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第十四章 王都への第一歩

王都アウレリア――。

王国最大の都市。

その壮大な城門をくぐった瞬間、カエルは思わず息をのんだ。

「……すごい。」

見渡す限り、人、人、人。

石畳の大通りには商人たちの露店が並び、色鮮やかな果物や珍しい魔道具が所狭しと並べられている。

遠くからは鍛冶屋の金槌の音。

吟遊詩人の歌声。

子どもたちの笑い声。

レイヴン・ホロウでは決して見ることのできない光景だった。

「ここが……王都。」

カエルは目を輝かせながら周囲を見回した。

その様子を見て、セラフィナ王女は微笑む。

「初めて見る景色ばかりでしょう?」

「はい!」

「全部が新鮮です!」

その無邪気な返事に、王女は小さく笑った。

「その気持ちを忘れないでください。」

「王都には素晴らしいものもありますが、危険なものも数多く存在します。」

カエルは真剣な表情で頷いた。

その時だった。

「どいてくれ!」

突然、一人の男が人混みを押しのけながら走ってきた。

後ろから衛兵たちが追いかけている。

「盗賊だ!」

「逃がすな!」

男は走りながら人々を突き飛ばしていく。

悲鳴が響いた。

「きゃあ!」

小さな少女が転んでしまう。

盗賊はそのまま少女へ向かって走っていく。

「危ない!」

カエルは反射的に飛び出した。

少女を抱き寄せると、そのまま横へ転がる。

盗賊は勢いを止められず、そのまま前へ走り抜けた。

「ありがとう、お兄ちゃん……。」

少女は涙ぐみながら頭を下げる。

カエルは優しく微笑んだ。

「もう大丈夫だよ。」

しかし次の瞬間――

盗賊は突然振り返った。

「邪魔をするな!」

短剣を抜き、カエルへ向かって突進する。

周囲の人々が悲鳴を上げた。

「危ない!」

だがカエルは慌てなかった。

ロイドとの修行。

フェンリルとの鍛錬。

その全てが身体に染み付いている。

盗賊の動きが、ゆっくりと見えた。

カエルは一歩だけ横へ動く。

そして――

盗賊の手首を掴み、その勢いを利用して地面へ投げ飛ばした。

ドォン!!

盗賊は石畳に激しく叩きつけられる。

短剣が遠くへ転がった。

そこへ追いついた衛兵たちがすぐに盗賊を取り押さえた。

「確保した!」

「よくやった、少年!」

周囲から拍手が起こる。

「すごい!」

「あの子が盗賊を倒したぞ!」

「まだ子どもなのに……。」

カエルは少し照れくさそうに頭をかいた。

その様子を遠くから見つめる一人の青年がいた。

王立学院の制服を身にまとった金髪の少年。

彼は静かに笑う。

「面白い。」

「今年は……期待できそうだ。」

彼はそう呟くと、人混みの中へ姿を消した。

カエルはまだ知らない。

その青年との出会いが、王立学院での最初の試練へと繋がることを――。

盗賊が衛兵に連行されると、広場は少しずつ落ち着きを取り戻した。

「すごい少年だったな。」

「まだ子どもなのに、あんな動きができるなんて……。」

人々はカエルを見つめながら口々に話していた。

カエルは照れくさそうに頭を下げる。

「そんな、大したことじゃありません。」

すると、先ほど助けた少女が母親と一緒にやって来た。

母親は深く頭を下げる。

「息子を助けてくださって、本当にありがとうございました。」

少女も笑顔で言った。

「お兄ちゃん、ありがとう!」

そう言って、小さな花を一輪差し出した。

カエルは少し驚きながら受け取る。

「ありがとう。」

その様子を見ていたセラフィナ王女は静かに微笑んだ。

「力とは、人を守るために使うもの。」

「あなたのお父様の教えでしょう?」

カエルは嬉しそうに頷いた。

「はい。」

「父はいつもそう言っていました。」

王女は満足そうに笑った。

「なら、その教えを忘れないでください。」

その時、一人の近衛騎士が急いで駆け寄ってきた。

「殿下。」

「学院長がお待ちです。」

「入学手続きを始められるそうです。」

カエルは目を丸くした。

「もう学院へ行くんですか?」

セラフィナは頷く。

「ええ。」

「王立学院は規律を重んじます。」

「今日から、あなたも学院の生徒です。」

馬車は再び走り始めた。

しばらくすると、巨大な門が見えてきた。

白い石で造られた高い壁。

門の上には黄金の紋章。

そして、その中央には大きく刻まれた文字。

『ヴァレリア王立学院』

カエルは思わず息をのむ。

「ここが……王立学院。」

学院の敷地内には、数え切れないほどの生徒たちが歩いていた。

騎士科の生徒。

魔法科の生徒。

貴族の子どもたち。

それぞれが未来の夢を胸に学んでいる。

カエルは胸が高鳴るのを感じた。

(ここで……もっと強くなる。)

(父さんや母さんを守れるくらいに。)

しかし、その時――。

学院の入口に立っていた数人の貴族の生徒が、カエルを見て小さく笑った。

「あれが噂の平民か?」

「王様と一緒に来たらしいぞ。」

「平民が王立学院に入学なんて、前代未聞だ。」

その言葉は、カエルの耳にもはっきり届いた。

彼は何も言わず、その生徒たちを静かに見つめる。

そして心の中で誓った。

(身分なんて関係ない。)

(必ず実力で認めさせる。)

その決意を胸に、カエルは王立学院の門をくぐった。

カエルは王立学院の門をゆっくりとくぐった。

目の前には、広大な中庭が広がっていた。

色とりどりの花が咲き誇り、大きな噴水が静かに水を吹き上げている。

学院の建物はまるで王城のように壮大だった。

「ここが……僕の新しい居場所。」

カエルは小さく呟いた。

その時、一人の教師が歩み寄ってきた。

白いローブをまとい、銀縁の眼鏡をかけた壮年の男性だった。

「ようこそ、王立学院へ。」

「私は教官のレオン・クロフォードです。」

カエルは丁寧に頭を下げた。

「カエル・ドレイヴンです。」

レオンは静かに頷く。

「君の話は陛下から聞いている。」

「だが、この学院では身分も噂も関係ない。」

「すべては実力で決まる。」

その言葉に、カエルは力強く答えた。

「はい!」

レオンは満足そうに微笑んだ。

「では、まず入学試験を受けてもらう。」

「入学試験?」

「ええ。」

「王立学院では、すべての新入生が実技試験を受ける決まりです。」

カエルの胸が高鳴る。

「僕も戦うんですね。」

「もちろんだ。」

「そこで君の実力を見せてもらう。」

二人が訓練場へ向かう途中、多くの生徒たちが足を止めてカエルを見つめていた。

「王様と一緒に来た少年だ。」

「平民らしいぞ。」

「あんな子が学院に入れるなんて信じられない。」

冷たい視線。

好奇心。

嫉妬。

さまざまな感情がカエルへ向けられる。

しかし、彼は一度も下を向かなかった。

(僕は父さんとの約束を果たす。)

(誰よりも強くなってみせる。)

やがて訓練場へ到着する。

広い闘技場には、すでに多くの教師や生徒が集まっていた。

中央には、一人の少年が腕を組んで立っている。

燃えるような赤い髪。

鋭い赤い瞳。

高価な制服から、一目で貴族だと分かる。

彼はカエルを見るなり、不敵に笑った。

「お前が噂の平民か。」

「俺はアレク・フォン・レイナード。」

「この学院で首席の実力を持つ男だ。」

周囲の生徒たちがざわめく。


「アレクだ……。」


「今年一番の天才だ。」


アレクは木剣を肩に担ぎながら言った。


「入学試験の相手は俺がしてやる。」


「せいぜい、恥をかかないように頑張れ。」


カエルは静かに木剣を握る。


その瞳には恐れはなかった。


「よろしくお願いします。」


その落ち着いた態度に、アレクの笑みが少しだけ消える。


そして試験官が高らかに宣言した。


「これより、入学試験を開始する!」


静まり返る闘技場。


カエルの学院生活を左右する最初の戦いが、今まさに始まろうとしていた――。


(第十四章・完)

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