37 会敵
百火と彩火にきちんと浴衣を着せてから、マリアに事のあらましを説明した。
3人揃ってベッドの上で正座をしている。
「奴隷を二人も買って、しかも片方はアイリスの召喚魔、片方は元暗殺者。その上、野宮リリイにも接触した……ですか。よくまぁ半日でこれだけの事が起きるものですね?」
「ごめんなさい」
ベッドのシーツに額を擦りつけ、平謝りしている。
「一先ず、リリイの件は今考えても仕方がありませんから、この機会にタカキの事で前々から気になっていたことを指摘します」
「えっと、なんでしょう」
「ステータス、少しは確認してますか? してませんよね?」
「……してないっすね」
「今すぐ開きなさい! スキルのチェック! 全部目を通して!」
「はい!」
ここ一番で機嫌の悪いマリアに言われた通り、ステータスを開く。
スキルの項目を開き、スキルツリーを表示させて、違和感に気付いた。
初めてステータスを開いた時と比べて倍以上にスキルが増え、ツリーも区雑に分岐していた。
その中を見ていくと、僕が装備品に付与した効果もいっぱい入っている。
水筒【改】に付いた『容量増加』スキルもある、何の容量が増加したのか判らないけど。
特殊固有スキルの『進化魔法Ⅰ』は相変わらずランクアップしてない……。
ただ、他のスキルはランクアップしている物も多かった。
『日本剣術』はランクアップし、僕のスキルに加筆されている。
もう木刀がなくても使えるスキルって事だ。
スキルの中で取り分け目を引いたのは、固有スキルだ。
『仮想防壁』『再生』『血の契約』
この3つのツリーが、通知を知らせるスマホの様に点滅していた。
まずは仮想防壁をタップして、詳細を表示させる。
『例外者設定:【科雨マリア】【アイリス・リズボン】 *【例外に奴隷を追加する】タップして下さい』
書いてある通りにボタンをタップすると、〝例外者設定〟に【百火】【彩火】が追加される。
マリアの前でもアイリスと自然に触れ合っていた事を思い出した。
既にアイリスが設定されていたのは、マリアの防壁が付与される前から関係を持っていたからか?
次に『再生』は、新しいスペル『継続治癒』が加筆されていた。
これは戦闘で使えるな。
最後に、今日は嫌と言うほど耳にした『血の契約』だ。
《〝血の契約〟を履行。奴隷とのリンクを開始します》
これをタップして驚いた。
百火と彩火の状態が判るようになったのだ。
現在地や健康状態などが判る、RPGでパーティメンバーのステータスを見る感じだ。
僕のステータスに、奴隷二人が完全に紐づいた瞬間を目の当たりにして、〝血の契約〟と言うものをようやく理解した。
「スキル、大体見たよ」
「見て、どう思いましたか?」
「持ってるスキルが増えてたり、ランクが上がってましたね。スペルも増えてたし」
「固有スキルは?」
「増えてます。『再生』の次に『血の契約』が」
「じゃなくて、私の〝彼ぴ設定〟で『仮想防壁』を使えるようになったでしょ⁉」
「なってます。例外対象に奴隷たちを入れましたよ?」
「だから! ちがぁーう! そうじゃないでしょ! 何余計なことしてんの! もう一回開いて! 今すぐ!」
滅茶苦茶怒ってるので、大人しくステータスを開きなおし、仮想防壁を開く。
スキルツリーの分岐があり、先を見ると新しいアビリティが派生していた。
「アビリティに『任意防壁』が加筆されてました」
「そうです。私の〝彼ぴ設定〟のランクが上がったので、タカキのスキルも強化されたんですよ」
「このスキル、相互作用があるのか……」
「タカキが進化させた〝杖〟で、アリーヤに固有スキルが発現したでしょ? 特殊固有スキルは、そこらの固有スキルとは影響力の次元が違うのよ」
「なるほど……」
「私が強くなれば、タカキの防御も厚くなります。その事を貴方にもきちんと理解して頂きたい」
マリアはそう言って、玄関に向かって歩いていき、ドアノブに手を掛ける。
玄関脇に置いてあった僕の拳銃を手に取って、ローブの内側に隠し持った。
「この魔銃、借りますね。コサギちゃんは私に任せて、今日は大人しく部屋に居てください。ただし、くれぐれも奴隷といかがわしい事をしないように」
◆◆◆◆◆◆
街中に、午後を知らせる音楽が流れはじめた。
人通りの流れが変わり、帰路に着く人々の顔が見える。
流れに逆らって市街地から離れていく間、隣を歩くイエッタがピザを咥える。
「ビビってんの? カチコミ行くの初めてって訳じゃないだろ」
咀嚼しながら言ってくる。
「貴女はどうなんです?」
「ビビってたら潜入捜査官はできねぇな」
「羨ましくはないですね」
ピザを全て飲み込んで「だろうな」と言いながら、ローブの内ポケットからドーナツを取り出して口へ運ぶ。
「いつまで食べてるんですか」
「脳みそが欲しがってんだよな、ブドウ糖を。マリアがそうやって私に口出しをする時は、いつもビビってる時だ。あんたが招いた不始末って訳じゃないんだし、普段通りやろうや」咀嚼しながら、イエッタが病院を指差した。
「何人集めた?」
「いつもの見飽きた顔ぶれだが」イエッタが言葉の途中で「それで?」誰もいない空間に返事をする。
〝名も無い暗部〟の構成員がいる。
姿を消す呪文で身を隠していた。
「出入口は全部おさえた、結界も張った。患者には悪いが、突入後に全員隔離する手筈だって」
「手早く行こう」
「さっさと医者を殺して、晩飯にしよう」
「殺すなよ、お喋りな口は残せ」
「それ、シノ君の前でも言える?」からかいながら言うイエッタに「タカキは、私の大切な人だよ」
「それで?」「私にもドーナツをくれたら教えてあげます」
「じゃあ、聞かなかったことにするさ」
病院の入り口に立ち、イエッタがドアを蹴破る。
受付に女性が一人いる以外に、待合室に患者もいなかった。
「診察時間は過ぎてますからね」
イエッタはドアを閉め、内側から魔法で固定する。
「腹ばいになれ、大人しくすれば傷つけない」
イエッタが杖を向け、入口から順に制圧し、先へ進む。
〝名も無い暗部〟の処理班も病院の中へ入り込み、病室を一つずつ封鎖していく。
二部屋ある診察室を順に蹴破り、室内を探る。
一番奥に目当ての医者がいた。
彼は机に向かい、カルテを片づけているようだった。
私は診察用の椅子に腰かけて医者の机に書類を置く。
「見覚えは?」
落ち着いた様子で、渡された書類を手に取り「今日は何の用ですか?」と尋ねてくる。
「身体が悪いようには見えませんが」と茶化すように言う医者に、苛立ちを覚える。
「貴方はゴブリンの娘を鑑定したでしょう、その理由を知りたい」
「仕事柄、と言うほかありませんよ」
「さっさと喋っちゃってよ、色々と面倒が省ける」
イエッタが癇に障ったように口を挟む。
「そもそも、貴女たちは誰なんですか。何の権利があってこんな事を?」
医者の問いにイエッタが答える。
「あたしがMで、この怖い女もMだ。こっちは国家権力使って来てんだよ」
「私たちはチョコレートみたいに甘くは無いぞ」と医者を脅しながら、イエッタに「お前もMだったか?」と聞くと「SかMかと訊かれればね」
軽口の絶えない女だ。
医者は物怖じせずに、鼻息を漏らしながら言う。
「ですから、診察の一環ですよ。ゴブリンの治療は経験がありませんから。医療行為ですよ? 鑑定を使ったからって、問題はないはずです」
「先日、国家反逆罪に問われている『トオ』と言う男を一時的に捕縛しました。その書類は『トオ』が所持していたゴブリン娘の鑑定結果と、スキルを利用した犯罪の計画書だ」
「それと俺になんの関係が?」
「貴様のお粗末な鑑定スキルが証拠を残していた。だからお前の名も、場所も割れた。〝エス医師〟」
「そうそう、あたし等がMで、あんたがS。やだぁこわぁい、いじめないでぇ?」
ふざけながら言うイエッタが、ナイフを抜いた。
それに合わせて、私もタカキの銃を抜き、構える。
エスはナイフの刀身を見て、急に顔色を変え診察室の奥に逃げていく。
「イエッタ、拘束しろ」
「はいはい」
駆け足で追うイエッタの後を追って、隣の診察室まで移動する。
注射器などを乗せたワゴンを勢いよく倒して逃げるエス医師は、見えない何者かに捕まり、組み伏せられている。
既に逃げ場を抑えていた〝名も無い暗部〟の者だ。
「俺は違う! 違うんだ、説明させてくれ!」
「お前も〝野宮リリイ〟の手先だろう?」
「違う、俺は……」
エスの顔に銃を突き付け、情報を聞き出そうとすると、蹴破ったドアの向こう側で何かが転がっていった。
その後には、床に鮮血が広がっている。
ターミナルの一人が、やられたのか。
「くそ、ヘマしやがって! 結界はどうした⁉」
悪態を付くイエッタが杖を構えると同時に、背の高い男が一人、診察室に入ってきた。
整えた赤い髪に、灰色の背広を着て、青いネクタイを締めたサラリーマンの様な風体の男は、床に倒れている医者に声を掛ける。
「女二人くらい、さっさと殺してくださいよ。エス」




