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夢現ドロップ  作者: 橘 雫


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6/12

ブラボー!?

サクサクと早く進めたいなぁ……。


「山藤先生、千夏さんを揶揄うのはその辺にして下さいね」



「み、宮緒?宮緒さん?分かったから、すまんかったから、そんな目で先生を見ないで!」



ニヤニヤしながらの山藤先生の追求を止めてくれた蓮さんの顔は微笑んではいますけど、目は笑っていないしまたしても黒いオーラが……!

ひえっ。

蓮さんの顔を見て慌てて謝罪した山藤先生の顔も引き攣っていますよ。

その気持ち、ちょっと分かります(遠い目)。



「謝罪ならば千夏さんにお願い致します」



「……おう。笹森、悪ふざけし過ぎてすまんかったな」



「い、いえ」



素直に謝罪してくれた山藤先生ですが、「宮緒マジで怖い。鳥肌立った」と言いながら腕を擦っていました。

確かに、黒オーラを出した蓮さんは怖いです。

出来れば私も二度と見たくはありません。



「それにしても、お前さん見た目はつんとした綺麗な黒猫っぽいのに、中身と一致してないなぁ〜。揶揄われてもさらっと流しそうな顔してるのに」



残念そうに言われましたが、余計なお世話です。

蓮さんに怒られたのに、立ち直るの早過ぎですよ!

園子嬢に悪役認定されたちょっと(?)きつめな顔は私のコンプレックスです。

初対面の印象が悪過ぎるので!

いつも友達が出来るまでに結構な時間が掛かるんですよ。

過去の友達作りの苦労を思い出すと泣きそうになります。



それに、先生だって外見の印象と中身が違い過ぎですよ!

人の事は言えません。

外見だけならもっとこう、気だるく大人っぽい対応をしそうなのに、中身はけっこうやんちゃな感じじゃないですか!

生徒に怒られたりしてますし、セレブ校の先生って感じじゃありませんよ?

お金持ちのご子息やご令嬢にもこんな感じで接しているんでしょうか?

……いえ、権力に弱い先生にそれはありませんね。



「ま、いっか。そろそろチャイムも鳴るし、宮緒は遅刻扱いにならない様、先に行け」



「分かりました」



蓮さんは山藤先生の言葉に頷くと「また後で」と言い残し、職員室を出ていかれました。

親切にここまで案内してくれたのにお礼をきちんと言えなかったので、またお会いした時にはちゃんとお礼をしたいと思います。



「んじゃ、俺達も教室に向かうとするぞ~」



「え?」



机の上の新聞を無造作に折り畳み、出席簿を持って立ち上がった先生に手招きされました。



「あのっ!私、校長先生に挨拶していないんですけど」



「……あ〜、ウチの校長はお飾りだからな、挨拶とかはいいさ。今もどっか校内をぶらぶらと美術品を眺めながら散歩してるだろうしな」



「は?散歩?え、校長先生に挨拶しないとか、それで良いんですか!?後々、問題になったり……」



校長先生がお飾りとは!?

しかも散歩中って『ぶらり校長、校内美術品散歩』って事ですか!?



「大丈夫、大丈夫!挨拶必要なトコにはもうしたようなもんだしな」



「??」



「後から分かるよ。お前さんもしっかり巻き込まれたみたいだしな」



何の事でしょう……。

嫌な予感しかしません。

一瞬、さっきの豆台風こと、園子お嬢様が頭を過ったんですが……。



「ほら!遅れるなよ。迷子になるぞ」



「はっ、はい!!」



考える時間は無いようですね。

とっとと職員室から出て行く先生の後を、慌てて追い掛けます。

またしても、曲がったり上がったり曲がったり……。

……後で校内の見取り図が無いか聞いてみましょう。



いつか本当に校内で迷子になるかも……と心配しながら、先生の後をテクテクと歩き、辿り着いた先は2年A組前でした。



「ここがお前さんのクラスな。クラスは成績順。上がAでそっから下に順にDまで。あの編入試験に受かったお前さんは余裕のAだな」



昔から勉強は得意でしたが、青葉台の編入試験の難しさは有名だったので、超勉強しました!

一生分の勉強をした気分なので、今後燃え尽き症候群にならないかちょつぴり心配です。



「物思いに耽ってるとこ悪いが、時間だぞ」



チャイムの音が校舎中に響きます。

何の変哲も無いチャイムの音が妙に高級そうに聞こえるのは気のせいでしょうか?



「おら、行くぞ」



「!!」



心の準備をする暇も無く、先生が勢い良く教室の扉を開けました。

少しくらい猶予を下さっても良いんですけど!?



「おう!皆、席に着いてるな?今日は転校生を連れてきたぞ〜!おーい、笹森、勿体振ってないでさっさと入ってこいよ」



わ~、山藤先生ったらセレブ高校とは思えないお言葉遣いですね!

教室内のざわざわ感が伝わってきます。

こういう感じは普通の高校と変わらないんですね!

なんて現実逃避してる場合ではありません。

覚悟を決めて、さっさと入らなくては……。



「し、失礼します……」



緊張でプルプルする手足を無理矢理動かし、教室内に入ります。

う、俯き気味なのは許して下さいね!

小市民はこんな状況で「ハロー」なんて笑顔で手を振りながら登場出来ませんから!



ギクシャクとぎこちなくも先生の居る教卓の横に着きま

したが、教室の入り口から教卓までがやたらと長く感じましたよ……。

たったの数歩だったんですが、これだけで一仕事終わった気分です。

このまま帰って寝られたら幸せかも。



「笹森、緊張してるのは分かるが自己紹介しろよ〜」



「は、はい……」



お、鬼がいました!

優しさの欠片もありませんよ!

し、しかし、自己紹介をしない訳にはいきません。

小心者ゆえの人見知りをいつまでも発揮している場合ではないですね!



「は、はじめまして。笹森 千夏と申します。今日からこのクラスでお世話になる事になりました。色々と至らない事もあるとは思いますが、どうぞよろしくお願い致します」



どやっ!

やってやりました!!

最初以外、噛まずに言えましたよ!!

ぺこりと下げた顔は勿論どや顔です。

初対面の挨拶は大事ですからね、昨日何回も練習した甲斐がありました!

私の場合、少しでも印象を良くしないとですから!



内心、ガッツポーズを決めていましたが……パンパンッ!といきなり響いた拍手の音に、思わず顔を上げてしまいました。



あれ?



……蓮さん?



拍手の主は先程、職員室前で別れた蓮さんでした。

にっこり片えくぼを浮かべて私を見ています。



30人程いる男女も、蓮さんに注目しています。

そりゃあびっくりしますよね。

横の先生もびっくり顔です。

あの大きな手での拍手ですもん、かなり響きました。

ブラボー!とか言って立ち上がっちゃいそうな勢いでしたよ。



「千夏さん、とても素敵なご挨拶でした」



「あ、ありがとうございます?」



「これからはクラスメイトとして是非とも仲良くして下さいね」



蓮さん、同じクラスだったんですね!

私、先輩だとばかり思ってましたよ!






山藤先生はセレブ校に勤めてはいますが、生まれも育ちもバリバリ庶民です。


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