第十五章 初めての授業
朝日が王立学院の校舎を黄金色に照らしていた。
カエルは新しい制服に袖を通し、学生寮の部屋を出る。
今日は学院での初めての授業の日だった。
廊下には多くの生徒たちが歩いている。
貴族の子息や名門騎士の子どもたち。
皆、自信に満ちた表情を浮かべていた。
「ここが……僕の新しい生活なんだ。」
カエルは静かに呟いた。
教室へ向かう途中、アレクが声をかけてくる。
「おはよう、カエル。」
「昨日はよく眠れたか?」
カエルは笑顔で頷く。
「うん。」
「まだ少し緊張してるけどね。」
アレクは笑った。
「心配するな。」
「最初は誰でもそうだ。」
その時、一人の少年が二人の前へ立ちはだかった。
金色の髪。
青い瞳。
高価な制服には名門ブラックウッド家の紋章が刻まれている。
ルシアン・ブラックウッドだった。
「平民が一番乗りとは驚いたな。」
彼は皮肉な笑みを浮かべる。
「学院生活は実力だけじゃない。」
「身分も重要だということを忘れるな。」
カエルは落ち着いた表情で答えた。
「身分は生まれで決まる。」
「でも、強さは努力で決まると思います。」
教室が一瞬静まり返る。
ルシアンの眉がわずかに動いた。
「……面白い。」
「その考えがいつまで続くか見ものだ。」
そう言い残し、彼は席へ戻っていった。
やがて教室の扉が開く。
一人の壮年の男性教師が入ってきた。
白銀の髪。
鋭い眼差し。
胸には王立学院教師の紋章。
「私はレオン・クロフォード。」
「今日から、お前たちの担任だ。」
教室全体が静まり返る。
レオンは教壇へ立ち、生徒たちを見回した。
「この学院では才能だけでは生き残れない。」
「努力。」
「覚悟。」
「そして仲間を信じる心。」
「そのすべてが必要になる。」
生徒たちは真剣な表情で話を聞いていた。
レオンは黒板に大きく文字を書く。
『実戦訓練』
その二文字を見た瞬間、生徒たちがざわめき始める。
「今日から実戦……?」
「入学初日なのに?」
レオンは静かに頷いた。
「王立学院では、戦場で生き残るための教育を行う。」
「甘い授業を期待している者は、今すぐ帰っても構わない。」
誰一人として席を立つ者はいなかった。
レオンは満足そうに微笑む。
「よろしい。」
「では、訓練場へ向かう。」
カエルは静かに拳を握る。
学院での本当の試練が、いよいよ始まろうとしていた――。
訓練場の空気が一変した。
教師の報告を聞いたレオンは、すぐに表情を引き締める。
「地下迷宮で魔力反応だと……?」
「間違いないのか?」
教師は力強く頷いた。
「はい。」
「封印区域の魔力が急激に活性化しています。」
その言葉を聞いた瞬間、周囲の教師たちもざわめき始めた。
「まさか……。」
「何百年も沈黙していた場所だぞ。」
生徒たちは事情が分からず、お互いの顔を見合わせる。
「地下迷宮って何?」
「学院の地下にそんな場所があるの?」
レオンは静かに全員へ向き直った。
「これ以上の訓練は中止だ。」
「全員、教室へ戻れ。」
しかし、その時だった。
カエルの右手が突然熱くなる。
「っ……!」
右手を押さえた瞬間、黒い紋章が一瞬だけ淡く輝いた。
誰にも見えないほど一瞬だった。
だが、カエルだけにははっきりと聞こえた。
『来い……継承者よ。』
低く響く謎の声。
カエルは思わず地下へ続く建物の方を見る。
(また、この声……。)
アレクが心配そうに声をかける。
「カエル、大丈夫か?」
カエルは慌てて微笑んだ。
「う、うん。」
「少し疲れただけ。」
レオンは全員を寮へ帰らせたが、その夜になってもカエルは眠ることができなかった。
窓から月明かりを見つめながら、小さく息をつく。
(あの声は何なんだ……。)
(どうして僕だけに聞こえるんだ。)
その頃――
学院の地下深く。
巨大な黒い結晶が静かに脈動していた。
ドクン……。
ドクン……。
結晶の前には、一人の老人が立っている。
白い長い髭。
漆黒のローブ。
その瞳には、長い年月を生きた者だけが持つ深い知恵が宿っていた。
老人は結晶に手を触れ、小さく呟く。
「ついに目覚めたか……。」
「第五の玉座の継承者よ。」
「お前を待ち続けて、もう千年になる。」
その瞬間、黒い結晶から眩い光が放たれた。
老人は静かに微笑む。
「運命の歯車は、もう止まらない。」
一方、その出来事を誰にも知らないカエルは、ベッドの上で右手を握り締めていた。
胸の鼓動が、黒い結晶の脈動と同じように高鳴っている。
そして翌日――
カエルの運命を大きく変える新たな試練が、静かに幕を開けようとしていた。
(第十五章・完)




