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第一部   第二章    He

 テリーは最初、左の通路を行き、後、右の通路を行きましたが、いずれも不思議なことに、しばらく歩き続けるとこの広間に行き着いてしまうものだったのです。正解の通路はあるんでしょうかね?

 では、本文をどうぞ。

 少年の目にゆっくりと茶色の明かりが入り込んできた。それは、少年が普段目にする砂の色よりは確かに濃く、土の色よりは間違いなく薄い、何ともぼんやりとした茶色であった。辺りの明るさも大した強さのものではなかった。「暗」に「り」が付いて「あかり」と読む、そういった強さのものであった。少年は、広間が急に暗くなったから自分の目がおかしくなっちゃったんだ、と思い、左手で顔を叩いたり擦ったりしてみた。ヒリヒリした方とそうでない方の頬の上、少年の青い瞳は、少しして、そこに少し意外なものを映した。


 「これ…、壁…?」広間に入ってきてから、そのほとんどを自分は目にしたと思っていた少年であった。上を向いていなかったから天井がどうなっているかは分からないが、これがそれであるはずはないと、心の中で小さく確信していた。じゃあこの壁の色は…、そう思いながらソイソーはそれを触ってみた。その感触は曲がりくねった路にあった壁のものと同じであった。そして、そこに目を近づけてみると、その模様も、通路のものとほとんど同じであると分かり、更に、炎を通してソイソーの視界に入ってきた広間の壁の様子とも、非常によく似たものであるのだった。今、少年の目にしている壁は、それと見て明かりと分かる物が見当たらないこの広間の中で、自身の色をうっすらと表し続けていた。


 しばらく、ソイソーは周りの茶色い所を見廻し続けた。顔だけが水平や上の方を向いた状態で、ソイソーは魔法蝋を地面に置いた。置いた時に、二つの音がした。少年が聞こえたのは、コツ、という音だけだった。それから、再び、少年は一番近くの石垣へと近づいていき、その岩肌を触ってみた。近くに置かれたリュックの中から、ショー=サナエはその様子をじっと見ていた。ソイソーは、一歩進んでは、そこの上から下までを見ていって、押したり軽く叩いたりして何か反応があるかを熱心に確認していった。


 今なら外に出られる、といったようなことをショー=サナエは思ったに違いない。リュックの大きく出っ張っているところが不規則に動き出した。すると、すぐに、布に包まれた長い棒状の物がリュックの口から、そろり…そろり…と、音も無く外に出始めた。そして、大きな出っ張りが、ガサガサ、音を立てながら移動していき、ショー=サナエはリュックからの脱出を果たした。そのことに気付いていない少年は、小さく足を右に進めながら眼前の不思議を依然調べ続けていた。十数歩の間、少年の行動に対してその茶色い壁は少しの反応も返さなかったが、また一歩横にずれようとして右を向いた時だった。ソイソーの目に違う色の広がりが映った。


 「……? いや、路だ。」少年は大きく開いた足をゆっくりと閉じていった。ショー=サナエは少年の足が閉まったところで動きを止めた。反時計回りに進んでいた少年はしばらく、その通路を見て腕を組んでいたが、一言、「さっきのとこだな、これ。」と言ってから、再び、同じ方向に足を進めていった。


 ショー=サナエはそこに立ったままだった。相変わらずの、座っているのか立っているのか見分けのつきづらい風体ではあったが、今は、間違いなく立っている状態であった。そんなショー=サナエは前方に広がる薄明るい暗闇の方へ体を向けていた。黄色い嘴は完全に閉じられ、瞬きは少なかった。どこから来る風なのか、ショー=サナエの両翼の羽毛が、そのほんの先端だけを波打つようにして揺れていた。離れたところに居る少年が足に冷気を感じて小さく身震いを感じた。しかし、ショー=サナエはただ前を見ているだけだった。少年が十歩進むまでそうしていた。その後、次に、ショー=サナエは下を向いたまま動かなくなった。少年は未だ、ショー=サナエの一連の行動に気付いていなかった。


 「ここにも路が…。」ソイソーは広間の半周と少しを廻ったところだった。そこに二つ目の通路があった。一つ目の通路を目にした時と同様に、しばらくそこで足を止めていた。その間、少年は頻りに(もも)を掻いていた。合わせて、何かを覗き込むように、頭を前方に突き出す仕草をしたが、ソイソーは自分のこの行動が変に虚しく感じられた。ようやく、自身に、この通路は恐らく何でもないぞ、ということを言い聞かせて、それを足にまで染み渡らせると、再び、少年は反時計回りに広間を見始めた。そして、足を右横に移動させること数回、ソイソーは右の靴先に、モフン、という不思議な感覚が伝わるのを感じた。


 「何だ、今のは!? ……って、サナエか!」


 「サナエ。」(なあに)ぃ、と言われている感じを受けた少年は、「いや、…別に…。」としか答えることができなかった。二十分近くも狭い袋の中で我慢してたんだったら、いきなり走り出すということが無い限りは自由にさせておこう、と少年は思った。もっとも、走られても少年なら歩いて追い付いてしまうのだが。


 ソイソーはその後も、調子を変えずに壁を見ていった。間もなく、右斜め後ろに魔法蝋が見えてきた。ソイソーは広間を一周した。振り返って小さく息を吐いた。真下にある魔法蝋にもし炎が点いていたら、今の息で消えるのかな、と少年はふと思った。そのまま、ソイソーは無表情で立ち尽くしていた。満足感が全く無いわけではなかった。だが、面に出すようなものは何も無かった。ソイソーは自分でも分かっていた。この作業が単に自分の好奇心から始まったこと、だということが。すぐに判断の付くものもあったが、判らないものは判らないまま、いざという時の自分に任せればそれでいいのであった。


 この広間にも四つの通路があった。ソイソーは「(この広間は多分、暗くなる前の広間と同じ所なんだよ)」と思っていた。そんなソイソーが見たこの広間は次の通りだった。まず、来るまでに通ってきたと思われる通路、これを十二時の方向にあるとする。(因みに、キィーバは南半球にある為、時計回りは通常の逆となっている。他の各地域もそのほとんどが北か、南か、それに応じた時計を使用している。)すると、四時半辺りの所に幅の広い通路が、六時の所に十二時方向のものと同じような形の通路があり、そして、七時半辺りの所に四つの中で一番狭い通路があった。


 六時の所に立っていたショー=サナエは今、中央のリュックの近くできちんと座っていた。ソイソーと目が合うと、体ごと向きをリュックの口のほうに廻し始めた。その行動に対して少年は首を振って応じた。自分がリュックの方に歩いていくと、無造作に開け放たれたリュックの中にただ白いだけの魔法蝋を入れた。他はそのままにして、ソイソーはリュックの口を閉じてしまった。


 「あの三つの内のどれだと思う?」少年はショー=サナエの方を向き直してこう聞いた。


 「サナエ?」ショー=サナエは違う方を向いて翼先で唯一つの通路を指した。

 「あっちは今通ってきた路だよ。この三つの内のどれかだけが正解の路だと思うんだよね。」


 「サー…、サナエ!」そう言われて、ショー=サナエが指したのは、三つの内で左側にある幅の狭い通路だった。少年はその方向を軽く眺めたが、首を振りながら視線を戻した。


 「あっちは違うと思うよ。あの路はうちの兄ちゃんぐらいまでの人しか通れなさそうな広さだからね。正解の路は誰でも通れるような広さの幅があると思うんだ。」


 「サー…、サナエ!」次にショー=サナエが選んだのは、三つの内で右側にある幅の広い路だった。ソイソーはその指した方向に察しがついて、顔の向きを変えることはしなかった。ただ首を横にしたままで、しばらく悩んでいた。そして、

 「そっちはねえ……、怪しいとは思うんだけど…、ハズレな気がする。」


 「サナエ?」

 「うーん……、何かさあ…、幅が変に広いでしょ、他と違って。それが危ない気がするんだよね。ほら、大きく口を開けた魔物(エヌスター)みたいじゃん。」


 「サナエ、サナエ。」嘴に気をつけてショー=サナエは二度頷いた。そして、選択肢の中で残された最後の通路へと体を向けた。一拍の間を空けて、ショー=サナエは、ペタペタ、と音を出しながら妙に堂々と歩いていった。十数秒という時間を掛けてから立ち止まると、そこにあった薄明かりを伴う奥行きある闇の空間を、両方の翼で羽撃(はばた)くようにして指した。


 「サナエ、サナエ!」 「本当に最初からそれだと思ってた?」


 行く路は決まった。ソイソーは六時の所を向いたままもう一度容量の減ったリュックの口をしっかりと閉め直してから、ゆっくりと背負った。もう一つの物は右の手に持って、少年はまず、立ち上がった。それから、両手を後ろに持っていくと、それを右腰に、その大部分が前からは隠れるようになる形で身に着けた。ふと、少年の体が後ろにふらついて、そのまま四歩も後退してしまった。後ろを向きかけたが、顔が少し左に向いたまま停まって、再び前を向いた。ショー=サナエは少し前から歩き出していたようだった。ソイソーもすぐそこに、五歩で追い付いた。そして、ショー=サナエを両手で持ち上げた。


 「サナエの歩幅に合わせてたら暗くなっちゃうからね。」


 「サナエ。」


 これからも、どうぞよろしくお願い致します。

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