窓際の一番後ろの席は特等席ですよ!
主人公は小さな事が気になる小市民です。
「宮緒〜?空気を読めよ、皆がどん引いてるぞ〜」
「ああ、すみません。あまりにも千夏さんの挨拶が素敵だったので、ついつい拍手してしまいました」
先生の呆れたような突っ込みは蓮さんには通じなかったようです。
笑顔でさらり。
私、調子に乗ってドヤ顔はしましたが、拍手して頂けるような立派な挨拶が出来たとは思えないんですけど。
「……お前さん、さっきの職員室でも思ったが、そんな性格だったか?もっとこう、年の割りに泰然自若って感じだった気がするんだが……」
「ははは、私も自分にこのような部分があった事を今日の今日まで知りませんでしたよ?」
「は〜っ。なんか、早々に変なのに目を付けられて、あいつが可哀想に思えてきたぞ」
「変なのとは失礼ですね。ですが、実は私もそう思います」
何の話でしょう?
苦虫を噛み潰したような顔で蓮さんと話していた先生に、横目でちらっと見られたような?
「千夏さん、今日からクラスメイトですね。改めてよろしくお願いしますね」
蓮さんが座っていた席から立ち上がり微笑んでくれました。
「あ、あの!蓮さんは先輩じゃなかったんですか!?」
「いいえ?浪人も留年もしていないので、間違い無く千夏さんと同じ歳ですよ」
「ええっっ!?」
なんということでしょう!
同じ歳位だとは思いましたが、本当に同じ歳だったとは!
いや、同じクラスなんですから、そうなんでしょうけど!
で、でもでも!!
「蓮さん、制服ちょっと違いますよね?基本は男子の制服と同じですけど、良く見ると所々色とかデザインが違ったので……」
……そうなんです。
蓮さんが着ているのは青葉台の男子の制服なんですけど、ジャケットの襟とか袖が微妙に違っていたので学年ごとに変わるのかと思ったんですよね。
学年が上がるごとにスタイリッシュなスーツっぽいデザインになっていくのかなぁ、と。
──女子もそうなら、一年でお高い制服を買い換えるの勿体無いなぁとか小市民は思ってしまいましたよ。
今、周りを見回しても他の男子生徒とはやっぱり違いますし、そうじゃないなら蓮さんだけデザインが違うの不思議なんですけど……。
執事さんは違うとか特殊な事情があったりするんでしょうか?
「これも一応、青葉台の正規の制服なんですよ」
「えっ?そうなんですか?」
制服に選択肢があったなんて知りませんでした。
女子にもあったんでしょうか?
パンフレットに載ってましたかね?
試験勉強ばかりしていて、パンフレットの隅々まで目を通す暇が無かったんですよね。
まあ、暇があったとしても一番お安いスタンダードな制服を選んだでしょうから、結果は変わらないんですけど。
「この制服は限られたヤツしか着れないんだ。まあ、簡単に言えば生徒会とかそういう役職持ちの生徒専用だな」
山藤先生が疑問に答えてくれました。
「えっ!そうなんですか!?」
なんと、蓮さんは園子お嬢様の執事さんをしながら、生徒会とかの仕事もしているって事なんですね!
若いのに凄い働き者です、勤勉ですね!
私が蓮さんに感心していると、山藤先生に名前を呼ばれました。
「笹森、そろそろ席に座れ。取り敢えずそこの空いてる席に……」
「先生、千夏さんの席ですが、顔見知りの私の隣が良いと思うのですが。何か分からないことがあった時にも質問しやすいでしょうし」
え?
山藤先生の言葉を遮り、蓮さんが自分の席のお隣を勧めてきました。
蓮さんの席は教室の真ん中辺りです。
当然ですが、左右どちらの席も座っている方が居ます。
見渡すと、窓際の一番後ろという小市民的特等席が空席の様なんで、出来れば私はそこがいいんですが……。
「あ〜、まあ一理あるか……。笹森はそれでいいか?」
「で、でも、座っている方も居ますし、わざわざ代わって頂くのも面倒でしょうし……」
いいかと聞かれ、嫌ですとはっきり答えられない小心者ですが、それでも抵抗はしてみます。
出来れば特等席に座りたいので!
「千夏さん、大丈夫ですよ。私の隣の近藤さんが席を移動して下さるそうなので」
「え……」
にっこり笑顔の蓮さん。
いつの間にお隣の席の方と交渉したのか、私の席は特等席から離れた蓮さんのお隣に確定していました。
「そうなのか?んじゃ悪いけど近藤、席を移動してくれるか?」
「はい」
近藤と呼ばれた女子が机の中をささっと片付け、鞄を持って移動してくれました。
ああっ、お手数お掛けしてすみません近藤さん!
でも、私的には貴女がこれから座る特等席が良かったんです!
「ありがとうございます、近藤さん」
蓮さんが近藤さんににこやかにお礼を言ってます。
近藤さんは気にするなとばかりに手を上げて了承の合図を送られましたが、その姿がなかなかに男前ですね。
……はっ!
席を移動する近藤さんの後ろ姿を見ていて、気が付いてしまったんですが!
蓮さんの外見は武士的イケメンさんです。
時として笑顔の圧が凄かったり、真っ黒い暗黒オーラを放出したりしますが、中身だって初対面の私を職員室まで連れていってくれる親切な方です。
女子としては隣の席から移動するのは嫌だったりしないでしょうか?
私、近藤さんに恨まれたりしないでしょうか!?
「千夏さん、近藤さんが席を空けて下さったので座ってはいかがですか?」
「ほら、出欠の確認とかするから、早く座れよ~」
「あ、はい……」
転校初日から女子の恨みを買ってしまったかもと悶々としている私に、蓮さんは自分の隣の席のイスを引いて座るように促してきます。
わざわざイスを引いてくれるなんて、さすが執事さんですよね。
個人的にはそれどころでは無いんですが……先生にまでさっさと座れと促されてしまったので、渋々席に座ります。
「千夏さん、これからは何でも私に聞いてくださいね。どんな事でも手取り足取り丁寧にお教えしますから」
「……ありがとうございます」
何でしょう?
今、ゾクッと背筋に何かが走ったような?
気のせいでしょうか?
きっと、気のせいですね!
ヒーロー、ガンガン押します。




