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第一部   第二章    Ta

 宝箱とパペル、少年とショー=サナエ。結び、そして、解くことはできるのか?

 読み終わってから、また少し、少年は固まってしまった。ショー=サナエは、ソイソーが読み終わってすぐに、体を少年の方に向けていたが、

 「サナエ?」 「…。」


 問い掛けにも満足な答えが返ってこなかった。放心状態というよりは、頭の中ががむしゃらに動き出していて他のことに気を配ることができない、といった様子であった。やがて、

 「サナエ?」


 「ああ、うん。…鍵が無いと開かないみたいだね、この箱…。」

 「サナ。」ショー=サナエの返事は早かった。


 「うーん…、でもさぁ…、開きそうな気がするんだよね、この宝箱。」少年はそう言って、ショー=サナエを左横に降ろした。すぐに立ち上がると、踏ん張る為に足を開いて腰を落としていった。そして、宝箱中段辺りから少し上の所にある鍵穴の両脇に見えた小さく窪んでいる部分に、ソイソーの小さな手を入れた。「こうやって上げればいいんでしょ? フンッ!」カツン…。そういう虚しい響きが少年の手にも伝わった。少年は一度そこから放して手を軽く振った。それから、もう一度、同じ所に手を掛けて同じことをやってみた。軽くやってみた。一度では気持ちが晴れなかったようで、結局、何度か繰り返して、最後に、目一杯の力を込めてその手を上に上げようとした。しかし、結果は変わらなかった。強いて言うならば、時々、カツン、の音が無い時があった。少年は少し顔の色が濃くなっていて、微かに息が乱れていた。ショー=サナエは箱の周りを歩いていた。箱が音を出す度にその方を見て、また、たまにソイソーの方を眺めては、嘴をパクパクさせていた。何に向かってか、翼を振ることもあった。それでも、ソイソーの目は宝箱だけを映していた。今度は、この箱が動かせるかどうかを確かめようと、押したり、横に振るような力を加えてみたり、ということをしたが、ガタガタ、という音がしただけだった。カツン、とは言わなかった。ソイソーは下を見たが、この箱が動いた様子はなかった。


 「地面にくっ付いてる。」そう言って、少年は再び動き出した。いつものソイソーなら、こりゃダメだ、と言うか、継続するとしても、時間を掛けて思考し直し、手段を大きく変えて動くところであった。その後もしばらくの間、ソイソーはこの箱を何とか開けようと試みた。宝箱の蓋を上にではなく斜め上に開けようとしたり、「実はこうやるんでしょ。」と言いながら蓋を横や縦にずらそうとしたりもした。「やっぱり鍵?」と言って、鍵穴を覗いてから探し出したのは、その辺に落ちていた細長い小石であった。それを鍵穴に挿し込んで、「パペルに書いてあった『盗賊』っていう人達は、本物の鍵が無い時は、こういう物を使って開けるんだよ。」と、誰も居ないショー=サナエの居た所に話し掛けながら何とか開けようとした。それでも、宝箱を開けることはできなかった。


 ソイソーはその場に座り込んだ。ショー=サナエはソイソーの隣で立ち停まった。両者は目線を変えることなく数分の間、その場で動くことがなかった。少年の前には座った自分よりも大きな青い宝箱。右にはショー=サナエが黄色い短い足をしっかりと見せて立っていた。左側には何も無かった。リュックはずっとソイソーの背中にあった。そのリュックを少年はここで降ろして、正面を向いたまま左側に置いた。それから、さり気なく背後を無防備にして、完全に空いた背中はそのままゆっくりと地面に近づいていった。


 「…冷たい。」地面はひんやりしていた。少年は自然に体を震わせた。遅れて頭も着地したが、髪があるせいか、その感触は中々伝わってこなかった。「(ここが冷たいのは冬が終わってそんなに経ってないからなの?)」と少年はふと思った。「(そんな訳無いね。ここ、太陽当たらないじゃん。)」すぐに、少年はその声を感じた。「(夏は気持ちよく感じるんだろうな。)」そのようなことを想像した後、暑くなったらここに来よう、とは考えずに、ソイソーは沈黙してしまった。自身の非常にゆったりとした呼吸だけを、全身を使って集音していたのだった。


 「…。」 「…。」


 広間の空気は妙な落ち着きがあった。


 「…!」少年は目を開けた。目を瞑るとは思わなかったので、針で突かれたような刺激を感じた。そして、少年は更に目が覚めるような思いをした。


 「明るい。」ソイソーの視界には赤の要素が強い、茶色の天井が映っていた。急激に高くなっている所は途中から暗闇となっているままだが、少年は、炎で映し出されたものを見ている気分なのであった。ただ、ソイソーの見ているものは何も変わっていなかった。ゆっくりと上体を起こしていって、見ているものが天井から壁、加えて、少し遠くの地面と変わっていったが、見られているものは全く動じていなかった。石垣模様の物言わぬそれらは久々の訪問者を静観する、その形を崩していなかった。ここの岩肌はどこも綺麗であった。


 それを見ていた少年は目線を自身に戻した。自分が探しに来たものを思い返した。そして、一旦それを考え出すと、この広間が秘めている異質な雰囲気はソイソーの持つ超野性的な感覚というものを、これでもか、というくらいに刺激していった。


 「やっぱりこの宝箱が…。」少年は再び、宝箱にまとわりついた。

 「この…、ここの鍵穴が……。」 「サナ。」


 ソイソーは鍵穴を片目で、もちろん、右の目で覗いてから、思い切った行動に出た。


 「ん、フーーッ!」 「サナエ。」


 「…。」


 一瞬、広間に、小石の落ちるような音がした。ソイソーはショー=サナエの方を見た。


 「今…何か音がしたよね。」

 「サナエ?」

 「うん、したよ。カチッ、って音が。もう一回、開くかどうかやってみよう!」


 少年は、その言葉の勢いとは裏腹に、ゆっくりと宝箱に手を掛けた。力を徐々に加えていくと、青色の宝箱は、長いこと見ることもなかった客人との触れあいに緊張しているかの如く、微弱な揺れと錆びた金属の動く音を出しながら、いつしかの封印を解き放っていった。少年は目線を敢えてずらし中を見ないようにしていた。ショー=サナエは目を丸くして中を見ている。ある程度開いたな、と感じたところで、ソイソーは一気に蓋を開け放った。それと同時に、

 「なんだ、今の音?」ゴーッ、という低い音が辺りに鳴り響いた。更に、「この揺れは?」少年が思わず手を突き、立ち上がることが難しいくらいの揺れが発生した。少年は低い体勢のまま宝箱の右横で、自分達が通ってきたここよりも薄暗い様子である通路の方に向き直った。ショー=サナエはまじまじと宝箱を見ていた。翼を、バタバタ、と二度ほど羽撃(はばた)かせるのと同時に、音と揺れが収まり始めてきた。少年は、ハッとして右を向いて目線を落とした。その時に少年が見せた表情に笑みはなかった。ほんの一瞬だけ無表情になった。だが、すぐに、その目に力が宿り、口がしっかりと結ばれていき、言葉を発するまでの三十秒間は、ショー=サナエが少し後退りをしてしまうくらいの、銀色の気の波動を体全体から放っていたのだった。ただ、最後の件は、少年自身にその認識はまだなかった。


 「サナエ、戻ろう! きっとこの洞窟にはまだ何かがあるはずだよ。」

 「…サナ。」


 「そして、その先に絶対仙人様は居るよ!」

 「サナエ。」


 ソイソーは更なる探索の準備の為に、反射的にパペルをそこに置いた。そして、さっさとリュックを背負い、背後を元の状態に戻し、ショー=サナエを抱えると、走って来た路を引き返していった。辺りを今日一番の靴音が木霊していった。音の響きはこの通路の狭さと広間故に長く続いた。少年が広間を出て最初の分かれ路に着いた時に、広間の入口は静かになった。その静けさを保ったまま広間の中央に置かれた青色の宝箱は、(おもむろ)に動き出していった。青く輝く金属の光は、その上蓋の動きと合わせるように、ゆっくりと落ち着いた色に変わっていって、やがて、相当に濃い紺色へと()していった。パペルは結局、本当に明かりの届かない場所へとその()(どころ)を変えていき、広間は今、再び、沈黙の時が流れている。


 これからも、どうぞよろしくお願い致します。

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