表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/75

第一部   第二章    Mu

 (ドラゴン)からの魔法が消えて、広間は薄明かりの中、とても静かだった。「ガーディアンドラゴン」の名を聞いた少年は…

 「ショー=サナエって…、」少年は恐る恐る右側を見た。視界の中に白い羽毛が見え始めた。白い針山や鱗は見えなかった。小さな翼が背中の両側に控えていて、相手の顔は見ることができない状態だった。その者は、少年を二度に渡って苦しめた風と霧の出ていたこの広場にある、五本の通路の内の一本を見ていた。


 「ガーディアンドラゴン…、ショー=サナエが…。」


 「サナエ!」


 「うわっ……な、何?」突然、ショー=サナエがソイソーの方に振り返って叫んだ。目が合った瞬間、少年は不思議な畏れの感情を抱いた。


 「サナエ、サナエ!」


 「あっ、………そ、そうだね。地図地図っと。」ソイソーは、異様な雰囲気を放つ目をしているショー=サナエに指摘されて、改めて手にしているパペルを見た。中央の上部に大小二種類の文字が記されていた。



 「スンボー山之図―霧が惑わす洞窟」



 そして、その下一杯には地図が広がっていた。


 「昨日はこんな洞窟の名前、見なかった。ってことは、この地図は今、この洞窟を映し出してるんだ。……、でも、今居る所はどの辺なんだろう?」


 「サナエ、サナエ!」ショー=サナエはソイソーの声に俊敏に反応した。そして、何も映し出されてない、パペルの真っ白な面から一点を突っつくと、少年はそこにあった黄色く光った一つの丸を見つけて、まずは喜び勇んだが、すぐに、いつもは中々見せない弱気の色を見せ始めた。


 「テリーまでは…遠そうだね。…間に合うのかな…。」


 ソイソーはパペルを持つ手を左だけにして、右手を腰に掛けた。パペルはダランと垂れ下がって地面をそっと撫でた。ソイソーは右手に触れている物に顔を向けて、力強くそれを握った。やがて、その手を放して顔を上げると、右手を顔の高さに持っていってそこに刻まれたものを目に映した。



                 1   1

                 9   9

                 8   8

                 7   7

                 ・   ・

                 9   9


                 テ   ソ

                 リ   イ

                 |   ソ

                     |


 -実際は、左側はそれぞれが左右反転している。-



 それらの数字は少年にとって思い出のものであった。ソイソーは七個の数字を全て覚えていた。残りの二つは、その日を特別なものとする為に、二人の約束で刻まないことにしているのだった。年上の少年は一本剣を持っていての一刀目だが、年下の少年にとっては正真正銘の一刀目となる、まさに、剣士ソイソーとしての記念の日付なのであった。


 「刀だけはテリーより先に手に入れるからね。絶対だよ!」二年前、テリーが真剣を手に入れたことを知った時の、ソイソーが叫んだ言葉であった。


 常に一回り小さいソイソーは、自分より大きなテリーがすることの幾つかを、背伸び背伸びで追いかけながらやってきていた。大半は遊びに関することなのであったが、過去にはこんなことがあった。


 ソイソーがまだ四歳、テリーは五歳の頃に、テリーはソイソーに小学院生の証となるベルトを見せたことがあった。それを見せ付けられたソイソーは、自分もテリーと同じ時に小学院に入るんだ、と決めて、そのベルトを買いに行ったのだった。四歳の誕生日に母方の祖父から記念にと送られた、ソイソーの背の半分ほどもある盾を、ヒィヒィハァハァ、言いながらお店に持ち込むと、ソイソーはそれを売って手にしたお金でテリーと同じベルトを買った。入学式の当日、テリーの後を追ってソイソーも小学院にやって来た。ソイソーは勇んで校門の中に入ろうとするが、実は、ベルトは特殊な魔銀が入った物である必要があって、ただベルトを買うだけでは駄目なのであった。ソイソー坊やはそこで門兵に見つかってしまい、親からは、勝手に盾を売ったことと併せて、散々に怒られたのだった。


 二人の間にはまだまだ多くのことがあったが、二人以外を巻き込んでの事柄ではこれが一番の騒ぎとなったものであった。キィーバ国立小学院は誰でも入学できる所ではなかったので、ソイソーは危うく入学さえもさせてもらえなくなるところであったが、そこは、ソイソーが必死に誤り親の許しをもらうことができて、一年後、追いかけっこはまた少し縮まることになった。しかし、その一ヵ月後、ソイソーは今までで一番悔しい思いをすることになる。それが、剣のことであった。


 「テリー君、立派な剣を買ってもらってたわ。」と聞いたその日、ソイソーは思いっきり叫んで、それから丸一日自分の部屋から出て来なかった。ほとんどの物事をテリーが先に始めていた中で、剣だけはソイソーが先に始めていた。父親の見様見真似でただ棒を振り回していた時期を含めると、二年は早かったことになるのだった。だが、真剣を許されるのに必要なことは経験ではなかった。年齢であった。でも、だからって、テリーが先に七歳になったからって、僕よりも先に剣を手にすることができるのは許せない、と六歳の少年は強く心に感じていた。暗闇の中で静寂を聞き続けて、空っぽのお腹には小さな怒りを何度も詰め込んでいって、その後も、当の本人とは二ヶ月間顔も合わせなかったのだった。


 一年と数ヵ月後、ソイソーがようやく真剣を持てる年齢になった。父親は、下の息子がこの日の来ることを何よりも待ち望んでいたことと、ここ最近はいわゆる「いい子」で過ごしていた、という二つを見て、剣を与えることにしたのだった。父親からそのことを聞いたソイソーは諸手を挙げて喜び、飛び跳ねて母親に怒られてもすぐには、その感情を抑えようとはしなかったが、少しして、少年は何の前触れも無く歓喜の舞を止めた。寧ろ、微かだが表情は暗くなっていた。


 「ちょっと待ってて。」ソイソーは父親にそう言うと、家を飛び出していった。何事かと思い父親も外に出たが、少年は早くも塀の中に入っていくところだった。「(さては)」彼はすぐに悟ると、ゆっくりと家に引き返していき、のんびりと出掛ける準備をし始めた。


 「どうした、ソイソー。今日は何か用事があるんじゃなかったのか?」


 「…。」ソイソーは口の中で一拍置いた。顔を下に向けようかと思ったが、そこは踏み止まった。テリーも何も言わずに待った。扉が僅かに外へと動いていった。快晴の中、いつもの微風が吹き始めた。


 「待たせて……、ご…ごめん。」 「『なさい』、は?」


 「…待たせてごめん…なさい。」 「いいよ。」


 ソイソーは一瞬、痙攣にあったような体の震えを見せた。下に向きかけた顔が、またもやその動きを止めた。「まっ、俺は年上だからね。」


 そして、テリーは、「親父に言ってくる。」と言うと、後は手でソイソーに合図をして、家の中に戻っていった。ソイソーは超特急で家に向かうと、中には入らずそのまま庭へと向かっていった。そこで一本の棒を拾って、がむしゃらに素振りを始めたのだった。


 「あの剣は、俺の誕生日祝いってことで親父がくれたものなんだ。でも、俺はお前が持てるようになる日に合わせるつもりだったから、いらない、って言ったんだ。…少し嘘だと思ってるだろ? でも、あの時は、それで親父と喧嘩になったんだ。その前から宿題を真面目にやってなかったとか、何とかで仲が悪くて、それで俺が親父からの物を断ったから、一気にドカーン、となったんだ。馬鹿でかい叫びの後、俺のこと完全に無視してたから分からなかっただろうけど、一週間、おでこが腫れた状態で学院に行ったんだぜ、俺。まっ、あれだよ。お前とは色々あったからな。」ソイソーの誕生日の一ヶ月前にテリーが話したことだった。おでこの腫れはソイソーも知っていたのだった。まだお節介にされていた頃の兄から聞いていたのであった。少年の棒剣を振る速度が急に増していった。


 「こんにちは、ソイソー君は…って、お前そんな所で何してんだよ?」


 「…ごめん…なさい、テリー君。」

 これからも、どうぞよろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ