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……………… 関東大会個人

 土曜は青葉耀くよき日だ。開店準備をしていた祖母がそんなことを言った。


 学校の最寄り駅から出発する部員は一緒の電車に乗った。駅について、モノレールに乗り換えて、アリーナまで少し歩いた。

 アリーナ入り口で待ち合わせて、バスや他の路線や車で送ってもらって来た部員たちと一緒に中に入った。今日の応援は一・二年生中心。模試と重なってしまって三年生はほとんどいない。OB・OGと父兄も数人来ていた。


 アリーナは普段、バスケットボールやサッカーなどの球技で使用されているようだ。今月の使用予定の案内によると。


 体育館の様な一階フロアが大会会場で、二階の観客席がグルッと応援席だ。いつもの屋外の弓道場より、好きな位置で選手が観られる。ボクたちは射位(弓を射る場所)と的の真ん中あたりに席を取った。的に向かって選手から右側だから、射手の様子と的も両方よく見える。


 屋内のアリーナ会場は、普段の弓道場とは全く様子が違っていた。いつも弓道場に入る時に礼をするんだけど、ここでは、パーティションで仕切られた出入り口から出てくる時に礼をしていた。本座(弓を持って立つ前に一度座るところ)は正座するんじゃなくて胡床(武将が使うような折りたたみ椅子)に座る、射位(弓を射る場所)の位置の床にはテープが貼られていた。

 弓道場とは違って、風も無くて空調も効いているけれど、やりにくそうな気がする。ボクたち新入部員が慣れていないだけで、大会慣れしてる先輩方は大丈夫なのかもしれないけど。歩く時の足袋の音や擦れる袴の音、射る時の弦の音、矢が飛ぶ音、的に当たる音、観客の拍手。全部が響いてくる。一緒に並んで矢を射る他の高校チームの音や拍手が邪魔な気がする。負けないで。

 

 そんな中、団体戦で小太郎先輩は今回、大前――五人の先頭で一番最初に射る人。山老(ところ)主将は落――最後を務める。


 大前は五人の先頭で会場に入ってくる。弓と矢を持って礼をして入ってきた小太郎先輩は、まるで光を発しているかの様だった。観る人を惹き込む。何か、目が逸らせないような雰囲気を漂わせていた。

 その一瞬、騒めいていた会場が無音になったような気がした。

 五人の中で一番背が高く、腰の位置が高い。ちょっと顰めた顔の眉間の皺までカッコいい。


 本座の胡床に座ったと思ったら、すぐに射位に着くように指示が出た。五人並んで前に出て、矢を二本、手に持ち、足を開いて位置を決める。二本の矢のうち一本を番え、もう一本は薬指と小指で押さえておく。引き絞りながら矢を目線に下ろして、精一杯引いて一瞬貯めるようにして、放つ。パシッと音がして、放った矢は目で追わずとも的に当たった音と観客の拍手で的中を知る。弓を下ろして、腕も下ろす。一度直る。これを、五人、順番に放つ。パシッ、パシッ、パシッ、パシッ、パシッ。弦音(つるね)の音がアリーナに響く。

 まるで輪唱のような、有名ダンスチームのダンスのような、上手なウエーブのような、それらを全て厳かにしたような弓道団体戦の美しさ。


 小太郎先輩だけが、更に、矢を番えて弦を引く右手の指も、弓を構える左手の指も、力の入った前腕も、開いた肩甲骨の形も、頭の天辺からちゃんと重心の通った骨盤や両脚も、弓を回す所作や礼まで完璧な美しさだった。


 部活でいつも見ているのに、この広いけれど閉鎖されたような空間で、ボクの中の小太郎先輩はどんどん輪郭が濃くなって周りから浮かび上がっていくようだった。


 小太郎先輩、先輩は今、何を考えていますか?いつも、完璧でブレない先輩の精神力の源は何ですか?


 団体は無事にベスト八に入った。決勝トーナメントは明日。


 個人は今日中に予選から決勝までが行われる。県内各地区の勝ち残り数名が県代表を争う。皆上手いので鬩ぎ合い(せめぎあい)だ。

 予選――四射。四本矢を射って、全部を的中させる『皆中』なら予選通過。三中で人数にもよるけど通過。二中でも、三中以上の人数が少ないと目はあるらしい。


 予選は小太郎先輩は皆中、山老主将は三中だった。皆中と三中合わせて二十人で準決勝となった。


 準決勝――四射。並んで同時に進行するので、ここまでは早かった。

 皆中は八名。この八名が決勝進出だ。小太郎先輩と山老主将も入っている。

 ここからは射詰競射(しゃづめきょうしゃ)というサドンデスだ。一射ずつ射って外したら即退場。場内が息を詰めて見守る空気に変わる。


 決勝の一射目は全員が的中。二射目で一人脱落。三射目で三人脱落。山老主将が三人の中に入っていた。

 残る四人で続ける。四射目は全員的中。的が小さい星的に替わる。信じられないくらい小さい。当たる気がしない。五射目で一人脱落。三人に。六射目で一人脱落。小太郎先輩と県大会で一位を争った他校の選手が最後の二人となった。


 小太郎先輩の方が先に射る。

 誰も瞬きをせず、視線が的に集中した。

 矢は――ほんのわずか、的を外れた。


 その瞬間、勝負は決した。

 もう一人は弓を引くことなく、静かに会釈した。

 

 一瞬の静寂の後、場内は割れるような拍手に包まれた。勝者にも、敗者にも送られる拍手だ。


 小太郎先輩はなんてことも無かったように、背を伸ばして礼をして退場した。


 表彰式の後、残っていた応援団に山老主将と小太郎先輩は応援の礼と今後もっと精進しますと言っていた。

 明日は、団体戦だ。

 

 

 

 


 

 


 

 

 


 

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