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第一部   第三章    Ru

 少年剣士は、自らを見失うことなく、自らを見極めようとした。相手は強敵であった。

 だが、終わらなかった。ソイソーの横からもう一つ風を切り裂くものが現れた。それは、今迫り来ている黒の刃よりは力の弱いものであったが、遥かに強い生命の波動を感じるものであった。柄には、投げ放った時に染み付いた血が残っていた。そこには無意識に込められた僅かな魔法力の一片もあり、刃に力を添えていた。その柄に二人の名が刻まれているまだ若々しい「キィーバ二等級業物・新芽 –作…ガリレオ・ランス・ケイターナソード-」は、そのまま行けばソイソーへと命中してしまう軌道を進んでいたが、途中で右に小さく曲がりを見せてから、やがて、大きな衝撃が発生した。


 「危機一……パツー……。」


 それでもソイソーは動きを見せなかった。小さく寂しげな背中から十センチメートルほど離れた地面には赤い小さな刃が突き刺さっていて、そこからぬっとしっかり上の方まで伸びている黒い物が下方だけを妖しく照らしていた。そして、刃と少年の間にはテリーの刀が落ちていた。左右反転して彫られている「イ」と「リ」の真ん中には銀色に光る金属の欠片が幾つも点在していた。


 「……。」


 「よし、よかった。しばらくは動かないな。」テリーはこの隙にとソイソーの下へと駆け寄っていった。気が付かないのか、ソイソーは少しの反応も示さなかった。その顔の左側を見ると頬に僅かに濡れた痕があるが、普段の七割くらいに開かれた目の中には、そのようなものはもう無かった。代わりに、顔のあちこちや腕の数箇所には、針穴ほどの大きさをした赤いものが点在していたが、テリーは、そこはそれで納得していた。それ以上は望める筈もなく、それ以下だと大変なことであるから、むしろ、満足と言ってもいいくらいのものであった。彼はソイソーの正面に廻り腰を落とし、両肩に手を置いてから少し強い口調でソイソーに声を掛けた。


 「ソイソー。……おい、ソイソー! どうしたんだよ。今は、この場をどう切り抜けるか、だろ! あの鳥だか飛獣(フレマー)のことは忘れろ、なっ? きっと、近くに居た親の気配を感じ取って、そこに帰ってっただけだよ。」ソイソーはゆっくりと顔を下に向けて、少しして上げた。口が薄っすらと開くのが見えると、そこで何か言うのかと思ってテリーは少し待っていたが、結局、何も言わなかった。


 テリーは相手の両肩を少し押すようにしながら立ち上がった。きっと目付きを鋭くして広間の奥を見ると、あの悪魔(ビル)は両腕を下げて手を地に向けた格好で静止していた。彼も少し黙っていたが、やがて、その様を見ながら鼻で笑うと、ソイソーの後ろに不気味な様子で刺さっている悪魔(ビル)の武器の所へとゆっくり歩いていった。ちょうど自分の腰位置にあった武器の柄に、テリーは両手を掛けた。


 「ん? ……意外と……軽い。」そう言って、予想より簡単に抜き取ることができたその武器を、段々ゆっくりと持ち上げていくと、そこで小悪魔(しょうビル)の大群に背を向けた。そして、一歩二歩と後ろへ下がった。


 「お前の兄さんとはいかないが、」その声と共に、武器を右肩の上で掲げた。片手だけで支えようとしたが、それでは流石に無理であると感じたので、左手は残したままにした。視線が一旦後ろに行って、すぐ後に前方を見やると、大きく息を吸った。


 「よっ……、とー!」両腕は思いっきり正面へ振られた。余り出せなかった声も僅かな力として、武器は洞窟出口の通路へと投げ放たれた。緩やかな山形(やまなり)の軌道を描いて、狭い空間の半ばでその頂点に達すると、一部は外の光の中へと消えていった。


 「ふんっ。」テリーは振り返る前に、してやったり、というような表情を見せた。その顔を見れない骸骨顔の悪魔(ビル)、奴の不気味な雰囲気を際立たせている前方に少しだけ伸びた首は、小さな上下動を四回行い、下に向いていた手は少年達を見ようとするかのようにそっと動いた。直後に、テリーは再びソイソーの顔に迫った。ソイソーはテリーの顔が近づいてくるとそれに合わせて目を動かした。


 「これであいつらから逃げられるぞ、ソイソー。」その言葉を聞いてようやく、ソイソーは大きく目を見開いた。


 「えっ……にげ……、何で逃げるの? あいつと戦わないの?」それを聞くと、テリーは即座に自分の両手をソイソーに見せてから、その手でソイソーの両腕を持って、言った。


 「ソイソー……、俺達はここに何しに来たんだ。俺達は一つの共通する目的の為にここに来たんだろ! こんな、憎しみや怒りの権化みたいな奴をやっつけに来たんじゃなくて、スンボー山に住んでいると言われている仙人様に修行を就けてもらう為に来たんだろ! だから、ほら、今はこっから脱出するんだ。外に出ればあいつも追って来れない筈だから。」


 「でも……、テリーは……何でさっきまで戦ってたの?」そう言った直後、ソイソーの後ろで何かが光ったようにテリーは感じた。嫌な予感を覚えて、テリーは軽く舌打ちをしてから、すぐソイソーへと言った。


 「今はちゃんと説明している暇は無いけど、要するに、あいつには背を向けちゃいけないんだよ。」ソイソーはそれを聞くと、ハッとした様子で振り返ろうとしたが、テリーがそれを止めて続けて話した。「でも、それはさっきの大きさの時までだ。あの大きさになってからも武器を投げるっていう行動には出たが、これであいつは攻撃の手段を失った。この状況だったら堂々と逃げられる。デカ物が追っかけてきたら、俺達は自分の武器を差し向けていけば、それで凌げる筈だからな。」


 喋り終わると、テリーはソイソーの手を半ば無理やりに引っ張った。ソイソー自身もためらうことなく、フラフラとしながらだが、その場に立ち上がった。顔や腕の小さな傷はその大きさ通り大したことはなくて、ソイソーは少しも痛そうな素振りを見せなかった。テリーは足元にある、姿を変えた刀を丁寧に拾った。ソイソーも立ち上がる途中で靴に当たった自分の刀を拾うと、顔を上げてテリーと今一度目を合わせた。二人はほぼ同時に一つだけ頷きあってから、互いの一刀を軽くかち合わせて、白い光の見える細い通路へと走り出していった。


 「……ソ……、」


 が、突然、二人の目に異質な色の光が入り込んできた。ソイソーは咄嗟に、下を向いて刀を前に突き出すという何とも不格好な体勢を取った。だが、その光は決して直視できないほどの強い光ではなかった。だから、テリーは目を細めて足を停めただけだったが、ソイソーの様子を見て少し顔をしかめた。その刹那、嫌な予感が当たったか、と感じて目を大きく開けると、短くなった刀を右の手から放して、壁に向かって両手でソイソーを突き飛ばした。少年は肩口からではなく背中からぶつかっていった。まだ調子の戻り切らないソイソーは痛みと、状況が理解できていないせいで顔を歪めた。


 「何するんだよ。」とソイソーが言おうとしたその時、


 ヒューーン……、と奇妙な風の音がした。


 「えっ……? 今……通り過ぎていった光……、もしかして?」

 「ああ。だが、あいつがこっちに来てないのがまだ幸いだ。走って……、」


 「ソウ……ワ……、サセン。」

 これからも、どうぞよろしくお願い致します。

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