第三章 血に染まる夜明け
第三章を読んでいただき、ありがとうございます。
物語はここから大きく動き始めます。
カエルの運命、そして世界に隠された真実が少しずつ明らかになっていきます。
ぜひ最後まで楽しんでください。
ギィィィン――!!
鋼と鋼がぶつかり合う音が森全体に響き渡った。
ロイドの剣は稲妻のような速さで振るわれ、最初の暗殺者の刃を弾き飛ばす。
「甘い!」
そのまま横薙ぎの一撃。
しかし黒いローブの男は人間とは思えない身のこなしで後方へ跳び、攻撃をかわした。
同時に左右から二人目と三人目が迫る。
「……!」
ロイドは地面を強く蹴った。
一歩。
二歩。
三人の包囲をすり抜け、背後の大木へ飛び乗る。
「連携が速いな。」
彼は小さく息を吐く。
相手は普通の兵士ではない。
王国直属の暗殺部隊。
その実力は十分すぎるほど理解していた。
「生け捕りにしろ。」
先頭の男が静かに命令する。
「子供だけが目的だ。」
「父親は殺して構わない。」
その言葉を聞いた瞬間――
ロイドの瞳から迷いが消えた。
「……なら遠慮はいらない。」
彼の身体から淡い青白い魔力が溢れ出す。
周囲の空気が震え、草木がざわめき始めた。
暗殺者の一人が目を細める。
「やはり……。」
「元・王国騎士団か。」
ロイドは答えない。
次の瞬間、彼は消えた。
「なっ――!」
一瞬で距離を詰めたロイドは、一人目の胸元へ剣を突き出す。
ガキィン!!
だが敵も紙一重で受け止める。
激しい火花が散る。
二人目が背後から短剣を突き立てようとした。
しかしロイドは身体をひねり、その腕を掴む。
「遅い。」
ゴキッ!!
鈍い音とともに腕が折れた。
男の悲鳴が森に響く。
その隙を逃さず三人目が魔法陣を展開した。
「闇よ。」
「その身を縛れ。」
黒い鎖が地面から飛び出し、ロイドの足へ絡みつく。
「くっ……!」
一瞬だけ動きが止まる。
「今だ。」
三本の刃が同時にロイドへ向かって突き刺さる。
だが――
ドォォォン!!
地面が爆発した。
土煙が舞い上がる。
暗殺者たちは反射的に距離を取った。
煙の中から現れたロイドの姿は傷だらけだった。
肩からは血が流れている。
それでも彼は笑っていた。
「まだ終わりじゃない。」
その笑みを見た暗殺者たちは初めて表情を変えた。
「……化け物か。」
ロイドは剣を握り直す。
「父親はな。」
「子供を守るためなら――」
「誰よりも強くなれる。」
その瞬間。
村の反対側から炎が上がった。
「火事だ!」
「逃げろ!」
村人たちの悲鳴が夜空へ響く。
ロイドの顔色が変わる。
「村まで……!」
暗殺者たちの目的は彼だけではなかった。
村全体を混乱させ、その隙にカエルを奪うこと。
その作戦に気付いた時には、すでに遅かった。
ロイドは家の方向を見つめ、小さく呟く。
「エレナ……。」
「カエルを頼む。」
そして彼は再び剣を構えた。
どれほど傷つこうとも。
この命が尽きようとも。
家族だけは守る。
その覚悟だけが、彼を立たせていた。
「キャアアアッ!」
村中に悲鳴が響き渡る。
燃え上がる炎は次々と家々へ燃え移り、夜空を赤く染めていた。
ロイドは歯を食いしばる。
「くそっ……!」
彼は家へ向かおうとする。
しかし、その前に三人の暗殺者が再び立ちはだかった。
「どけ。」
低い声だった。
しかし、その一言だけで周囲の空気が震える。
暗殺者の隊長は冷たく笑った。
「お前の相手は我々だ。」
「村のことを心配する余裕などあるのか?」
ロイドは答えない。
代わりに剣を強く握り締めた。
次の瞬間――
ドンッ!!
地面を蹴り、一瞬で隊長との距離を詰める。
ガギィィン!!
激しい衝突。
火花が飛び散り、二人の剣がぶつかり合う。
「速い……!」
隊長は目を見開く。
しかし、その隙を狙って左右から二人の暗殺者が飛び込んできた。
「死ね。」
短剣がロイドの背中へ迫る。
だがロイドは身体をひねり、その攻撃を紙一重で避ける。
そのまま肘を男の腹へ叩き込んだ。
ドゴッ!!
「ぐはっ!」
男は吹き飛び、木へ激突する。
もう一人が魔法を放つ。
「闇槍!」
黒い槍が一直線に飛ぶ。
ロイドは剣で受け止める。
ドォォン!!
爆発。
煙が舞い上がる。
煙の中からロイドが飛び出した。
「はああああっ!!」
全力の一撃。
隊長は受け止めるが、その足元の地面が砕け散る。
「なんという力だ……。」
その頃――
家の中。
エレナは震える手で扉を閉めていた。
カエルは不安そうな表情で母を見つめる。
「お母さん……。」
「お父さん、大丈夫?」
エレナは無理に笑顔を作った。
「大丈夫よ。」
「あなたのお父さんは、とても強い人だから。」
そう言いながらも、その声は震えていた。
突然――
ドン!!
玄関の扉が激しく揺れる。
「!!」
もう一度。
ドン!!
誰かが外から扉を叩いている。
エレナは息を飲んだ。
「まさか……。」
静寂。
そして低い声が聞こえた。
「開けろ。」
「王国直属特務部隊だ。」
エレナの顔から血の気が引く。
彼らはもう家の前まで来ていた。
カエルは何も分からず母の服を掴む。
「お母さん……。」
エレナは息子を強く抱きしめた。
(もう時間がない……。)
彼女は部屋の奥へ走る。
そこには古びた木製の本棚があった。
本棚を横へ押すと、その奥から小さな隠し通路が現れる。
カエルは驚いた。
「秘密の道……?」
エレナは静かに頷いた。
「よく聞いて。」
「これから何があっても、この道を真っ直ぐ進みなさい。」
「絶対に振り返っては駄目。」
「でも、お母さんは?」
カエルの瞳に涙が浮かぶ。
エレナは優しく頭を撫でた。
「私はすぐに追いつくわ。」
その言葉が嘘であることを、彼女自身が一番理解していた。
外では再び大きな衝撃音が響く。
バキィッ!!
ついに玄関の扉へ大きな亀裂が入った。
暗殺者たちが家へ侵入しようとしている。
エレナは最後に息子を抱きしめる。
「愛しているわ、カエル。」
「生きて……。」
その一言だけを残し、彼女は隠し通路の入口を開いた。
暗い地下道の奥から冷たい風が吹いてくる。
幼いカエルは涙を流しながら、ゆっくりとその闇の中へ足を踏み入れた――。
エレナはゆっくりと隠し通路の入口を閉じた。
重い石壁が音を立てて元の位置へ戻る。
その瞬間、家の正面から轟音が響いた。
ドォォン!!
玄関の扉が粉々に砕け散る。
煙と木片が舞い上がる中、黒いローブを纏った三人の暗殺者がゆっくりと家の中へ足を踏み入れた。
その瞳には一切の感情がなかった。
「……遅かったか。」
隊長格の男が静かに部屋を見渡す。
床にはまだ幼い子供の足跡が残っていた。
エレナは男たちの前へ立ちはだかる。
その手には一本の短剣。
決して強力な武器ではない。
それでも彼女は一歩も退かなかった。
「その子には……指一本触れさせません。」
隊長は冷たく彼女を見つめる。
「王命だ。」
「逆らえば命はない。」
エレナは静かに微笑んだ。
「母親にとって、子供を守ること以上に大切な命令などありません。」
その言葉を聞いた一人の暗殺者が舌打ちする。
「時間の無駄だ。」
次の瞬間、男たちは一斉に動き出した。
一方その頃――
狭く暗い地下通路を、カエルは必死に走っていた。
冷たい石壁。
足元には水が流れ、小さな靴が濡れていく。
息が苦しい。
胸が痛い。
それでも母の言葉だけを信じ、前へ前へと走り続ける。
「お母さん……。」
小さな声が暗闇へ消えていく。
突然――
ゴゴゴゴ……
天井が大きく揺れた。
土埃が舞い落ちる。
地上で激しい戦いが続いているのだ。
カエルは思わず立ち止まる。
その時だった。
遠くから、かすかに母の叫び声が聞こえた気がした。
「――ッ!」
振り返ろうとした、その瞬間。
エレナの最後の言葉が脳裏によみがえる。
「絶対に振り返っては駄目。」
カエルは唇を強く噛み締めた。
涙が止まらない。
それでも足を止めることはできなかった。
どれほど辛くても。
どれほど怖くても。
今、自分にできることは生き延びることだけだった。
やがて通路の先に、淡い光が見え始める。
出口だった。
カエルは最後の力を振り絞り、外へ飛び出す。
そこは村から少し離れた森の奥。
高い木々に囲まれ、人の気配はない。
冷たい風が頬を撫でる。
カエルは膝をつき、大きく息を吐いた。
その瞬間――
背後の茂みから、小枝を踏む音が聞こえた。
「……誰?」
恐る恐る振り返る。
木々の間から、一人の老人が静かに姿を現した。
長い白髪。
深い青色のローブ。
そして、長年の歳月を感じさせる穏やかな瞳。
老人はカエルを見るなり、小さく目を見開いた。
「……やはり間に合ったか。」
カエルは一歩後ずさる。
「あなたは……?」
老人は静かに膝をつき、優しい声で答えた。
「安心しなさい。」
「私は敵ではない。」
「君を迎えに来た。」
「君はまだ知らないだろう。」
老人は空を見上げる。
遠くでは黒煙が立ち上り、村が炎に包まれていた。
その光景を見つめながら、老人はゆっくりと言葉を続ける。
「君の運命は、この世界そのものを変える。」
「そして今日という日は――」
「すべての始まりになる。」
カエルは何も理解できないまま、老人の手を見つめていた。
幼い少年の旅は、この瞬間から静かに幕を開けようとしていた。
(第三章・完)
第三章を最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます。
これからカエルの新たな旅が始まります。
次の章では新しい出会いと、さらに広い世界が描かれます。
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