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新装備とミュリアの訓練

 ディラン公爵から貰った魔石のお陰で、ミュリアと一緒に過ごせる時間が増えた。


 それ自体は喜ばしいことなんだけど、だからって訓練時間を短くしていい理由にはならない。


 特に魔力は、今こそ伸び盛りなんだ。

 例の事件以降、文官見習いとしての仕事が増えてお給金も思った以上に貰えてるので、その大半を魔力回復薬に当てて、毎日毎晩気絶するまで訓練してる。


 あまりにも気絶し過ぎて、最初は心配してた家族が呆れ顔になってるくらいだ。もはや日常の一コマだな。


 そんな感じで日々を過ごして、半年。

 俺は今日、ついに完成したという俺の専用装備を受け取るべく、町の鍛冶屋にやって来た。


「注文通りの仕上がりになっとるぞ。こんなオーダーは初めてだからな、なかなか楽しかったわい」


「ありがとう、ドーラさん!」


 まるでドワーフのように逞しい体と口髭を蓄えたお爺さんから受け取ったのは、鞘に収められた細身の片刃剣──もとい、“刀”だ。


 前世では馴染み深い、こっちではあまり使い手のいないらしいそれを見て、付き添いでやって来たお父様は首を傾げている。


「なんだってまた、そんな珍しい剣にしたんだ? それだと、公爵家で習う剣術も上手く活かせないだろうに」


「それにはまあ……色々と事情があるんだよ」


 今の俺だと、腰じゃなくて背中に背負わなきゃ持ち運べない、本格的な日本刀。


 なぜこんなものを自分の装備として選んだのかというと……まあうん、俺には色々と才能が足りなかったから、という話になる。


 具体的には、どれだけ訓練しても、魔素の制御も維持も、俺にはほとんど出来なかったんだ。


 自分の体以外の物に宿しておいて、必要な時に取り出して使うのが関の山。

 そんな有様では、身体強化魔法や、剣に宿して振り回すくらいしか使い道がない。


 それでいて、魔素を使った強化魔法を全力で発動すると、凄まじい勢いでそれが消費拡散されていくので……ミュリアと会うだけならまだしも、実戦となると継戦時間が三分程度になってしまう。


 その問題を解決するため、悩みに悩んで辿り着いた結論が、刀を使った“抜刀術”。

 刀を抜き放った一瞬だけ全力を出し、即座に納刀することで、魔素の拡散と消費を抑えながら戦うという苦肉の策だ。


 これを成立させるため、刀身は魔力を宿しやすい金属で作られ、鞘は魔力の拡散を抑える仕込みがされている。


 ……とまあ、色々と注文を付けたせいでバカみたいに高くなったから、公爵様が給料の先払いを認めてくれなかったら、後二年は完成が遅れてたね。

 製作経緯を思うとなんとも情けなくなるけど、これは初めて手に入れた自分だけの武器、自分だけの力だ。


 そう思うと、なかなか感無量というか……うん、テンション上がるな!


「定期的に整備に来い、面白い仕事をさせてくれた褒美に、格安で診てやる。それと、もう一つ頼まれてたこれの整備も終わってるぞ」


「ありがとう、助かるよ」


 刀を背負い、最後にもう一つの装備品……ディラン公爵から貰った魔石を元に作ったネックレスを受け取って、店を後にする。


 魔素を作るための媒体兼、身体強化魔法を維持するための補助具として、半年前に作って貰った装備品。


 刀があれば必要ないっちゃないんだけど、まだ出来たばっかりで上手く行くとは限らないし、そうでなくとも常にどんな場所でも刀を持ち歩けるわけじゃないから、まだまだ必要だろう。


 それに……俺が使う以外にも、大事な用途がもう一つあるしな。


「いいかロロン? それはめちゃくちゃ大事なものだからな? 剣が出来たからって粗雑に扱うんじゃないぞ?」


「分かってるよ、もうそれ何回も聞いたから」


 鍛冶屋から公爵家へと戻る途中、お父様から何度も釘を刺される。


 いや、未だに誰も詳細を教えてくれないんだけど、俺が貰ったこの魔石、どうも公爵家にとって相当大事な物っぽいんだよね。

 お父様だけじゃなく、騎士の中にもちょっと剣呑な眼差しで睨んでくる奴とかいたから、訓練中は外から見えないようにポケットに仕舞い込んでるくらい。


 なんでそんなもんを、なんの前触れもなく俺にポンと渡して来たのかは謎だけど。

 公爵様、何考えてんですかね?


「それじゃお父様、俺ミュリアお嬢様のとこ行くから」


「こら、まだ話は……ああもう、気を付けるんだぞ!」


「はーい」


 お父様に適当に手を振りながら、勝手知ったる公爵家の庭を抜け、ミュリアのいる離れに。


 練習がてら刀の中で魔素を生成し、刀身を少しだけ鞘から覗かせることで身体強化魔法を発動。


 準備が出来たところで、俺は離れの扉をノックした。


「ミュリアお嬢様、入りますよー」


『……入って』


 返事が聞こえてきたところで、俺は扉を開けて中に入る。

 と、ほぼ同時に、小さな銀色の塊……もとい、ミュリアが突っ込んできた。おおっと。


「ロロン……待ってた」


「お待たせしました、お嬢様」


 俺の胸に頭突きしてきたミュリアは、そのままぐりぐりと顔を押し付けて来る。


 最初の頃は会話すら出来なかったのに、今やこうして俺が来るのを心待ちにしてくれるほどに懐いているのは、なかなか感慨深いものがあるよなぁ。


「今日は、何するの……? ロロンとなら、何でもするよ」


「今日は、ネックレスが整備から戻ってきましたし、魔力制御の練習をしましょう」


「うん……!」


 何でも、なんて簡単に口にするミュリアに少しだけこう、悪戯心が湧き上がりそうになるのをぐっと堪え、真面目な態度でそう伝えた。


 そんなことをしたら、物理的に首が飛ぶわ。


 なので、代わりに取り出したのは、整備して貰ったばかりの魔石ネックレス。

 これを使って、ミュリアにも“魔素”を習得して貰う試みを、ここ二ヶ月ほど取り組んでるんだ。


「焦らなくていいので、ゆっくりとやって行きましょう」


「うん……ロロン、手……握ってて」


「はい、仰せのままに」


 ベッドに並んで腰掛け、ミュリアの右手に魔石、左手は俺が握り締める。


 そうして、ミュリアはゆっくりと魔石へと魔力を注ぎ始めた。


「…………」


 集中して目を閉じるミュリアを、俺は静かに見守る。


 ……俺の目的は、ミュリアの闇堕ちを阻止すること。

 そのためには、単に俺が仲良くなって心の支えとなるだけでなく、ミュリアが離れの外に出て、家族と仲良くなって貰う必要がある。


 何せ、闇堕ちの直接の切っ掛けは、ミュリアが家族を殺すことなんだから。


 そうならないように、ミュリアが自分の意思で力を制御して、この離れから外に出られるようにしなきゃいけない。


 そのために考えたのが、ミュリアに魔素の生成を習得させることだった。


 基本的に、魔力が制御出来ないのは、魔力が多すぎるから。

 その多すぎる魔力を使いこなすための技術が魔素生成なのだから、ミュリアにも合うと思うんだよな。


 難点は、習得難易度がめっちゃ高くて、うっかりすると逆に魔力の暴発を引き起こしかねないことか。


 こんな風に。


「あっ……!」


 ミュリアの一言と同時に、ペンダントから一気に魔力が溢れ出す。


 呪いが籠った魔力の奔流を前に、俺は咄嗟に刀を指で弾く。

 露出した刀身から魔素を取り出し、身体強化魔法を全力展開。呪いに抵抗した。


 ごふっ。それでもちょっとキツイ。

 でも、ミュリアに心配をかけないために、意地でも表情は崩さなかった。


「ロ、ロロン……! 大丈夫……!?」


「ええ、平気ですよ。一旦落ち着いて、もう一回やってみましょうか」


「でも……」


「俺は、絶対に死んだりしませんから。それに……明日から数日、ここに来れなくなるので、今のうちに少し多めに練習しておきたいんですよ」


「え……?」


 この世の終わりみたいな表情になるミュリアに、俺は頭をそっと撫でることで落ち着かせる。


「ミュリアお嬢様の正式な騎士になるために、今のうちから少しずつ実績を積まないといけないんだそうです。大丈夫、俺はただ騎士団の遠征に帯同するだけですから、危ないことはありませんよ」


「…………」


 俺がそう伝えると、ミュリアは俺と繋いだままになっていた左手の力を強め……だけでなく、右手も重ねて縋るような眼差しを向けてきた。


「絶対……また、来てね……?」


「はい。少し予定がズレる可能性もありますが……長くても一週間です。それまで、俺がいなくてもきちんと食事して、元気でいてくださいね」


「ん……約束、だよ……」


 そっと手を伸ばし、長い銀髪を梳くように何度も撫でていく。


 この時俺は、ミュリアほど深くは考えず、楽観的に捉えていた。ただ騎士団について行くだけだからと。


 この遠征が、思わぬ形で俺に初実戦の機会をもたらすなんて、想像もしてなかったんだ。

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