第一部 第一章 Ho
小学校の時、確かに居ました。近所に国立の小学校に通っている人が。
当時は、そのような人達を、雲の上の存在、みたいに思っていた記憶があります。
少年は猛烈な勢いで走った。階段を激しい音を立てながら駆け上がり、また走り、改札で定期を見せながら更に走る。今の少年の額に汗は無かった。目の前に降り注いだ光がなんだがとても懐かしいものに感じられた。
駅を出ると気持ちのいい風が吹いていた。今、風は少年の右前から吹いてきていた。ソイソーは思わず立ち止まりそうになってしまった。それくらいに今日の風はいつになく気持ちのいいものであった。この一週間は昨日を除いて、天気こそよかったものの風がその天気どおりのものではなかったので、久しぶりに、来たなあ、という感じを持ったのであった。
キィーバの地で最も爽やかな風の流れる場所が、この場所であると言われていた。「その風が、キィーバの未来となる者達に、清廉な心をもたらすだろう。」という、この地に遥か昔から伝えられている賢人の言葉が基となって、ここに小・高・上級の各学院が建てられたのだった。駅の南側には大きな壁に囲まれた広大な敷地があり、更にその中に三つの敷地があった。三つの内、地図上で西側に当たるのが、少年の通う「キィーバ国立小学院」なのである。他所から来た人が見ると、砦や城に間違えるくらいに堅固な造りになっていた。学生達の冬休みの時期になると、一定期間、ここに入れなくなることがよくあるのだが、城下町の者達は、城の兵達が戦闘の訓練をしているからだ、と半分冗談交じりで言うのであった。
校門は、三箇所とも、頑丈な石でできた両開きの扉になっていた。百人の子供達が集まっても開けることができず、それに近い数の大人が力を合わせても動かすことすらできないこの扉は、各学院内にある、「魔銀」と呼ばれる魔法力を含んだ金属 -これらの多くは脆いものが多いが、この魔銀は丈夫な物- を魔法教師が操作することによってのみ開けることができるのである。授業のある時期、上級学院以外のこの扉は一時間目の少し前に閉じてしまうのであった。当然、子供達はその扉を何とか越えようと試みるのであるが、それは、ソイソーが毎日出る宿題を完璧にこなす、という事と同じことであった。なんといってもこの扉はその大きさが実に四メートルもあって、普通の生徒たちは上部に手を掛けることさえできないのである。
ソイソーは身長百二十センチメートルながらあと少しのところまで手が届いたことがあった。しかし、仮にそこまで到達できたとしても、これらの扉には更なる仕掛けがあった。それは「風」であった。扉の上部、厚さは五十センチメートルほどあるのだが、一帯には侵入者を外部に追い返す風の魔法が張り巡らせてあるのであった。それを知らない子供達は、危機迫ったとき意外にも隙があればこの壁のような扉を越えようとするのだが、結局は、眼を廻しながら地面に降ろされることになるのである。扉から追い返された子供達は不思議とその場から立ち上がることができない状態に陥ってしまい、友達が引っ張っていくことをしなければ、その子供は先生に連れて行かれることになるのである。国立学院の歴史上、次のようなことはまだないのだが、もし、ただの侵入者がこの扉に手を掛けることになると、この風は、相手を叩き落す威力のものに変わるのだった。その例がないのは、全て、その手前でお帰り頂いているからであった。
ソイソーはこの扉の仕掛けに関することを知っていた。よく、「ソイソー、そんなことも知らないのかよ。」なんてことを言われる少年なのだが、逆に、他人の知り得ない情報を何処からともなく拾ってくることが多々あるのだった。その情報源は非常に身近な者からであった。少年自身が、自分はまだガキだった、と感じていた頃は、ただの年上と思っていて、今は一気に、全てが尊敬できる存在、にまで見方が変化している、そんな存在による情報なのであった。
ソイソーのジャンプ力…、恐るべし(笑)。




