第一部 第三章 Wo
強者は悪魔となった。周囲に居た剣士達は、一時の静寂を課せられた。
二人は揃って広間の方に目をやった。それと同時に、前方で再び光が発生した。外が見える方へと向き直ろうとするよりも早く、その光は二人の足元へと滑り込んだ。テリーはその時、体勢を崩されて膝が地に着いたが、直後に、その感覚はなくなっていった。体が地面から僅かに浮き上がっていた。その状態で少年達は広間の方へ押しやられていった。ソイソーとテリーは何が何だか分からない様子で視線が足元で上下左右して、口を突いて出るものがなかった。二人は屈んだ格好のまま、その経験したことのない力に対して抵抗のしようがなく、速やかに古の悪魔の前に運ばれていった。
二人を乗せた呪われた絨毯が到着するその時に、周辺に居た小悪魔達は、それこそ大切な来客を篤く出迎えるかのように、古の悪魔の後ろで四列にわたり緩やかな弧を描いて並んでいた。少年達が回転しながら地面にゆっくり降ろされると、それを待って大巨体で骸骨顔の悪魔が、一歩ともう一歩進んで彼らの顔を覗き込んだ。無常と非常に満ちていた黒一色で飽和されているその目は、抗うことを示す表情は出しながらもその実、これで終わりだ、という雰囲気を隠し切れずにいる少年達のことを、しっかりと映していた。
「フッフッフッ……、」骨の鳴る音と合わせながら、小さく後味の悪い聞き心地である笑い声を発した。
「ダンダントムカシノチカラガモドッテキタゾ。」突然、小悪魔共の数匹が銘々で跳びはね出した。奴らの口は激しく動かされていたが、二人にはそんなことまで気付く余裕がなく、もちろん、何を言っているのかなども分からなかった。骸骨顔の悪魔はすでに皮膚と毛で覆われている喉を、やはりもう剥き出し状態ではない左手でゆっくりと掻いた。
「……フー。……、よし。」少年達は、消えずに残っている絨毯の上で同じ姿勢のまま、骸骨顔の悪魔を見るだけだった。その悪魔の口は先ほどから声を出す時も出さない時もよく動いていた。そして、今、開かれていた口が一旦閉じられると、動きを見せていた一部の小悪魔もその動きを止めて、辺りは一瞬、静寂に包まれた。
永きに渡って封印されてた棺を解き放とうとするかのように、古の悪魔がゆっくりと語りだした。
「私は……」濁りはあっても淀みなく音が出ていた。「改めて名乗らせてもらおう。私はおよそ六百年前、このスンボーに具象化された、悪魔だ。」「古の」とは付けなかった。言いながらこの悪魔が右腕を高々と掲げると、その手先が灰色の光に包まれた。光がそこから横長にほとばしって弾けると、何処に消えたのかと思われていたあの大きな古の悪魔の武器が、奴の右手に浮かびながら存在していた。悪魔は語りを続けた。
「何故生まれたか、などは私には分からぬ。しかし、お前達、人は特に、我々のような存在を憎しみと邪念の生み出し者として扱いたがるようだが、それさえも、少なくとも私にとってはどうでもいいことだ。私はただ、周りに漂う気の流れに従って外の世界に出て行こうとしただけだった。この時代も似たようなものかと思ったが、……そういう意味では、私は徒に叩き起こされたようなものかもな。フッフッフッ……。」この笑う声にソイソーは小さな反応を見せたが、テリーはもう少し前に心持ち首を傾げていた。悪魔の武器は、定位置である奴の右前に、手が掛かったまま突き立てられた。
「私があの風に触れることを極度に恐れた為か、私が眠りにつく羽目になったのは、それからすぐの、……一年後ぐらいのことだった。突如として目の前に現れたあの赤い化け物の力は計算外に凄まじく、私は今の自分を箱の中に閉じ込めていなければ、そこで第二の生涯を閉じることになっていたな。」キィーバドラゴンの言っていたことと何処か違っているような、と感じるソイソーは不意に、洞窟の外へと行ってしまったショー=サナエのことがもの凄く気になり出した。そして、悪魔から目線が外すことに少しの解放感を味わうこともなく、そっと後ろを振り返った。
「さあ、剣士達よ。私の欲望の生贄となってもらおう。」
そのようにソイソーの頭の後ろで声が響くと、外へと通じる目の前の通路には一瞬にして光の壁が召喚された。それはやはり灰色の光であった。古の悪魔の周辺に居た多くの小悪魔共は一斉にこの広間中に散り始めた。まだ立ち上がることをしなかった二人は、辺りに舞い上がる砂埃を目にするような感じで、その光景を見ていたが、悪魔共はやがて、光の壁の右側から反時計回りで大きな円陣を作っていった。テリーは、円陣の四分の一ができ上がるくらいの時に、小悪魔の動きの意味に気付いた。体ごと左に回転していってから、悪魔に合わせてその様子を見ていると、まず見分けがつけられない小悪魔連中の中で唯一特定することのできるあの悪魔の姿が、彼の目に入った。
「……!」だが、すぐに、広間に居る小悪魔は全てがただの悪魔になってしまった。テリーの体はそこで回転を停めたが、敢えて深く考えるのは止めようと思って首を横に振ったその後に、彼はもう一つのことに気付いた。
「どうするつもりだ……。」骸骨顔の悪魔は僅かに浮かびながら少年達から離れ始めていた。右手に武器を持った状態で、空いてる左手で剣士達に何かを命じているようだった。
これからも、どうぞよろしくお願い致します。




