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夢現ドロップ  作者: 橘 雫


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ぞくぞくしました!!

段々と出てくるヒーローの本性……。

「あら、私としたことが忘れていましたわ!私の理想ぴったりの悪役令嬢を見付けた事を正親様達にもお伝えしに行かなくては!」



「え?え?あの?」



「あ、宮緒!笹森さんは転校生だそうだから、職員室までの道がわからないでしょうし案内して差し上げて。ついでにクラスを聞いておいて下さいまし!」



「かしこまりました。園子様、校舎内では走らないよう広瀬様の所までお向かい下さいね」



園子お嬢様は私の戸惑いなど気にした風も無く「では!」と一方的に別れの挨拶をすると、宮緒さんの声が聞こえたのか聞こえていないのか、風のように校内に向かって走り去って行かれました。

驚く事に中学生では無く、高校生だったようです。

そして、宮緒さんに転校生の私を職員室まで案内するようお願いしてくれる気遣いの出来るお嬢様でした。

ですが、私としましてはちょっとした豆台風に襲われた被害者気分ですよ?

お豆サイズですが、威力はかなり強力でした。

結局、宮緒さんとの誤解も解けないままですし……。



精神的疲労でぐったりしている私の手が、そっと掴まれました。

宮緒さんが私の手を取り、見つめてきます。



「千夏さんは職員室に行くのでしょう?場所はご存知無いですよね?園子様のせいで時間にも余裕が無いようですし、御案内致しますね」



「あのっ、案内はとても有り難いんですけど、その、浅見さんを一人にして良かったんですか?」



「園子様の行き先は分かっておりますし、校内には危険な事は一切ありませんので御安心下さい」



校内はセキュリティがしっかりしているらしく、一人走り去った園子お嬢様も心配いらない様なので安心しましたが……、何故、宮緒さんは私の手を握っているのでしょう?

とっても大きな宮緒さんの手に、私の掌はスッポリ覆われています。

私の頭なんて、簡単に掴めそうな大きさです。

こんなイケメンに手を握られたことなど無い、一般ピーポーは立ったまま白目で気絶しそうなんですけど!



「て、手を、離して頂けると……」



「校内は広いので、迷子にならないように僭越ながら私が手を引かせて頂きますね」



「……ありがとうございます」



手を離して貰おうとしたんですが、にっこりと微笑みを浮かべた宮緒さんにさらりと流されてしまいました。

イケメンに手を引かれた小市民女子が端からどう見えるのか気掛かりですけど、繋いだ手を振りほどけそうも無いのでせめて顔を上げずに下を見て歩いていると───



ぞわっっ!!



「ひゃっ!?」



「おや、どうされました?」



思わず立ち止まってしまいました。

いっ、今、掌を撫でられました!?

宮緒さんの指が掌の真ん中辺りを撫でていったような気がしましたよ!?

普段、人に触られることなど無い掌は思の外敏感だったらしく、びくっとしてしまいました。



「どこか具合でもお悪いのでしたら、職員室の前に保健室にお連れ致しますが……」



「いっ、いえ!すみません。何でもない……です」



不思議そうな宮緒さん。

故意では無かったようです。

きっと偶然ですよね!

それはそうです、初対面のイケメンさんにセクハラされる程のスペックなんて私にはありませんので!

……若干、自分で自分を傷付けて涙目ですが気にしないで下さい。



「……そうですか?では、急いで職員室に向かいましょうか」



「よ、よろしくお願いします。宮緒さん」



「……」



あ、あれ?

どうしたんでしょう?

宮緒さんが微笑んだまま、立ち止まって歩き出しません。

私、急ぎたいんですが……。

手を繋がれたままなので、1人で行く事も出来ません。



「あの?宮緒さん?」



「……千夏さん、宮緒ではなく蓮とお呼び下さい?」



「はうっ!?」



宮緒さんから黒いオーラがぶわっと出ている気がします!

私、疲れ目ですかね?

昨日、緊張のせいであまり眠れなかったのが原因でしょうか?

で、でも周りの皆さんも怯えたような眼差しでこちらを見ていますから、気のせいではないかもしれません!



「千夏さん、蓮、ですよ?」



区切るようにして、素晴らしい滑舌で言われました。

半端ない威圧感が……!

否と言うのは許されない雰囲気です。

しがない小市民がその圧に勝てるはずなんて無く、見事に撃沈されましたとも。



「れ……、蓮……さん?」



「さんも要りませんが、その辺は追々ですかね?」



にっこり。

黒いオーラを霧散した、れ、蓮さんが満足そうに微笑みます。



……お、追々って何ですか?

私、これから何かに追われるんでしょうか?

ぶるぶるっ!



「さ、行きますよ?」



気分はドナドナです。

ある晴れた昼下がりに荷馬車で市場に運ばれる仔牛気分です。



と、とりあえず、その後は何事も無く無事に職員室までは連れていってくれました。

いえ、まあ……玄関先で蓮さんが私の足元に跪き、靴を脱がされそうになったり、上靴を履かされそうになったりという色々はありましたが……(遠い目)。

蓮さん……私は生粋の小市民ですよ?

靴の脱ぎ履きのお手伝いを必要とした時期は幼少期できちんと卒業しておりますよ!

ここまでのご奉仕を平気で受けられる園子嬢って、スーパーお嬢様なのですね!



……しかし、私は知らなかったのです。

園子嬢が普段から当たり前に一人で靴の脱ぎ履きをしている事も、ましてや乳幼児でも無い相手にそんな事のお手伝いをする執事が滅多な事情でも無い限り居ないということも……。



「……さ、ここが職員室ですよ。気を付けて下さいね」



「は、はい。ありがとうございます?」



巨大な学校らしく、結構な階段と曲がり角に遭遇しながら到着した職員室。

宮緒さんの案内が無ければ迷子確定でした。

そして、ここまでの道中で心身共にぐったりです。



汚れひとつない何処までも白い壁にゴミひとつない廊下。

高校という、元気すぎるお年頃の男女がいるにもかかわらず、廊下の隅に然り気無く置かれた超高級そうな壺に触れないよう、びびり気味に遠回りして避けたりしてたら、ようやくたどり着きました。

セレブ校なのに、エレベーターは教師専用で生徒は使えないそうです!

エレベーターを使えたら、すぐに職員室に着いたんですけどね。



職員室で何に気を付けるのかは謎ですが、蓮さんが親切で言ってくださっているんです、きっと職員室にも私のような小市民が一生懸けても弁償出来ないような高級品があるのかもしれません。

ここまでの廊下で花瓶や置物を見掛ける度に壊さないかとびくびくしながら歩いていたので、最初に注意しておいてくれたんですね!

ぺこっと頭を下げておきます。



それにしても……、いまだに手を繋がれたままなんですが?



「みや……、れ、蓮さん!」



言い間違いは事故の基です!

蓮さんの眉がピクッとしたの、見逃しませんでしたよ!ですが、言い切ってないのでセーフです!

何だか分かりませんが、セーフです!

どうにか命の危機は去った気がしました。



笑顔の蓮さんを見上げ、おずおずと切り出します。



「し、職員室に到着したので、て、手を離していただいても、よろしいでしょうかっ!?」



しどろもどろ、恥ずかしいです…。

緊張で掌に汗をかいてしまいそうで、ずっとどきどきしていたんですよ〜!

園子お嬢様に頼まれたにしても、親切に道案内して下さっている方に、不快な思いはさせたくありませんから。



「ああ。そうですね」



蓮さんが視線を繋がれた手に1度落とした後、私を見てにっこり微笑みます。

ギャップ萌ええくぼ、やっぱり可愛いですね!



……なんて、のんきに思っていた時もありました!



ぞくぞくぞくーーっ!!



「ひゃあっ!?」



今度は間違いありません!

私の眼を見ながらしましたよ!

蓮さんが親指で私の掌を撫で上げました!!

確信犯です!!



「ふふっ、敏感なんですね」



柔和な微笑みじゃありません!

何だか背筋にぞくぞくくる怖い微笑みです!



「本当に、千夏さんは素敵な方ですね。これからが楽しみです」



名残惜しそうに私の手を離してくれた蓮さんは、職員室の扉をノックし中からの応の声の後、そっと開けてくれましたが──私は倒れなかったのが奇跡のような白目状態で茫然と立ち尽くしていたのでした。



蓮さん、一般ピーポーには色々と刺激が強過ぎです……。






いつかヒーロー視点も書いてみたいなぁ。


需要があれば(笑)


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