第一部 第二章 Re
宝箱の示したものが少年を動かしていた。
だが、その一方、密かな怪しい動きが…。
分岐路に来て、ソイソーは迷わず左の方へと行った。腕の中のショー=サナエは、戻るなら右じゃないの、と言いたそうな様子で、翼で見えなくなっていく通路の方を指した。一緒に、声も掛けようとして顔を上げたが、ソイソーの顔に圧倒されてショー=サナエはその気がなくなってしまった。しかし、少年の今の顔は相手に脅威を与えるような怖い顔ではなかった。反対に、とても楽しそうな顔をしていた。ショー=サナエは翼を引っ込めてそのまま小さくなると、少年の真似をし始めた。その少年は、手に強い温かみを感じていた。自分が長い間探し求めていたものが近くにあるんだ、という思いと重なって、ソイソーは今、体が非常に熱くなっていた。
右に折れた所を曲がって、再び、少年は加速した。それからすぐに広間が見えた。
「さっきの霧の広間?」視界の正面と左側は全く同じ造りであり、少年が見覚えのあるものだった。そして、少年は右側を見た。これまたはっきりと頭の中に残っている一つの通路が、そこにあった。
「ひょっとして、サナエ。」
「サナ?」
「霧が吹いてた広間で最初、一人で歩いて行ったんだよね。あの時って、今来た路を通って帰ってきたの?」
「サー…、サナエ。」
「ふーん。結構長いよねぇ。走ってきたの?」
「サーー……、サナエ。」
「そっかー。でも、これであと行ってない路はあと…、」ソイソーは耳と目を集中させて広間を眺めた。右から左へと一様に首を動かしていった。途中、少しその動きを返しながら左目を軽く擦ったが、まず、少年は左側までを見終えた。その後、首が下に動いた。「あと一箇所だけ、だよね?」
「サナエ、サナエ!」 「やっぱり…、そう思う?」
少年の声の直後、ショー=サナエの首の動きが止まって、翼は一つの所を指し示した。少年の目は、それが少し遠い為か、まだはっきりと捉えられていなかった。広間の中央付近だった。赤い、行き止まりの広間の地面を思わせるものだけが見えていた。
少年は中々足を前に出そうとはしなかった。小さな靴がピクッ…ピクッとしか動かせず、まるで緑と青が合わさったような金属の覆いが被せられているような状況だった。それを感じ取ったショー=サナエは、急かすように、少年の手を翼で叩いた。ソイソーは逆の手で頭を撫でると、何とも重々しく一歩だけ踏み出した。ザッ、という音はしなかった。広間に霧は無く、それは少年も分かっていた。分かっているなら進め、それは別ものだ、そのような声も聞こえたような気がして、少年は前進を続けた。ここにある五つの通路の内、二つの所から風の吹くような音がする以外は、広間は至って静かであった。静か故に、少年の足は遅い速度を保っていた。耳はどこかの大きな音を感じている風であった。目はこの広間を映していて、視線を落としつつ前を見ていた。床は近かった。そして、ようやく、ソイソーの視界は鮮明にそれを捉えた。今、二歩手前に居た。薄茶色の地面に、はっきりと赤い、インクとも光とも認識できるものが生じていた。左の足が地面に着いた。それが作り出しているのは、ソイソーが見たことのない、複雑な模様であった。ソイソーの右靴がその模様に触れた瞬間、
「これは…!?」 「サーナ!」
薄茶色の地面は足先だけという、可笑しな靴跡のみを残していた。
一方、その頃。
「今のは…?」 「気にするな。大方、蛇か鼠が水ン中に落ちた音だろう。」
薄暗い部屋の中には二人の男が居た。彼らは頭から足首まで達している黒い服を身に着けていた。そして、彼らの居る部屋も明るいものではなかった。四角い机の二辺、対の位置に椅子があり、それを少し下げた所にもう壁があるような狭い部屋、そこの灯りは一本の蝋燭だけで、机には数枚のパペルが散在していた。椅子の無い二辺の内、片方はすぐドアと壁、その壁は木材を繋ぎ合わせただけのもので、所々ある隙間からは灰色の物質が見えていた。残りの一辺は壁まで僅かな空間があって、そこを利用して、壁に、様々な服や道具が掛けられていた。掛けられた物の量は相当の多さで、雑に見える壁の造りは意外に丈夫なものであった。
「昼過ぎに来た荷物は全て確認したな?」
「はい。今回届きました荷物は…、
『WB37SN・PA46SN・BK127TO・HS31MD・KJ50SN・IS200PP』
…以上です。」
「『PS』と『HP』はどうした?」
「報告によりますと…、半年前の『HC』の横流しが失敗終わった件、その影響がまだありまして、来るのは来月になりそうです。」
「三月のあれか…。まったく、あれのせいでこちらは、計画が半年も先延ばしとなった。キィーバにはその礼をたっぷりしてやらないとな。」
「もちろんです。」
「ところで、次はいつか分かっているな?」 「ちょうど一週間後です。」
「そっちの方も怠るなよ。」
「はっ。」
これからも、どうぞよろしくお願い致します。




