第一部 第二章 Wa
前回投稿から随分間隔が空いてしまいました。申し訳ありません。それと、今回から、本文に繋がってくる小話の記載を休止させてもらいます。万が一にも読んでくださる方がいらしたら、どうかご容赦ください。
それでは、本文をどうぞ。ショー=サナエを抱えたソイソーが、二股の通路を左に進んだ所からです。
「どうしたの? 腹減った?」ショー=サナエはそわそわしながら少年の方を向いていた。口のパクパクはまだ続いていた。
「サナエ。」少年達は次の広間が見え始めた所まで来ていた。もうちょっとだからね、という意味で頭を撫でながら前進を続けようとすると、ショー=サナエは少年に翼を差し出してきた。足を停めて下を向くと、その表情は普段見せないようなものであった。お腹が減ってそこまで悲しい顔をしたこと無かったよね、というくらいの、何か切実なものがあっての行動にも見えたのだった。仕方なく、ソイソーはこの場所で休憩することに決めた。
ショー=サナエを降ろしてから、少年もしゃがんで、背負っているもの、身に着けているものを地面に置いていった。それから、手際よくリュックの口を開くと、例の一番大きな袋を取り出した。それを膝の上に載せて手を中に突っ込み、無造作に五個のお菓子を取り出した。ショー=サナエはお行儀よく座っていたが、お菓子を見ると、翼が活発に動き出した。ソイソーはショー=サナエが静かになるのを待って、ショー=サナエはその姿勢にすぐ反応してただ翼を差し出すだけの態勢になった。ソイソーはそこに三個のお菓子を置いた。いずれも包みのあるお菓子であった。ショー=サナエはそれらを一旦地面に置いてから、一個を翼で掴んだ。そして、その包みを翼で支えながら嘴を使って丁寧に剥がしていった。お菓子の扱いは大変上手であった。食べる時も、翼で一個一個を掴んで嘴に持っていくという形で、それらを平らげていった。
「本当に旨そうに食うねえ、あっ、落ちたよ。」ショー=サナエは地面に転がったチョコを嘴で素早く拾い上げて左の翼に置いた。すると、右の翼でお腹の中から何かを取り出すような仕草を見せた。少年は一瞬、ドキッとした。出てきたら、一週間の間気付くことがなかった新発見であったからだった。ただ、もちろん、そのようなものは無いのであった。どうやらショー=サナエはその仕草で、これから自分の翼をブラシみたいにするよ、ということを言いたかったようなのだった。驚いて少々呆然とさせられていた少年も、その動作を見るまで、何が始まるのか分からない状態であった。予告通り、落ちたチョコに右の翼で高速の掃き掃除を施して、ソイソーは思わず、アッ、と言ってしまった。ショー=サナエは再び、満面の笑みと共にチョコを食べていった。一連の様子を見ていたソイソーはいつの間にか、地べたに座り込んでいた。ショー=サナエが最後の一個を嘴に収めた時には、ソイソー自身が袋の中を物色しているところであった。
「サナエ、サナエ。」
「ん、ダメ。後に取っておくから。」 「サナ…。」
一転して、がっくりと頭が垂れるショー=サナエの姿を見ると、少年は二個だけお菓子を口にしてから、残りはすぐに仕舞ってしまった。ゴミをまとめてる時に、ショー=サナエが再び話し掛けてきた。
「サナエ、サナエ。」
「ん、どしたの?」少年が顔を向けると、ショー=サナエは頭部をゆっくりと前方に傾け始めた。微かに爪先立ちの状態となって、更に、顔を下に向けていった。
ショー=サナエはソイソーと意思疎通を行う時に、出てくる声は「サナエ」だけなので、ちょっとした身振り翼振りを交える等して、自分の言おうとしていることをはっきりと表現しようとしていた。でも、それで通じるのは簡単な会話、「(おなかがすいた)」・「(あれは何?)」・「(これは嫌)」・「(…をしたんだけど)」といったようなものだけだった。それよりも高度なものは、こんな感じに絵を描いて、より視覚的に訴えていた。
「サー…、ナー……、エ。」書く度にも声は出ていた。間を空けてわざわざ嘴を開いていた。
「これは、人…か?」黄色い嘴の先っちょでショー=サナエが描いたのは、髪が長く、肩から膝下まである非常に丈の長い服を着た者だった。それで描き終わりかと思われたが、今回は中々芸が細かかった。顔には目を入れて、身に着けている物にはいくらか皺のような線も加えていった。ひとまず、作業は中断された。しかし、
「えーっと…、」ソイソーは頭を斜めにしていた。ショー=サナエもそれに合わせて顔を傾げた。その後すぐに、付け足しをし始めた。
「サー…、ナー…。」
「なんだ? 手を前にして……、掛け声…ああ、もしかして、仙人様を言ってる?」
「サー、サーナエ。」ショー=サナエは勢いよく頷いてから、更に、動きを加えていって自分の言いたいことを伝えた。
「んー…と、『仙人様のところに行ってどうすんの?』って?」
「サナ、サナ。」
「それはもちろん、修行させてもらう為だよ。仙人様は、武術とか気功とかの技が凄くて、メチャクチャ強いんだ。それは分かる?」
「サー…サナ、サナ。」
「でも、それだけじゃないんだ。僕が調べたところだと、仙人様は魔法が使えて、それでね、剣が強いんだよ。剣はただの剣術じゃないよ。新剣術 -『新キィーバ剣術』の略語。剣を扱う者達はこう呼ぶことが多い- だよ。ここで教わることができれば、他の部員達の誰よりも早く、新剣術をマスターできるんだよ。そして、武術の技と気功の技も一緒に教えてもらって、僕はキィーバ一…いや、グレートサウスト一の剣士になるんだ!」少年の両手にはまだ見ることのできない刃も握られていた。ソイソーの目にはその全てが映し出されていた。ショー=サナエは高い所を眺めてから、嘴を開いた。
「サナ? サナエサナ、サナエ?」そして、一生懸命に翼をバタつかせながら飛び跳ね、また、羽撃かせるだけではなく、翼を上下に激しく動かした。
「ん? あー……そうか。サナエはキィーバしか分からないのか。『グレートサウスト』っていうのは、…えーっと……、んー…と…。」少年は頭を掻き出した。机と人が沢山ある部屋の記憶を思い出す為に、いつかの出来事ではないが、少し唸るような声を出した。ショー=サナエはその間、翼を縦にしてひたすら横に振っていた。それでも、少年は自分の世界に入ったままだった。そこで思いの外、時間が過ぎてしまった。ショー=サナエが翼を振るのを止めて、更に数十秒の時が流れて、ようやく、ソイソーは数週間前に先生が話した内容を頭の中に登場させることができた。
「うん、思い出したよ。『グレートサウスト』っていうのは、ここの大陸、えーっと…その名前は出てこないんだけど -因みに『ウォースレー大陸』である- 、そこをおさめている人のつくった国の名前なんだよ。グレートサウスト。…あれ、どうしたの? 首振って。」
「サナエ…。」ショー=サナエは、ソイソーが少し長いなあと感じるくらいの時間、首を横に振り続けた。首振りが止まると、嘴が小さく開け放たれたままになって、何度も呼吸を繰り返す音が微かに聞こえた。嘴が閉じられると、ショー=サナエは少年の真似をするように、翼で頭を撫でながら何か頭を使っている仕草を見せた。その後すぐに、ショー=サナエは先に見せた、翼を前に突き出す格好をして、
「サナエ、サナエ。」と聞いてきた。少年はすぐに、でも、素っ気なく反応した。
「ああ、魔法? いいよ…、使えなくても困らないもん。」ソイソーはそれだけを言うと、まとめていたお菓子のゴミを押し込むようにリュックに入れ、そのリュックを勢いよく左手で持ち上げて、そのまま奥に見える広間の方へと歩いていってしまった。ショー=サナエはちょっとの間、呆然と同じ方向、茶色の壁を見ていた。だが、すぐに、自分の足が遅いことを思い出したのか、真ん丸の目を縦長にしてもの凄い足の動きを見せながら、ソイソーの方へ走っていった。もちろん、翼も水平方向に広げられていた。その甲斐あってか、ショー=サナエはソイソーと出会ってから初めて、自分の足でソイソーの所へと辿り着くことができた。少年は自分の足元にやって来たショー=サナエを空いた右手で拾い上げると、ゆっくりとした足取りで、色が赤くなっていくこの通路を進んでいった。
これからも、どうぞよろしくお願い致します。




