第一部 第三章 To
それが絶命に迫った叫びであれば、辺りは静かなままであった。
チューマは見事に命中した。炎は右肘から手の先、肩先へと蛇のように這いずり回って、あっという間に右腕全体を包み込んだ。
「すげえ、テリー。」ソイソーは刀を持つ手を下げながら言った。刃の先端には悪魔の体毛のようなものが付着していて、その内の一本が今そっと放れていって、地面に落ちる前に消えていった。魔法を食らった悪魔は、耳や頭が痛くなるような大音量で二人には分からない言葉を口にし続けた。そして、地面に穴が開いてしまうのでは、というくらいにその場でじたばたともがいた。特に、燃える右腕を激しく動かしていて、辺りに火の粉が飛び散ったが、ソイソーはひたすらに動き続けてそれをかわしていった。テリーは顔の前に手を当ててじっと相手の様子を見ていた。
「…駄目か?」そう呟いてから、テリーはそっと手を下ろした。その手の平は所々が真っ赤になっていた。テリーの斜め後ろに居たソイソーは刀を自分の前に突き立てて、空いた両手で思いっきり自分の頬を叩いた。
「今ならいける。今度は決めちゃうぞ!」そう言って、再び刀に手を掛けた。その時、
「…ヲ、」悪魔の奇声とちょうど入れ替わるようにして、可笑しな声が聞こえた。
「…何だ、今の声?」二人は声を揃えて辺りを見廻した。左を見た、ソイソーが居た。上を見た、天井があった。右を見た、テリーが居た。そして、後ろを見た。ショー=サナエが二人からかなり離れた所に居た。ソイソーはそこで顔を停めた。テリーはもう一度左を見た。
「な…何だ、あれ?」ソイソーも慌ててその方向を見た。
そこには、ソイソーが、見覚えはないが会ったことのある奴が居た。そこには、テリーが、口を利いたことはないが声を聞いたことのある奴が居た。小さくてその背はソイソーの半分以下で、黒より暗い色した姿をして、黒い光を放つ二つの目と、一方だけは、気味が悪いくらいの白さを持った歯をチラつかせる奴であった。二人の少年はまだそうとは知らなかったが、今、ソイソーとテリーの目の前には典型的な「悪魔」が立ち並んでいた。
ソイソーとテリーはそれぞれ別の悪魔を見ていた。テリーは、歯をチラつかせていない方を見て、ソイソーはそうではない方を見ていた。二人共もう片方の悪魔には視線が行かなかった。ソイソーはそいつを見ながら右手を刀から放して、ある筈のない剣を背中から抜こうとし、テリーはその痛々しい左手と力の入らない右手の両拳を無意識の内に握り締めていた。ただ、それ以上二人は動くことがなかった。それ以上何をすればいいのかを考えられない状態となっていた。その姿勢のまま二人は自分か、他人の息の音だけを聞いていた。ソイソー達の後ろで佇んでいたショー=サナエも、この異常な雰囲気を感じ取ったのか、小さな早足でソイソーの背中に近寄っていった。しかし、途中でその足が停まってしまい、まるで何か忘れ物を取りに帰るかのように慌てて振り向いて元の位置まで戻っていってしまった。
これからも、どうぞよろしくお願い致します。




