……………… 関東大会団体
土日は電車もモノレールも余裕があった。
今日は団体の二回戦目と決勝トーナメントだ。
「嶺南高校凄いな」
前を歩く他校の生徒が話していた。他県の弓道部は学校単位で纏まって来ているので制服率が高いけど、地元は半分くらいが私服で来ている。後ろに嶺南の生徒がいると思ってないんだろう。あ、もし制服でも制服を知らないのかも。
「個人二位の加賀美君て二年なんだろ? インターハイも出るんだろうな」
「去年一年の時も目立ってたから見てたけど、背が高くてかっこいいからさ、男から見ても。秋の個人戦と冬の選抜あたりから、すげえ安定してね?」
「まぁ、うちの主将が一位を死守したからいいけど、三年が抜けたら勝てる気がしねえわ」
昨日、小太郎先輩と一位を争った高校の生徒なのか……。どこだっけ? うちよりもう少し北の方の学校だっけ?
「あの、すいません」
声がして振り向いたら、二人連れの女の子達が話しかけてきた。
「弓道の応援ですか?」
「……はい」
「昨日も見かけたんですけど、私たち、他県から来たんです。良かったら、お友達になってくれませんか?」
「え? ボク?」
歩道を塞ぐと邪魔になるので、端に避けた。
「SNSやってませんか? メアドかチャットアプリのID教えてもらえないですか?」
「あ……えっと……」
何て返すのが正解なんだろう? ボクのここまでっていうラインは……。
「ごめんなさい。ボク不器用なんで、ネットでのそういうやり取りのお付き合いは出来ないんです」
なんか、昔の映画スターみたいなセリフが口から出た。
「えー残念。じゃあ、一緒に写真撮っていいですか?」
「え? 写真? ボク別に有名人とかじゃないんですけど……」
最初の連絡先の提供は断ったのに、結構それで精一杯で写真はもういっか、って思ったところへ
「何してんの? どうした?」
さくら先輩だった。
「先輩。なんか、声かけられて……」
「一緒に写真撮ってもらえるか聞いてたんです」
女子二人は悪びれもせず、言った。
「えー、写真かぁ。ごめん、この子、写真は事務所か学校通してもらわないと無理」
「あ、やっぱり、ゲーノージンとかなんですね」
「まぁ、これからなんだけどね」
「「 わかりました。すいませんでした 」」
お礼を言って走って先に行った女子二人を見送りながら、ボクとさくら先輩は小さく笑った。
「さくら先輩、なんか凄い嘘言った……ククク」
「信じたんだからいいじゃん……フハハ……」
アリーナに着いて昨日と同じ場所に座って、周りを見回した。観客は半分くらいに減っていた。敗退した学校とかは今日は来ないらしい。さくら先輩は昨日は来なかったけど、今日は応援に来た。
「さくら先輩、体調大丈夫なんですか?」
「まあまあかな」
「意外と体弱いんですね」
「おい」
デコピンされた。
「すいません、調子乗りました」
「いいよ。優生くんのことはもう、弟くらいに思ってる」
嶺南高校団体は危なげなく二回戦を勝ち上がった。
小太郎先輩は昨日の疲れを感じさせないくらい今日もカッコよかった。
「加賀美君、凄いねぇ。前から凄く上手いけど、さらに安定したね」
「小太……加賀美先輩、ダメな時とかあったんですか?」
「ダメってわけじゃないけど、たまに崩れる時があってさ。それが半年くらい前から無くなった」
さくら先輩はグッと顔を近づけてボクの耳元に囁いた。
「加賀美君から名前で呼ぶ許可もらったの?いいじゃん」
「いや、それは……ボクを名前で呼ぶから、その代わりに良いよって。でも、ボクが他の人の前では苗字で呼びますって言ったんですけど……気をつけます」
多分、今ボクは耳まで赤い。
「あの生真面目君は、自分の外側にもアンカーを見つけたのかもね」
さくら先輩はボクにというより、遠くの加賀美先輩に向かってつぶやいた。
決勝は八校、トーナメントだった。対戦相手と横に並ぶ。一斉に射るわけではないので、自分が射るタイミングに他の人が射る音とか矢が的に中って観客の拍手とかが被る時がある。ものすごく高確率で。
「集中すると気にならないものかなぁ……?」
「それが出来ないとなんないわけよ。技術だけじゃなくて、精神も鍛えないと」
さくら先輩は何故か今日はずっとボクの隣に座っていた。話しやすいからありがたい。
一回戦は勝ち上がった。でも、好調が続かなかった。二回戦目で負けてしまった。小太郎先輩はここまで皆中(外れなし)だったけど、二的・中(二番目と三番目の射手)の二人が崩れた。二回戦で負けた二校は両方三位となる。我が校の関東大会男子団体は三位だ。
「関東大会で今までの最高の成績だから、よかったじゃん。また来年ってことで……い、……つぅ……」
さくら先輩はそこまで言うと、下を向いた。
「あれ? 先輩、具合悪いですか?」
さっきまでと顔色が全然違う。白っぽくなって、汗が浮かんでいた。
「……ごめん、優生君、外まで連れてってくんない?」
決勝戦が始まるところだったので、できるだけ静かに荷物を持って、何人か周りに言伝て観覧席から入り口ロビーに出た。さくら先輩は苦しそうで、ゆっくりと移動した。ロビーなら少しくらい声を出しても大丈夫そう。
「大丈夫ですか? 誰か呼びます?」
出入り口の見えるロビーの椅子にそっと腰掛けて、さくら先輩は持っていた鞄からスマホを出した。
「斎藤桃子さん!」
小太郎先輩が弓道着のまま走って現れた。




