのかと内心首を傾げていると、公爵様はほんっっっとうに嫌そうに叫んだ。
「王都、及び王宮を解放し、悪魔の手から国を救った英雄ともなれば、身分差など踏み越えてミュリアと結ばれることも十分可能だろう!! いいか、絶対に勝て!! 負けたら許さんからな!!」
「っ……はい!! 必ず!!」
すっごい遠回しに……ついでにすっごい嫌々ではあるけど、俺とミュリアの仲を認めて貰えた。
そのことが嬉しくて、俺は益々やる気を漲らせていく。
悪魔がなんぼじゃ、かかってこいや!!
「ん……話、終わったね。良かった」
「あ、ミュリア」
気合いのままに拳を握り締めていると、ミュリアが部屋に入って来た。
そのまま、俺の隣にやって来て……これ見よがしに、腕にしがみつく。
「認めて貰えなかったら……いっそ家出して、獣人の里で結婚しようかなって、思ってたから」
「…………」
冗談に聞こえない。
公爵様もそれを感じ取ったのか、実に寂しそうな目でミュリアを見ていた。
「ちゃ、ちゃんと認める。だがあくまで、悪魔を倒して王都を救ったらだからな! そこは流石に譲れん!」
「大丈夫。ロロンなら余裕。本気になれば、私のロロンは誰にも負けないもん」
いや、流石に余裕ではないと思うよ? 相手、大悪魔だからね?
「私のロロン……か……はぁ、少し目を離した隙に、益々仲が深まったようだな……」
「ええと……申し訳ありません?」
「謝るくらいなら手を出すな」
ごもっともです。
「とにかく、王都奪還を目指すことに変わりはない。ロロンとミュリアがいる以上、本格的に反攻作を開始出来る」
それまでの、ちょっと哀愁漂う父親としての顔を引っ込めて、公爵家当主としての真面目な表情になるディラン様。
アーメド殿下やルイスなんかも部屋に招いて、本格的な作戦会議が始まった。
「王都から送り込まれた近衛騎士団を打ち倒したとはいえ、全体からすればごく一部。構成はほとんど、そこらの貴族から適当に徴収した騎士団による混成部隊だったからな、本隊は未だに王都にいるだろう」
「まずはそれを突破しなければ、悪魔には辿り着けないというわけだな」
「その通りです、殿下」
「ならば、王宮に突入して父上の救出……あるいは討伐を請け負う者と、その突入を助けるために近衛と戦う者とで、別れるのがベストか」
「殿下……」
あえて"討伐"という強い言葉を使ったアーメド殿下に驚いていると、当人は困り顔で肩を竦める。
「最悪の事態を、想定しないわけにはいくまい。父上が、必ずしも救出可能な状態であるかどうかも……本当に、此度の動乱が父の意思に反しているとも限らないのだからな」
確かに、殿下の懸念は正しいかもしれない。
王都の状況はまだほとんど分からないけど、人間を化け物に改造して好き勝手使い潰すような大悪魔に占領されている状況を放置して、ロクな結果になるわけがないことは確かだ。
それでも……。
「助けますよ、必ず。任せてください」
「ロロン、そうは言うが……」
「ほら、陛下が生きていてくれないと、俺を英雄だって正式に認定してくれる人がいなくなるじゃないですか。ミュリアと結婚するためにも、ちゃんと俺に助けられて貰わないと」
「それは大事。絶対に助けよう、ロロン」
俺が咄嗟に思い付いた建前を述べると、ミュリアがめちゃくちゃ食いついて来た。
いや……まあ、本当のところ、アーメド殿下が次期国王になれば、必ずしも陛下が生きていなくても出来なくはないと思うんだけど……せっかくやる気なんだし、黙っておこう。
「くっ、ははは……! そうだな、もし父上を助け出してくれたなら、王家が全面的に君達の結婚をバックアップしよう。どんな式がいいか考えておいてくれ」
「よし。約束」
ミュリアが燃えている。
それを見て、今度はルイスがやれやれと肩を竦めた。
「じゃあ、王宮への突入はミュリアとロロンに任せるよ。ボクは他の人達と、二人が突入するための隙を作るね。真正面から近衛騎士団をぶっ叩くよ」
「いいのか? ルイス」
ルイスのことだから、大悪魔は絶対に自分の手で、って言いだすと思ってたんだけど。
「どっちみち、向こうが素直に王宮にいるとは限らないから、ボク達は一塊にならない方が良いし。なら、大悪魔以外の理由があるロロン達が王宮に向かう方が良いかなって」
「それもそうか……ありがとう、ルイス。そっちも気を付けてな」
「もちろん」
「……決まりだな」
俺とルイスの間で話が纏まったところで、公爵様が一言告げる。
「これより、我らは王都及び王宮の解放作戦を開始する!! 皆の武運を祈る!!」




