第一部 第三章 キィーバの山に住む者・後編 I
少年の足は不思議と停まることがなかった。入った瞬間から感じた直感に、彼は従おうとはしなかった。そして、すぐに彼の中から迷いが消えて、二つの手に力が籠もった。
年上の少年は広間の中央に置かれた一つの箱の前に居た。周囲は薄暗く、その向こうが僅かに明るくなっていて壁があり、彼の居る所も視界の奥と同じ明るさがあった。すぐ後ろにあるものが魔法蝋の代わりとなってその場所を照らしていたのだった。代わりと言うには大きすぎるのだが、今放っている力はその程度のものだった。箱は彼の目線の奥にあった。一見すると、彼が城で見たことのある豪華な装飾がなされた宝箱にも似ていたが、多くの装飾が施されてる点が似ているだけで、この箱は灰を被ったような色をしていた。だが、今、彼が気にしているものは、すぐ目の前にあるものだった。少年の視界の中ではっきりと映し出されているものは、彼の左手にある一本の物であった。時間が経つに連れて彼の気苦労が増していった。
「まったく、何で剣が勝手に落ちたりするんだ。親父に教えてもらった方法で左腰に装備していたというのに。」
テリーがこの洞窟に入ってまもなく、この広間があった。見え始めた所は通路の途中から、その箱は余りに堂々と、訪問者にその姿をさらけ出していた。洞窟に入ってひたすら真っ直ぐに歩き、その距離は百メートルほどだった。通路の壁には魔法蝋が取り付けられていて、足を踏み入れたその広間の壁にも均等な間隔で魔法蝋があった。彼は身震いした。見事なまでに整った円形の広間がそのように仕上がっているのに、何か拭えない汚さがあるのだった。地面や壁が茶色の石垣みたいな造りである、ということのせいではないと彼は感じた。それ以上は何も考えずに取り敢えず一周はしてみたが、いよいよ、ここには何かがあるな、とテリーは感じた。一回りする前から箱には目を向けても触れてはこなかったのだが、これにも重大な秘密がありそうだな、と考えて、テリーは改めて見て廻ることにした。
それからしばらくして、彼が最初の小部屋に入った時に、事は起こったのだった。
この洞窟は、通路を抜けた先の広間と別に、その奥にある三つの通路の先にそれぞれ小部屋があった。一周目からそれらの場所も覗く程度に見て廻っていた。いずれの部屋にも見知らぬ文字の書かれた石碑が一つ置かれていて、途中の短い通路と部屋自体に灯りが無いのだった。少しの炎も無かったが、テリーがここまで廻ってきた洞窟と違って、自分の魔法蝋無しで歩くことができていた。だから、彼はリュックを置いて、再び探ってみることにした。
「ここだけ他の二つより広いんだよな。違うところと言えば、この水溜りくらい。まあ、石碑に書かれている内容も何か違ってるみたいだけど、何て書いてあるのか分からないから、それは無視しよう。」そう言って、テリーは石碑に背を向けた。目の前の水溜りは決して明るいとは言えないこの状況のせいか、黒く濁って見えた。月の無い闇夜に見る池よりも暗い色であった。彼はふと、広間の箱が頭の中を高速で過ぎっていくのを感じた。それを追いかけるように一瞬、彼の目線は左にずれていってしまったが、すぐに正面を見てみると、水溜りには僅かだがはっきりと波紋が発生していた。感じる風が無い筈なんだけど、と思っているテリーはより一層奇妙な感じを持った。地震だったのか、という頭は彼の中にもないことであった。
「次……行こう。」と、テリーは足を上げた。その時、
「…いい物を持っているな…。」
「…!?」後ろを振り返っても、そこにはテリーが見えていた以上のものはなかった。だが、何か音はしていた。ササ……スス……。そして、テリーは不意に、右腕にとても大きな重りを持たされたような感覚に陥った。「何だ、急に?」しかも、息つく間もなく押し付けるようにしてどんどんとその量は増えていき、それでも、彼は何とかその呪縛から逃れることに成功したが直後、不可視の重りは別の所にも付けられていた。
バシャーン…。彼は振り向いて下を見た。
「えっ? うわ、最悪………。」とにかく彼はそれをすぐさま拾い上げて、早歩きでその小部屋を後にした。
これからも、どうぞよろしくお願い致します。




