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第十三章 旅立ちの日

第十三話を読んでいただき、ありがとうございます。


ついにカエルは故郷を旅立ち、新たな運命への第一歩を踏み出します。

別れと出会いが交差する物語を、最後まで楽しんでいただければ幸いです。

朝日がレイヴン・ホロウの村を黄金色に染めていた。

いつもと変わらない静かな朝。

しかし、その空気はどこか寂しさを帯びていた。

ロイドは家の前で荷物をまとめている。

エレナも静かに旅の支度を手伝っていた。

二人とも多くは語らない。

だが、その表情から今日が特別な日であることは誰の目にも明らかだった。

カエルは家の外へ出ると、不思議そうに尋ねる。

「父さん……。」

「どうして荷物をまとめているの?」

ロイドはゆっくりと振り返った。

そして優しく微笑む。

「今日、お前は旅に出る。」

その言葉に、カエルは目を見開いた。

「旅……?」

「どこへ?」

ロイドは遠くに見える山々を見つめる。

「王都だ。」

「お前には、そこで学ばなければならないことがある。」

カエルはしばらく黙っていた。

村を離れる。

友達とも、村人たちとも離れる。

生まれてからずっと暮らしてきた故郷を離れる。

胸が少し苦しくなった。

その時、エレナがそっとカエルを抱きしめた。

「大丈夫。」

「どこへ行っても、あなたは私たちの大切な息子よ。」

カエルは小さく頷いた。

「……うん。」

しばらくすると、村人たちが次々と家の前へ集まってきた。

村長は一本の木剣を差し出す。

「これは村で一番丈夫な木から作った剣だ。」

「本物の剣を持つ日まで使いなさい。」

カエルは両手で受け取り、深く頭を下げた。

「ありがとうございます。」

子どもたちも駆け寄ってくる。

「カエル!」

「絶対に帰ってきてね!」

「王都でも頑張れ!」

カエルは笑顔で手を振った。

「約束する!」

「もっと強くなって帰ってくるよ!」

その時――

村の入口から一台の豪華な馬車が姿を現した。

白い馬が四頭。

王国の紋章が刻まれた美しい馬車だった。

御者が静かに頭を下げる。

「お迎えに参りました。」

ロイドは深く息を吸い、カエルの肩に手を置いた。

「……いよいよだ。」

カエルは故郷の景色をもう一度見渡す。

青い空。

緑豊かな森。

笑顔で見送る村人たち。

この景色を、彼は決して忘れないと心に誓った。

そして少年は、大きく一歩を踏み出す。

新たな運命へ向かって――。

王国の馬車は静かに村の入口で止まっていた。

白馬たちは落ち着いた様子で地面を踏み鳴らし、その姿はまるで王都の威厳そのものだった。

カエルはゆっくりと馬車へ近づく。

その一歩一歩が、故郷との別れを実感させた。

エレナは小さな布袋を差し出す。

「これはお弁当よ。」

「お腹が空いたら食べてね。」

カエルは両手で受け取り、優しく笑った。

「ありがとう、お母さん。」

ロイドも一歩前へ出る。

腰に差していた一本の短剣を外し、カエルへ渡した。

黒い鞘に収められた、小さな短剣。

決して豪華ではない。

しかし、長年大切に使われてきたことが一目で分かった。

「父さん……。」

ロイドは静かに言う。

「これは私が若い頃から使っていた短剣だ。」

「まだ本物の剣を振るうには早い。」

「だが、自分を守るために持っていなさい。」

カエルは胸が熱くなるのを感じた。

「……大切にする。」

ロイドは満足そうに頷いた。

その時、フェンリルが森の奥から姿を現した。

村人たちは驚き、一歩後ずさる。

しかしフェンリルは何もせず、静かにカエルの前まで歩いてきた。

そして額をカエルの肩へそっと寄せる。

「フェンリル……。」

カエルが頭を撫でると、フェンリルは小さく鳴いた。

まるで別れを惜しむようだった。

「また会おう。」

その言葉に応えるように、フェンリルは静かに頷くと森の中へ消えていった。

ロイドは馬車の御者へ向き直る。

「息子をよろしく頼む。」

御者は深く一礼した。

「命に代えてもお守りいたします。」

カエルは馬車へ乗り込む。

窓から村を見つめる。

村人たちは皆、笑顔で手を振っていた。

「行ってらっしゃい!」

「強くなって帰ってこい!」

「王都でも頑張れ!」

カエルも大きく手を振り返す。

「行ってきます!」

馬車はゆっくりと動き始めた。

車輪の音が静かな村へ響く。

レイヴン・ホロウの景色は少しずつ遠ざかっていく。

カエルは窓の外を見つめながら、小さく呟いた。

「必ず帰ってくる。」

「もっと強くなって。」

その瞳には、不安ではなく強い決意が宿っていた。

こうして少年は、生まれ育った故郷を後にし、新たな運命が待つ王都への旅を歩み始めた。

馬車はゆっくりとレイヴン・ホロウを離れていく。

カエルは窓から故郷を見つめ続けていた。

村の家々は少しずつ小さくなり、やがて深い森の向こうへ消えていく。

「さようなら……。」

小さく呟くその声は、誰にも届かなかった。

馬車の中は静かだった。

しばらくすると、向かいに座っていた青い髪の女性――セレナが口を開く。

「初めて村を出るのですね。」

カエルは静かに頷いた。

「うん。」

「少し寂しい。」

セレナは優しく微笑んだ。

「それは自然なことです。」

「誰でも最初の旅立ちは不安なものですよ。」

カエルは窓の外を見つめながら尋ねる。

「王都って……どんな場所なの?」

セレナは少し考えてから答えた。

「この国で一番大きな都市です。」

「何万人もの人が暮らし、多くの騎士や魔法使いが集まっています。」

「そして、王立学院もあります。」

「王立学院?」

「はい。」

「未来の騎士や魔法使い、貴族たちが学ぶ場所です。」

その話を聞き、カエルの胸は高鳴った。

「僕も……そこで学べるの?」

セレナは静かに頷く。

「あなたには、その資格があります。」

その言葉に、カエルは拳を握りしめた。

(もっと強くなれる。)

(父さんや母さんを守れるくらいに。)

その時だった。

馬車が急に止まる。

「どうした?」

御者が険しい表情で前を見つめていた。

「……誰かいます。」

街道の真ん中に、一人の老人が立っていた。

長い灰色のローブをまとい、一本の杖を持っている。

その老人は静かに微笑んでいた。

「待っていましたよ。」

セレナはすぐに馬車から降りる。

「あなたは……。」

老人はカエルへ視線を向けた。

その瞳は、すべてを見透かしているようだった。

「運命の子よ。」

「お前の旅は今日始まる。」

「だが、この先には数え切れない試練が待っている。」

カエルは老人を真っ直ぐ見つめる。

「あなたは誰なんですか?」

老人は穏やかに笑った。

「今は名を知る必要はありません。」

「だが、いずれ必ずまた会うことになる。」

そう言うと、老人はポケットから一枚の古びた銀貨を取り出し、カエルへ投げた。

カエルは反射的に受け取る。

銀貨には見たこともない古代の紋章が刻まれていた。

「その銀貨を失うな。」

「それがお前を真実へ導く鍵となる。」

次の瞬間、一陣の強い風が吹き抜けた。

カエルが目を閉じ、再び開いた時――

老人の姿は跡形もなく消えていた。

セレナは周囲を見回し、小さく呟く。

「……転移魔法。」

「一体、何者だったの……。」

馬車は再び王都へ向かって走り始める。

誰もまだ知らなかった。

カエルが受け取った一枚の銀貨が、世界の歴史を覆す秘密へと繋がる第一歩になることを――。

(第十三章・完)

第十三話を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。


故郷との別れ、家族や仲間との絆、そして王都へ向かう新たな旅が始まりました。

旅の途中で現れた謎の老人と古い銀貨は、今後の物語で重要な意味を持つことになります。


ぜひ次回もお楽しみください。

ブックマークや評価、ご感想をいただけると、とても励みになります。

今後とも『Shadow of the Four Thrones』をよろしくお願いいたします。

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