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第一部   第二章    U

 「……、結び終らん」キィーバドラゴンは自身の声で(うた)を終えた。そして、祈った。「光よ…。」

 「間に合わせないと…、いや間に合う。どっちがこの刀を上手く使いこなせるか、勝負するんだもん!」


 少年は突然に大声を出した。そして、眺めていた右手とパペルを持っていた左手を刺激が走るくらいに大きく広げると、それぞれを勢いよく打ち合わした。


 パアァーーン


 反動でソイソーは顔を下に向けて、目を細めた。何の音だ、と少年は思った。近くで大声を出された時に頭が痛くなるというそんな感じにも似て、また、教会の鐘が鳴った後の心と耳に残る感じにも似ていた。揺れながら地面に落ちたパペルは白い輝きの中だった。少年は、魔法の掛けられたパペルなんだから当たり前か、くらいに思った。しかし、その光は段々目の中にまで入ってきた。ソイソーは徐に顔を上げた。


 「サナエ? …ショー=サナエ?」ソイソーの声の先にショー=サナエは居なかった。


 そこにあったのは、光だった。まるで、太陽が空から降りてきたような物凄い光だった。それは、輝きの無い灯りで微かに色が生きているこの空間を、永遠の未来まで続いていると錯覚してしまうくらいに真っ白な光の大地へと変えていった。足元にある筈のパペルも隠れてしまっていた。でも、ソイソーはその光をしっかりと見ることができた。その光は太陽と同じくらいに力強いものには違いなかったが、それ以上に温かであって、非常に懐かしいものに感じられていた。少年は不意に、口から何かが零れ落ちるのを感じた。


 「エクノアの…炎…。」


 少年は左手で口を拭った。その感触はザラザラとしていたのだが、すぐにはそうと気付かずに、手を下げた時にそういう感覚であるのを知って、何事かと辺りを見渡した。


 「うわっ。何だ、この風…。」少年は急に目を右腕で覆った。辺りの光は弱くなり始めていた。左手が片耳を押さえた。周囲に凄まじい風が舞い、激しい唸り声を響かせていた。足元で消えていたパペルはソイソーの両脛に貼り付いていた。ソイソーはすぐにそのパペルを拾い上げ、簡単に裏表と見廻した。「あれ?」風や音も弱まり始めていた。手の中のパペルはまだ風の力に翻弄されている状態だが、ソイソーはそのパペルを少しずつ顔に近づけていった。


 「よかった、ちゃんと見れる。」白く、そして、光の反射で僅かに輝きを放っているパペルに黒い線や文字が現れ始めたのは、本を読む時は離して読みなさいと少年が大人によく言われるその距離の時であった。


 「あっ、ショー=サナエが……。」


 風・音の弱まる速さが光のそれに追い付き、一遍に辺りは薄暗い広間へと戻っていった。光になっていたショー=サナエは徐々にその姿を現していった。


 ショー=サナエは少し遠い所に立っていた。まず、嘴が見え出した。先は鋭いが太くて黄色い、やや大きめないつもの嘴。次に胴体。こちらも大変に太めな体型であるので、顔面よりも先に、その白くてたっぷりの羽毛を持った腹部が登場した。そして、顔が見え出した。


 「目が…、色が……。」それ以外は普段のショー=サナエの顔だった。お腹ほどではなくとも羽毛に包まれた白い顔。鼻と耳は元来非常に小さく、少年の目からそこに変化があったかどうかは分からなかったが、実際、何も変わっていなかった。しかし、左・右の、それぞれの目は普段のショー=サナエのものではなかった。少年の言葉通り、その色は変わっていた。球体の中央にある青い瞳の周り、(ユマン)と同じ白目であった所は、不安定な間隔でその色を変えていた。少年が声を出した時、右は黄色く光っていて、左は黄緑色の光を放っていた。少年はまだ気付いていないのだが、ショー=サナエは目付きも変わっていた。ショー=サナエの愛嬌の元となっている真ん丸な目は、獲物を狙う餓鬼の如き獣か、はたまた、自らの巣に近づく者に攻撃姿勢を見せる親鳥か、そのような鋭い目になっていた。そして、ショー=サナエの不思議な変化に対して少年の言葉が続かないでいた時に、今度は、左が水色に、右が強い光を伴う白色にそれぞれ変化していた。二つの目が更に別な色へ変化を見せた直後、残りの光の多いが全て静かに取り払われていった。ソイソーはショー=サナエの一番の変化に仰天して、思わず叫びそうになった。


 「サ!! ………、(変な大声は悪魔(ビル)を刺激するだけだ。落ち着いて…れいせいに…と。)」そう自分に言い聞かせると、まずは、温かそうなお腹に目線を移してから、パペルを丸めてポケットに入れて、ショー=サナエの方へと歩いていった。拳をやや強めに握りながら早足になっていた。そんなソイソーを見て、ショー=サナエが動き出した。何の変化も見せなかった短い足で、ペチペチ、音を立てながらソイソーの方へと向かっていくと、少年は思わず足を停めた。ショー=サナエは透かさず嘴を開けた。


 「サナエ!」何か言葉を話したらどうしようかと思った少年だったが、そこの変化はなかった。だが、光に包まれる直前からあった、鋭い口調の声は今もあって、嘴を閉じた後もその余韻が残るのだった。ソイソーは引っ張られるように走ってきた。近づいていっても少年の目に映るショー=サナエの大きさは変わらなかった。


 「サナエ、これは……?」

 「…。」ショー=サナエは何も言わなかった。そして、すぐに、ソイソーに背を向け始めた。少年は目を擦りながらその様子を見ていた。今、目の前には真ん丸の背中と、左右に広がる翼があった。


 「…。」

 「サナエ。」

 「えっ…、でも…。」

 「サナエ!」 「う……うん。」


 少年は渋々ショー=サナエの小さな肩に手を置いた。自分の半分以下の身長とちょうど半分の重さの相手であったから、それ以上はできなかった。


 「これでいい?」

 「サナエ!」充分、と言ったような感じて一つ頷くと、広がっていた翼がゆっくりと動き始めた。


 翼が少年の見た中で一番大きな変化だった。体の側面をぎりぎり覆っている程度な大きさの翼は、地に羽が付くほどのものになっていた。それは、先っちょが少し付くくらいではなく、翼にある羽根の半分近くが接するような、それほどの大きさであった。異国にあるという「団扇」の「扇」のような形であったショー=サナエの翼は、今や、飛獣(フレマー)一優雅な翼を持つと言われる、ホワイト飛獣(フレマー)種のそれに匹敵するものであった。体の他の部分に比べれば貧相と言えるような毛で成っていた翼が今は、間違いなくどの部分よりも立派な白い毛、羽根を持っていて、その見事さ豊かさを誇るかのように、両翼は地をゆっくりと撫でていた。


 しかし、少年は心配していた。翼が大きく立派になったから飛ぶことができるのか、というのが分からなかった。


 「あっ、ちょっと待って。」そう言って、少年は手を放した。ショー=サナエは聞こえなかったのか、翼の動きは止まらなかった。少年は急いで、上着のポケットからパペルを取り出した。そして、丸まってしまっているのを、膝を使って急いで伸ばしていった。「どちらにしても地図が無いと道が…、……!」その瞬間、少年はまたパペルを落としそうになった。


 少年は真の変化を目の当たりにした。


 「と………飛んだ!?」


 小さなショー=サナエにとっては長すぎるとも言えるその翼が羽撃(はばた)くこと数回、普通の鳥や飛獣(フレマー)なら最初の一回で飛ぶんだろうな、と思っていた少年は、正直、自分が手を放してもすぐに浮き上がっていかないショー=サナエを見て、「(ダメだ、こりゃ。)」と思っていた。だから、今ソイソーは思わず、次にどういう行動を取ればいいかというのを見失ってしまい、その間にも、ショー=サナエはソイソーの肩の高さまで浮き上がってきていた。


 「そ……そうだ、掴まらないと。」


 「サナエーー!!」


 大きな音を残し、魔法の風は、小さな力を乗せて、神速を以って一つの通路へと消えていった。


 ショー=サナエの下にはこの広間で二つ目の紋章があった。それは一つ目の紋章と全く同じ形で、同じ系統の少しはっきりとした色をなしていた。その紅い紋章が、どこか申し訳なさそうに音も無く消え去ろうとしたところ、そこから黒い砂が爆竹のような音を立てて舞い上がって紋章の上に降りかかっていった。風が生み出した大音の反響が消えて辺りが空虚な風の音だけになった時には、広間の地面はただ茶色の石垣があるのみであった。


 第二章はここまでです。次章は大きな敵との戦いです。少年達とショー=サナエは其奴の力に勝つことができるのでしょうか?

 これからも、「フォーダースの勇者」をどうぞよろしくお願い致します。

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