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第一部   第二章    Yo

 一枚のパペルを見つけた少年。そこに記されているものは…。

 翼と翼の間にパペルは収まった。危なげなくしっかりと取れていた。少年は一瞬、「(何だ、この音は?)」と思った。ショー=サナエの短い翼であれば、取る時にあんな音は出ないような気が…、と考えていたが、その間に、ショー=サナエの短い足がバタバタと動き出した。ソイソーは、ハッ、として手を下げていった。降ろしている途中、少年はショー=サナエの両方の翼が動いたような気がした。パペルが落ちちゃうよ、と言おうかと思ったが、先に声を出したのはショー=サナエの方だった。


 「サナー。」

 「待って。」すぐにいつもの高さとなって、ショー=サナエはそこから自分で廻れ右をした。


 「サナエ。」 「見せて。」


 ショー=サナエは素直に、パペルをソイソーに渡した。受け取った少年はすぐに、裏、表と二回交互に見た。どうやら、片面に文字が記されているだけで、一見するとただのパペルにしか見えないのであった。書かれている文字は次のようであった。


 「AS1967 A・F・M これが鍵か?」

 ソイソーはまず少し頭を掻いた。


 「最初の部分は、ネンゴウ……だよね。ASの1967ってことは…えーっと…、」少年はしゃがんで手頃な大きさの小石を見つけると、地面を使って筆算を始めた。立ってショー=サナエが見ている中、当然のように時間が掛かり、それでも、二年間も母親と兄に口煩(くちうるさ)く言われただけのことはあって、少年は間違うことなく計算をすることができた。「二十一年前の物だ。ん? 二十一年間も天井に貼り付いていたってこと? どうやって? っていうか、最初に上を見た時には、何も無かったんだけどなぁ。」ショー=サナエが嘴を小さく開けてソイソーのことを見ていた。ジーッと見ていた。少年は手の中のパペルを更に調べてみた。


 まず、「叩いてみようか。」パンパンパン、と数本の指で軽くパペルに衝撃を与えてみたが、何も起こらなかった。


 次に、「振ってみようか。」パペルを持った手を左右に動かしてみるが、ペラペラとパペルが虚しくなびくだけであった。


 「落としてみよう…、いや、意味無いね。」


 「サナエ!」 「ん、何?」


 少し、ショー=サナエの口調が強くなっているような感じを少年は持った。そして、

 「…ああ、そうか。『これが鍵か?』ってことは、こんな感じにして、………よし。やってみよう。」少年はパペルを巻いて棒状の鍵を仕立てた。それを宝箱の凄く小さな丸い穴に差し込んでみた。


 「…。」 「…?」


 音はしなかった。パペルの棒はそこから右にも左にも廻すことができたが、棒を上下左右に動かすことはできなかった。


 「これのことじゃない? それじゃあ、『鍵』って?」ソイソーはゆっくりとパペルを引き出すと、それを適当に伸ばしていった。伸ばしてから、パペルの下だけを掴んで持ち始めた少年だったが、近くにある二つの角や、上の二つの角いずれも、少しも丸まることはなかった。パペルは元の状態の、すらりと整った形になっていた。


 ソイソーはもう一度、パペルの両面を見比べてみた。文字が書いてある面。逆の、何も書いてない面。その面になった時に、ショー=サナエの変に真剣な眼差しが少年の視界に入ってきた。少年はそれを、サナエがこっちを見ている、程度に受け取っていた。裏返して、文字がある面にやって来た。少年は人差し指で、パンパン、と弾いてみるが、やはり何も出てこないのだった。


 「やっぱりこれ一枚だけか。うーん…。何かさぁ、この辺から剥がれそうな感じもするんだけどねー。」ソイソーはパペルの右下を右手で持ちながら、左手親指でゆっくりと引っ掻いてみた。すると、「あっ…。」文字がある面のパペルが僅かに捲れ上がり、何と、その下にパペルが現れた。まくれる瞬間、音は無かった。少年は一瞬固まった。だが、すぐに硬直が解けると、ソイソーは一旦唾を一飲みして、少し速度を上げてパペルを捲っていった。


 「沢山文字がある。…消えてるところもあるなぁ、あっ!」新たな面のほとんどが姿を見せたというところで、少年の手からパペルが勢いよく離れていった。そのまま凄まじい速さでパペルが新たな面の裏側に巻かれていったと思ったら、初めにあったパペルはそこに貼り付いてしまった。ソイソーは尻餅をついてしまった。パペルは少年の指の下に入り込んでいくような動きであった筈だが、ソイソーは痛い、熱い、くすぐったい等といったことを一切感じることはなかった。


 「サナ。」 「これって?」


 少年は文字を無視してパペルを軽く眺めると、再び、このパペルの角を剥そうと試みた。一々、親指を少し舐めてから、丁寧にゆっくりと何回もやってみるが、そこから新たな面が出てくることはないのだった。しかし、

 「ということは、きっと…、」ソイソーは何かに気が付いて、パペルを裏返しにした。そして、そこで同じことをし始めた。右下はダメだった。次に、左下を引っ掻いてみたところ、再び、パペルが捲れ出した。捲れた面の裏側をチラッと見てみると、そこには、あの年号が書かれていた。ソイソーはすぐに捲るのを止めた。


 「やっぱり。あの地図と同じで、このパペルも『マジックパペル』なんだ。兄ちゃんに聞いといて正解だったな。でも、こんな凄い物が洞窟の奥にあるってことは、さっきの書いてある内容からしても、お宝に関係があるパペルなのかなー?」


 「サナ、サナ。」

 「だよね。じゃあ読んでみるよ? どれどれ…、ちょっと難しい字もあるけど…、何とかなるかな。」ソイソーはきちんと体育座りになった。それから読もうとすると、ショー=サナエが、座る座る、というような仕草をしたので、パペルを一度地面に置いてから、少年は自分のお腹と足の間にショー=サナエを座らせてあげた。ショー=サナエは顔を上げる形になった。改めてパペルを手にした少年は一つ頭を掻き、大きく息を吸ってから、目線をパペルの左上に動かしていった。静かな広間の中で、ソイソーの口がゆっくりと過去の記憶を辿り始めた。


 「ここまで時間が掛かるとは思わなかった。私の…、」


 

 ここまで時間が掛かるとは思わなかった。私の長きに渡る「盗賊」という肩書きの人生もこれで報われることになるだろう。… 一部破損 …小学院すら通わなかった私が手にした一枚のパペル、それが運命の全てだった。… 一行ほど破損 …だからこそ、この場にこれを記述しておこうと私は思った。そして、記しておく理由はもう一つ。どうやら肝心の箱の鍵がこの洞窟には無いようなのだ。一応、盗賊を名乗っていたから、その鍵がこの近くにあるというのは分かっているのだが、どうも嫌な予感がする。私に限って大丈夫だとは思うが、もしもの時の為に、ここに、私という未… 一部破損 …という証拠を残していこうと決めて、パペルに魔法を書き込むことにしたのだ。後の世のガーディアン・ドラゴン殿、どうか… 一部破損 …この世を救って下さい。


 これからも、どうぞよろしくお願い致します。

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