第一部 第三章 He
悪魔との戦いを優位に進める少年達。白い光の現れた薄暗い広間。大きな黒い体はもはや成れの果てなのか?
「何だ、この光? テリー……、サナ……、そうだ、サナエは?」ソイソーは光の飛び出した方向とは違う方向に顔を動かしていった。ソイソーの視界は一筋の風を映したが、それがただの気紛れであった為か、唐突の光の方が力に溢れていた為か、少年は霞を見ただけだった。ショー=サナエはまた、短く後ろ歩きをした。
「テリー、それって?」
「お前の超苦手なやつだよ。」という身振りをテリーが見せた。その身振りをしてる時も、する前もした後も、テリーの口元は小さく動いていた。そして、左手には1G硬貨ほどの大きさの球体が朧げに揺れ動きながら浮かんでいた。それは薄い橙色の光を放っていた。光の輝きは僅かずつ強くなっていて中心から離れた部分ではその色が白く変化しているのだが、ソイソーには不思議と、そこから感じる熱の力が徐々に弱まってきているように感じられた。まるで、掬った砂が指の間から抜け落ちるような、風も無いのに埃が舞うような、どちらにしても、少年にとっては未知の世界であった。
「できた…。」と口は動いていた。テリーの手にある小さな球体は、学院では危ないからと使用の禁じられている「メゾン型」の魔法であった。この魔法は「攻魔導師」と呼ばれる魔導師達の使うもので、主に、相手に危害を加える為の魔法である。テリーが使おうとしているのは、炎を召喚する「チューマ」というスペルの魔法であった。
「………。」ぼそぼそと呟き続けるテリーは、左腕を正面へと伸ばし、光の球体が浮かぶ手の平を悪魔の右腕へと向けた。向けられた相手に動きはなかった。テリーは、自分の魔法のせいで、今の体勢からだと相手の反応があまりよく見えなかった。だから、彼は全く抵抗のない相手に対して少々笑みを零した。「…。」更に数語何かを言ってから、テリーは口を閉じていった。
「ちょっと危ないかも。あと少し下がろう。」ソイソーは二者から目を離さずそっと後退した。その目線は、今は特に、悪魔の方に向けられていた。やはり、顔に目が行った時間は少しだけだった。これはこういう風になっているんだな、とソイソーは自分の中で決めて、まるで変化のないその部位をこれ以上気にしないようにしていた。だが、手や足に動きがなく、胴体に震えのひとつもないこの状態は、何か警戒しておくべきだ、と少年は感じた。「(僕が斬りつけた傷は浅かったのは間違いないけれど、その時も死んでるような感じだったのは、何故なんだろう?)」
悪魔の開けっ放しの口は沈黙を放ち続けている。その口にも入り込んでいただろう外の風は、少年の勘が働き始めたその時から止み始めて、今は、奴の背後から、誰も分からない程度の強さで、風が拭き始めていた。
テリーの口が動きを止めてすぐ、光の球体はその姿をいわゆる「炎」へと変えた。手の平一杯に広がる橙色の炎であった。その瞬間だけ、彼の額に汗が浮かんだ。一つ唾飲み込むとそれ以上に汗は出なくなったが、時間を掛けて大きな一滴が顎の左から落ちていった。ソイソーは真剣な眼差しで炎を見詰めながら、もう少しだけ足を後ろに動かした。すると、少年はそこで何かにぶつかって転びそうになったが、既のところで体勢を整えた。
テリーは足を後ろに持っていき前傾姿勢になってから、足元に力を入れてゆっくりと口を開いた。そして、
「ケイッ!」と、今日一番の声を放った。
テリーの左手からチューマは解き放たれた。幼い声を灯した炎は少しも暴れることもなく、一直線に悪魔の右腕へと向かっていった。だが、その速度は二人それぞれが想像していたものとは違って、速くはなかった。子供手の平より倍くらい大きい「ボール」を全力で投げた時よりも遅いものだった。流石に、ソイソーも、「かわされる?」と思い、テリーは「間に合え!」と、声を出した。
次の瞬間、
「ウギャーー!!」辺りに遥かなまでの呪音が響き渡った。
これからも、どうぞよろしくお願い致します。




